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────7話*彼の導く選択
3・思い悩む彼と
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****♡Side・電車(同僚・恋人)
「ただい……」
「遅いぞ、紀夫」
電車がドアを開け玄関に一歩踏み出したところで、塩田の不機嫌な声。顔を上げれば、塩田が腕を組み上り口からこちらを見下ろしている。
──この家の玄関マンションにしては上り口高くないか?
十五センチくらい高くなっているため、いつもは塩田を見下ろすことが多い電車は見下ろされていた。お怒りの塩田には良いシチュエーションだろう。
「お小言?」
小さく笑って彼の正面で両腕を軽く広げればぎゅっと抱き着かれる。
「お前の一時間は二時間なのか? 俺とは違う時間の流れで生きてるんだな」
遅かったことがよっぽど嫌だったのだろう。その背中を優しく撫でるとキスを強請られた。
「副社長は?」
「皇なら寝た」
”そっか”と言って塩田から離れると靴を脱ぐ電車。彼は一歩後ろへ。電車は場所を空けてくれたことに感謝しつつスリッパを履くと、彼の髪に手を伸ばした。
「じゃあ、抱っこしてあげようか?」
「じゃあってなんだ。断る。転んだら大惨事だ」
「そうだね」
皇はすでに寝ているという。その間に何かあったから彼は電車に早く帰ってきて欲しかったに違いない。
にしても、廊下で話していては寝ている皇を起こしてしまうだろう。
電車は塩田の手を掴むとリビングへ向かった。
このマンションは玄関から近い場所にトイレと風呂。客間が二つある。奥に進むとリビングダイニングキッチンがあり、リビングの隣にウオーキングクローゼットのあるベッドルームがあった。かなり広い造りだ。
かなりしそうだが、塩田が言うところによると元は親戚が購入したもので海外に転勤することになった為、格安で塩田に譲ったらしい。
──まあ、お父さんが宮殿建てるような家系だし。きっとお金持ちの親戚がいるのだろう。
ここの管理人はしょっちゅう塩田の家に来るが、彼女もまた親戚に管理人をやらないかと言われ軽い気持ちで管理人になったらしい。意外と塩田と管理人はどこかで繋がっているのかもしれないと電車は思った。
「紀夫」
「うん?」
ベッドに腰かけるなり抱き着いてくる彼を優しく抱きしめる。
”したの?”と聞きたい気持ちもあるが、聞くべきではないだろう。彼なりに思うことがあって、実行に移したに違いない。それが心に反していても。
「皇は……社長に逆らえない。それは、クビになるのが困るからとかそういうのじゃない」
もっとも、皇ほどのやり手ならどこの会社でもやっていけるだろう。
「例えば社長をパワハラやセクハラで訴えたとして、経営者が変わりやり辛くなるからとかでもない」
「う……ん?」
それは塩田が皇から聞いた話なのだろうか。何を説明しようとしているのか、いまいち掴めなくて電車は首を傾げてしまう。
「俺にはよく理解できないけれど、同情でもなく抑圧でもなく皇は社長に逆らえない」
「えっと、どういうこと?」
「嫌いじゃないんだよ。むしろ慕っている。でも、その気持ちには応えられないという感じらしい」
白黒はっきりしている塩田には理解したくてもできない曖昧なものらしい。
好きでないならきっちりと拒否すればいい。皇はそれができないから、逃げ回っているのだという。
「でも、そうなる原因になったのは”俺とのこと”があったから」
塩田が言う”俺とのこと”とは、皇が無理やり塩田を自分のものにしようとした例のことなのだろう。
彼は塩田に対し恋愛感情を抱いていることを自覚してからはそのことをとても悔いていた。
塩田の状況説明は要領を得ないが、皇が言いたいのは自分の状況は『罰』と同等なのだということなのだろう。自分が愛する人にそういうことをしてしまった。好きと言う気持ちから”力づくでも手に入れたい”という気持ちを理解している。
嫌いな相手ならばそれでも拒否することはできるだろうが、皇は社長を嫌っているわけではなく、むしろ慕っているので強く出られないということ。
「俺はどうしたらいい?」
「そうだねえ」
突然そんなことを相談されても、電車にはうまい答えが見つからないのだった。
「ただい……」
「遅いぞ、紀夫」
電車がドアを開け玄関に一歩踏み出したところで、塩田の不機嫌な声。顔を上げれば、塩田が腕を組み上り口からこちらを見下ろしている。
──この家の玄関マンションにしては上り口高くないか?
