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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
22・気づいていても
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****♡Side・社長秘書(神流川)
社長の様子がオカシイ。
もっとも言動がおかしいのはいつものことではあるが。
神流川は社長の宿泊する部屋を出て自分の泊る部屋へ向かう。その途中で吹き抜けとなっているホテル中央の欄干に近づくと、ロビーを見下ろした。
特に気になる人物がいるというわけでもない。
ただ、先日の会合で会った相手の会社の社長と秘書のことは気になっていた。皇を酔わせて餌にし、どこかの部屋へ社長をおびき出したらしいが、目的が何かまだ分かってはいない。
ぼんやりとロビーを見下ろしながら先ほどの皇の様子を思い出す。
彼は喉が痛いと言って自動販売機を探していた。立てた襟元を見て、風邪でも引いたのかと思ったが。
皇は飲み物を受け取りはしたが薬については口にしなかった。神流川がいつも常備薬を携帯してることを知っているにも関わらずだ。
──まさか……。
いつもなら報告もせずに皇を帰してしまう神流川に対し、嫌味の一つも零すのが呉崎だ。
しかし彼は皇が無事に帰れたかを気にしていただけだった。
神流川は額に手をやるとぎゅっと瞼を閉じる。
どうして皇の傍に居てやらなかったのか。今更ながら後悔の念に駆られた。
皇が何も言わなかったのは、知られたくなかったからだろう。
唯野が部下を動かし皇を守るために尽力してくれているのだ。会合先で再び社長から性的な行為を求められ事に及んだとしたら、きっと申し訳ない気持ちでいっぱいに違いない。
今自分にできるのは知らないふりをすることだけ。
けれども、好きな人のために何もできない無力な自分自身に悔しさがこみ上げる。
──塩田さんに恋をしてから皇さんは、より魅力的になった。
以前の彼になら、社長も黒岩もここまで必死にならないはずだと思う。
柔らかく笑うようになった皇。愁いを含んだあの瞳に魅了される。
思い出してはいけないと思いながらも、以前見たあの光景が忘れられない。社長の腕の中で甘い声上げる彼。白い肌がピンクに染まり、己の欲情を煽った。
あの光景を思い出す度いけない衝動に駆られる。
身体は素直だ。熱を帯びる中心部が彼を欲しがっていた。
だが彼は手に入らない。どんなに欲しがっても。
神流川はぎゅっと拳を握ると廊下の方へ身体を向け、ため息をつく。
今しなくてはならないのは自分の熱の処理ではない。何かを企てているあの二人を調べることだ。
部屋に置いてきたスケジュール帳をチェックすれば会合先の会社名と相手の名を確認できる。
──まずは無難に検索にかけてみますか。
神流川は利便性を考えて呉崎の部屋の傍にとってある部屋へ向かう。秘書室長なら、何か情報を掴んでいるかもしれないと思いながら。
部屋に着くと、オートロックであることは分かっていたが念のために鍵を確認する。日本はもう安全な国ではないのだ。
どんなにフロントでチェックしていようが曲者は入り込む。
神流川はふと、不用心なことはしないで欲しいと呉崎に告げた時のことを思い出す。
『神流川君。日本は確かに平和ボケをしてはいる。けれども、日本以上にちゃんとしている国はないと思うんだ。つまり、襲われるときはどんなに用心していても襲われるんだよ。相手はターゲットを絞り、綿密に計画を立てているだろうからね』
彼は”突発的な事故や事件は、それよりはるかに防ぎようがない”とも言っていた。
──それでも用心しない理由にはならない。
何かあってからでは遅いのだ。
『僕の代わりなんて、いくらだっているんだよ』
呉崎ならきっと、そう言うだろう。
皇への行動がおかしいだけであって彼はやり手。呉崎だからついてきたという社員はたくさんいるのだ。本人はまったくわかっていないようだが。
