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────7話*彼の導く選択
2・車内の中で
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
──今頃ヤっちゃってるのかな……。
電車は心の中でため息をつくと板井たちに軽く手を振って車に乗り込んだ。
嗾けたのは自分なのだから、そうなっていたとしても自業自得だ。
『そういう選択肢もあるってことだよ』
慰め方にはいろいろあるだろう。塩田は何があったのかわかっていないだろうが、電車には皇に何があったのか予想はついていた。
今日の会合には総括の黒岩も参加することを電車は課長唯野から聞いてしっている。黒岩は最近、皇にご執心。社内では皇に避けられている状況。今回の会合を利用しない手はない。
なにせ会合先は某ホテルの一角を借りて行うわけだから。
だが、社長がそれを許すわけがないのだ。
──長時間連絡が出来ない状況なんて、この場合想像がつく。
鈍感な俺にでも。
社長に手籠めにされそうな皇を魔の手から守るのが自分たちの任務だった。今回は社長秘書の神流川も同行しているから大丈夫だと本人は言っていたが、大丈夫ではなかったのだろう。
「俺は間違ってない」
電車は車のハンドルに突っ伏すと、誰にともなく呟く。
そもそも課長唯野からの指令の内容が突飛なのだ。恋人のいる塩田に対し、皇を抱けというのだから。
副社長の皇はまるで王様のように振舞ってはいるが、それは社長の趣向に過ぎないらしい。根は真面目であり、家庭環境のせいで承認欲求の強くなってしまった良家の長子。見目麗しい、立ち居振る舞いの優雅な男なのだ。その上、童顔。
──ネコだったのは想定外だけれど。
まさか塩田を襲った相手がタチではなくネコだったことには電車も驚いた。だが、よく考えたら納得する部分は多い。
『紀夫がいないのに?』
そういう慰め方について説明した電車は不安そうにこちらを見る塩田にちゅっと口づけた。
『大丈夫、これは浮気じゃない』
『でも……』
さすがに電車がいないところでの行為には躊躇するのか、塩田は目を泳がせている。
そんな彼の腰を引き寄せ、何度も口づけた。
それが欲情に変わる頃、塩田は涙目でこちらを睨みつけたのだ。
『酷いぞ、こういうやり方は』
”俺にだって性欲くらいはある”と胸をグーで一つ打たれ、電車は小さく微笑む。それでいいとでも言うように。
そうなることに関しては後悔はしてはいない。
ただ、塩田の意思に反することをした自覚はある。
自分とて、愛する彼に望まないことをさせたくはないのだ。
──やっぱり、課長はどうかしていると思う。
唯野が塩田に任務を言い渡したとき、彼はまだ塩田に気があったはず。それにも関わらず、こんなことをさせようとしていたのだから。
どんな精神の持ち主だよとツッコミを入れるものの、相手が板井だったら唯野はこんなことはさせないのだろうなとも思う。
先ほど二人が買い物をする様子を眺めていた。
今までは板井が一方的に唯野を慕っていたのだと思っていたが、二人の様子を見ていた電車はそれは違うのではないかと思ったのだ。どちらかと言うと、唯野が強く板井を必要としているように見える。それに応えようとする板井。
電車の目にはそんな風に映った。
──なんか、見ていて恥ずかしくなっちゃうくらいラブラブなんだよねえ。
電車と塩田も常にイチャイチャしている自覚はあるが、塩田はそもそも反応の薄い男。板井も唯野も穏やかな方だとは思うが、あんな風に言葉にもせずにイチャイチャしているように見せるのは相当なものだと思う。
──まあ、仲が良くて何よりだけれど。
さて帰るかと顔を上げると、車内の時計の表示が目に留まる。どうやら家を出てからすでに一時間半が経っていた。予定時間を大幅にオーバーしている。
約束事には煩い塩田のことだ。慌ててスマホに目をやると、一件の通知。
怒っているからと何件も寄越さないのが彼だ。
ロックを解除してメッセージに目をやると、案の定ご立腹。
『お前の一時間は何時間だ、日が暮れるぞ』
と一言。
「いや、もうとっくに夜だから!」