十五センチくらい高くなっているため、いつもは塩田を見下ろすことが多い電車は見下ろされていた。お怒りの塩田には良いシチュエーションだろう。
「お小言?」
小さく笑って彼の正面で両腕を軽く広げればぎゅっと抱き着かれる。
「お前の一時間は二時間なのか? 俺とは違う時間の流れで生きてるんだな」
遅かったことがよっぽど嫌だったのだろう。その背中を優しく撫でるとキスを強請られた。
「副社長は?」
「皇なら寝た」
”そっか”と言って塩田から離れると靴を脱ぐ電車。彼は一歩後ろへ。電車は場所を空けてくれたことに感謝しつつスリッパを履くと、彼の髪に手を伸ばした。
「じゃあ、抱っこしてあげようか?」
「じゃあってなんだ。断る。転んだら大惨事だ」
「そうだね」
皇はすでに寝ているという。その間に何かあったから彼は電車に早く帰ってきて欲しかったに違いない。
にしても、廊下で話していては寝ている皇を起こしてしまうだろう。
電車は塩田の手を掴むとリビングへ向かった。
このマンションは玄関から近い場所にトイレと風呂。客間が二つある。奥に進むとリビングダイニングキッチンがあり、リビングの隣にウオーキングクローゼットのあるベッドルームがあった。かなり広い造りだ。
かなりしそうだが、塩田が言うところによると元は親戚が購入したもので海外に転勤することになった為、格安で塩田に譲ったらしい。
──まあ、お父さんが宮殿建てるような家系だし。きっとお金持ちの親戚がいるのだろう。
ここの管理人はしょっちゅう塩田の家に来るが、彼女もまた親戚に管理人をやらないかと言われ軽い気持ちで管理人になったらしい。意外と塩田と管理人はどこかで繋がっているのかもしれないと電車は思った。
「紀夫」
「うん?」
ベッドに腰かけるなり抱き着いてくる彼を優しく抱きしめる。
”したの?”と聞きたい気持ちもあるが、聞くべきではないだろう。彼なりに思うことがあって、実行に移したに違いない。それが心に反していても。
「皇は……社長に逆らえない。それは、クビになるのが困るからとかそういうのじゃない」
もっとも、皇ほどのやり手ならどこの会社でもやっていけるだろう。
「例えば社長をパワハラやセクハラで訴えたとして、経営者が変わりやり辛くなるからとかでもない」
「う……ん?」
それは塩田が皇から聞いた話なのだろうか。何を説明しようとしているのか、いまいち掴めなくて電車は首を傾げてしまう。
「俺にはよく理解できないけれど、同情でもなく抑圧でもなく皇は社長に逆らえない」
「えっと、どういうこと?」
「嫌いじゃないんだよ。むしろ慕っている。でも、その気持ちには応えられないという感じらしい」
白黒はっきりしている塩田には理解したくてもできない曖昧なものらしい。
好きでないならきっちりと拒否すればいい。皇はそれができないから、逃げ回っているのだという。
「でも、そうなる原因になったのは”俺とのこと”があったから」
塩田が言う”俺とのこと”とは、皇が無理やり塩田を自分のものにしようとした例のことなのだろう。
彼は塩田に対し恋愛感情を抱いていることを自覚してからはそのことをとても悔いていた。
塩田の状況説明は要領を得ないが、皇が言いたいのは自分の状況は『罰』と同等なのだということなのだろう。自分が愛する人にそういうことをしてしまった。好きと言う気持ちから”力づくでも手に入れたい”という気持ちを理解している。
嫌いな相手ならばそれでも拒否することはできるだろうが、皇は社長を嫌っているわけではなく、むしろ慕っているので強く出られないということ。
「俺はどうしたらいい?」
「そうだねえ」
突然そんなことを相談されても、電車にはうまい答えが見つからないのだった。
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