──自分だってそのうちの一人だ。
あの人の采配あっての我が社だと思う。
社長の”人を見る目”は本物だ。
社長の様子がオカシイ。
もっとも言動がおかしいのはいつものことではあるが。
神流川は社長の宿泊する部屋を出て自分の泊る部屋へ向かう。その途中で吹き抜けとなっているホテル中央の欄干に近づくと、ロビーを見下ろした。
特に気になる人物がいるというわけでもない。
ただ、先日の会合で会った相手の会社の社長と秘書のことは気になっていた。皇を酔わせて餌にし、どこかの部屋へ社長をおびき出したらしいが、目的が何かまだ分かってはいない。
ぼんやりとロビーを見下ろしながら先ほどの皇の様子を思い出す。
彼は喉が痛いと言って自動販売機を探していた。立てた襟元を見て、風邪でも引いたのかと思ったが。
皇は飲み物を受け取りはしたが薬については口にしなかった。神流川がいつも常備薬を携帯してることを知っているにも関わらずだ。
──まさか……。
いつもなら報告もせずに皇を帰してしまう神流川に対し、嫌味の一つも零すのが呉崎だ。
しかし彼は皇が無事に帰れたかを気にしていただけだった。
神流川は額に手をやるとぎゅっと瞼を閉じる。
どうして皇の傍に居てやらなかったのか。今更ながら後悔の念に駆られた。
皇が何も言わなかったのは、知られたくなかったからだろう。
唯野が部下を動かし皇を守るために尽力してくれているのだ。会合先で再び社長から性的な行為を求められ事に及んだとしたら、きっと申し訳ない気持ちでいっぱいに違いない。
今自分にできるのは知らないふりをすることだけ。
けれども、好きな人のために何もできない無力な自分自身に悔しさがこみ上げる。
──塩田さんに恋をしてから皇さんは、より魅力的になった。
以前の彼になら、社長も黒岩もここまで必死にならないはずだと思う。
柔らかく笑うようになった皇。愁いを含んだあの瞳に魅了される。
思い出してはいけないと思いながらも、以前見たあの光景が忘れられない。社長の腕の中で甘い声上げる彼。白い肌がピンクに染まり、己の欲情を煽った。
あの光景を思い出す度いけない衝動に駆られる。
身体は素直だ。熱を帯びる中心部が彼を欲しがっていた。
だが彼は手に入らない。どんなに欲しがっても。
神流川はぎゅっと拳を握ると廊下の方へ身体を向け、ため息をつく。
今しなくてはならないのは自分の熱の処理ではない。何かを企てているあの二人を調べることだ。
部屋に置いてきたスケジュール帳をチェックすれば会合先の会社名と相手の名を確認できる。
──まずは無難に検索にかけてみますか。
神流川は利便性を考えて呉崎の部屋の傍にとってある部屋へ向かう。秘書室長なら、何か情報を掴んでいるかもしれないと思いながら。
部屋に着くと、オートロックであることは分かっていたが念のために鍵を確認する。日本はもう安全な国ではないのだ。
どんなにフロントでチェックしていようが曲者は入り込む。
神流川はふと、不用心なことはしないで欲しいと呉崎に告げた時のことを思い出す。
『神流川君。日本は確かに平和ボケをしてはいる。けれども、日本以上にちゃんとしている国はないと思うんだ。つまり、襲われるときはどんなに用心していても襲われるんだよ。相手はターゲットを絞り、綿密に計画を立てているだろうからね』
彼は”突発的な事故や事件は、それよりはるかに防ぎようがない”とも言っていた。
──それでも用心しない理由にはならない。
何かあってからでは遅いのだ。
『僕の代わりなんて、いくらだっているんだよ』
呉崎ならきっと、そう言うだろう。
皇への行動がおかしいだけであって彼はやり手。呉崎だからついてきたという社員はたくさんいるのだ。本人はまったくわかっていないようだが。
──自分だってそのうちの一人だ。
あの人の采配あっての我が社だと思う。
社長の”人を見る目”は本物だ。
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