メッセージにツッコミを入れると電車は慌てて車のエンジンをかけたのだった。
──今頃ヤっちゃってるのかな……。
電車は心の中でため息をつくと板井たちに軽く手を振って車に乗り込んだ。
嗾けたのは自分なのだから、そうなっていたとしても自業自得だ。
『そういう選択肢もあるってことだよ』
慰め方にはいろいろあるだろう。塩田は何があったのかわかっていないだろうが、電車には皇に何があったのか予想はついていた。
今日の会合には総括の黒岩も参加することを電車は課長唯野から聞いてしっている。黒岩は最近、皇にご執心。社内では皇に避けられている状況。今回の会合を利用しない手はない。
なにせ会合先は某ホテルの一角を借りて行うわけだから。
だが、社長がそれを許すわけがないのだ。
──長時間連絡が出来ない状況なんて、この場合想像がつく。
鈍感な俺にでも。
社長に手籠めにされそうな皇を魔の手から守るのが自分たちの任務だった。今回は社長秘書の神流川も同行しているから大丈夫だと本人は言っていたが、大丈夫ではなかったのだろう。
「俺は間違ってない」
電車は車のハンドルに突っ伏すと、誰にともなく呟く。
そもそも課長唯野からの指令の内容が突飛なのだ。恋人のいる塩田に対し、皇を抱けというのだから。
副社長の皇はまるで王様のように振舞ってはいるが、それは社長の趣向に過ぎないらしい。根は真面目であり、家庭環境のせいで承認欲求の強くなってしまった良家の長子。見目麗しい、立ち居振る舞いの優雅な男なのだ。その上、童顔。
──ネコだったのは想定外だけれど。
まさか塩田を襲った相手がタチではなくネコだったことには電車も驚いた。だが、よく考えたら納得する部分は多い。
『紀夫がいないのに?』
そういう慰め方について説明した電車は不安そうにこちらを見る塩田にちゅっと口づけた。
『大丈夫、これは浮気じゃない』
『でも……』
さすがに電車がいないところでの行為には躊躇するのか、塩田は目を泳がせている。
そんな彼の腰を引き寄せ、何度も口づけた。
それが欲情に変わる頃、塩田は涙目でこちらを睨みつけたのだ。
『酷いぞ、こういうやり方は』
”俺にだって性欲くらいはある”と胸をグーで一つ打たれ、電車は小さく微笑む。それでいいとでも言うように。
そうなることに関しては後悔はしてはいない。
ただ、塩田の意思に反することをした自覚はある。
自分とて、愛する彼に望まないことをさせたくはないのだ。
──やっぱり、課長はどうかしていると思う。
唯野が塩田に任務を言い渡したとき、彼はまだ塩田に気があったはず。それにも関わらず、こんなことをさせようとしていたのだから。
どんな精神の持ち主だよとツッコミを入れるものの、相手が板井だったら唯野はこんなことはさせないのだろうなとも思う。
先ほど二人が買い物をする様子を眺めていた。
今までは板井が一方的に唯野を慕っていたのだと思っていたが、二人の様子を見ていた電車はそれは違うのではないかと思ったのだ。どちらかと言うと、唯野が強く板井を必要としているように見える。それに応えようとする板井。
電車の目にはそんな風に映った。
──なんか、見ていて恥ずかしくなっちゃうくらいラブラブなんだよねえ。
電車と塩田も常にイチャイチャしている自覚はあるが、塩田はそもそも反応の薄い男。板井も唯野も穏やかな方だとは思うが、あんな風に言葉にもせずにイチャイチャしているように見せるのは相当なものだと思う。
──まあ、仲が良くて何よりだけれど。
さて帰るかと顔を上げると、車内の時計の表示が目に留まる。どうやら家を出てからすでに一時間半が経っていた。予定時間を大幅にオーバーしている。
約束事には煩い塩田のことだ。慌ててスマホに目をやると、一件の通知。
怒っているからと何件も寄越さないのが彼だ。
ロックを解除してメッセージに目をやると、案の定ご立腹。
『お前の一時間は何時間だ、日が暮れるぞ』
と一言。
「いや、もうとっくに夜だから!」
メッセージにツッコミを入れると電車は慌てて車のエンジンをかけたのだった。
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