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────7話*彼の導く選択
4・つたない慰め方
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****♡Side・副社長(皇)
『人間って言うのはとても複雑で、一途なだけじゃいられないこともあるんだよ』
眉を寄せ、困った表情をしてこちらを見つめる塩田に皇はそう告げた。
彼を不幸にしているのは紛れもなく、自分。
どうして塩田の直属の上司である唯野は、彼にこんな任務を科せたのか。どうして彼はそれに従うのか。
同情ではないと聞いているからか、余計にわからなくなったのだ。
わかってはいる。
唯野が皇を救おうとして塩田にこんな指令を出したことくらい。
だが彼は、少なからずも塩田に想いを寄せていたはず。
やはりどんなに考えても、唯野を理解することが出来なかった。
社長に逆らえない自分を棚にあげ、こんなことを考える自分もどうかしているのだろう。
もし自分が塩田に対してあのようなことをしなければ、跳ねのけることくらい造作もなかった。
──これは自分への罰なのだと思っている。
そんなこと思うべきじゃないのかもしれないけれど。
どうしたら償えるのかわからない自分には、こう思う他なかったのだ。
好きだからと言って皇に他に好いた相手がいることを知りながら体の関係を求める社長。そして塩田に恋人がいることを知りながら彼に抱かれる自分は同等。
何が違うんだと聞かれても答えることはできないだろう。
だから逆らえないのだ。
『俺に対して済まないと思う必要はない』
会合先で社長に抱かれて落ち込んでいる皇に塩田はそう言った。
『俺にはやっぱり、皇の言っていることがいまいち理解できない。自分が望むことをすべきなんじゃないかと思う。こうあるべきとかではなく』
塩田のように真っ直ぐ生きられたらどんなに良かったろう。
『皇は、俺にこんなことまでしてもらっているのに、裏切ったと思っているんだろう?』
『ああ。その通りだよ』
俯き、申し訳なさそうに返事をする皇。
『じゃあ、お前はさ。弁当を作ってもらって、デザートも食べたくなったからってコンビニで購入したら作ってくれた相手に済まないと思うのか?』
その例えは非常におかしいと思う。
『まあ、今回の場合に適用できるのかわからないが、人はその時の最善を選ぶんじゃないのかと思う』
自分が社長に逆らわなかったことは、あの時の最善なのだろうか?
どう返事をしていいのか分からず黙っていると、
『複雑な心境ってのはよく分からないが、複雑な状況だというのは理解しているつもりだ』
と彼。
皇は、社長秘書の神流川や苦情係の課長であり営業部時代の先輩の唯野から守られている。そして同じく営業部時代の先輩である現在の総括の黒岩からは求愛されている状況。
そして社長からは愛の形として体の関係を求められている。
その社長は唯野が皇に慕われているからパワハラを。
『どうにもならないから逃げてるんだろ?』
『そうだけど……』
言葉を濁す皇の腰に彼の腕が回る。
『塩田?』
顔を上げれば口づけられた。
拙いキスに酔っているうちに気づけばベッドに押し倒されていて。
『今日のことは忘れてしまえばいい』
と彼に耳元で言われた。
誰が吹き込んだのか、これが彼なりの慰め方なのだと知る。
『皇はこう思っているんだろ?』
”もし恋人だったなら、こんなに悩まなかったのに”と。
彼の言葉に皇は瞳を揺らした。
塩田は普段、そんなに話す方ではない。
簡潔で言葉が少ないことが多い。
だからこんな風に話すことも意外。
『んん……ッ』
シャツの中に侵入した彼の指先が胸の突起に触れると皇は思わず声を漏らす。慌てて口元に手を持っていったが遅かった。
『いいよ、声出しても』
ちょっと触れられただけで全身に電気が走ったようになる。
好きな相手とするのは全然違うのだと思いながら、皇は塩田の首に自分の腕を巻き付けた。
『何も考えなくていいから』
と彼。
『塩田……ッ』
自分は確かに欲情していた。彼の欲情を股に感じながら。
『人間って言うのはとても複雑で、一途なだけじゃいられないこともあるんだよ』
眉を寄せ、困った表情をしてこちらを見つめる塩田に皇はそう告げた。
彼を不幸にしているのは紛れもなく、自分。
どうして塩田の直属の上司である唯野は、彼にこんな任務を科せたのか。どうして彼はそれに従うのか。
同情ではないと聞いているからか、余計にわからなくなったのだ。
わかってはいる。
唯野が皇を救おうとして塩田にこんな指令を出したことくらい。
だが彼は、少なからずも塩田に想いを寄せていたはず。
やはりどんなに考えても、唯野を理解することが出来なかった。
社長に逆らえない自分を棚にあげ、こんなことを考える自分もどうかしているのだろう。
もし自分が塩田に対してあのようなことをしなければ、跳ねのけることくらい造作もなかった。
──これは自分への罰なのだと思っている。
そんなこと思うべきじゃないのかもしれないけれど。
どうしたら償えるのかわからない自分には、こう思う他なかったのだ。
好きだからと言って皇に他に好いた相手がいることを知りながら体の関係を求める社長。そして塩田に恋人がいることを知りながら彼に抱かれる自分は同等。
何が違うんだと聞かれても答えることはできないだろう。
だから逆らえないのだ。
『俺に対して済まないと思う必要はない』
会合先で社長に抱かれて落ち込んでいる皇に塩田はそう言った。
『俺にはやっぱり、皇の言っていることがいまいち理解できない。自分が望むことをすべきなんじゃないかと思う。こうあるべきとかではなく』
塩田のように真っ直ぐ生きられたらどんなに良かったろう。
『皇は、俺にこんなことまでしてもらっているのに、裏切ったと思っているんだろう?』
『ああ。その通りだよ』
俯き、申し訳なさそうに返事をする皇。
『じゃあ、お前はさ。弁当を作ってもらって、デザートも食べたくなったからってコンビニで購入したら作ってくれた相手に済まないと思うのか?』
その例えは非常におかしいと思う。
『まあ、今回の場合に適用できるのかわからないが、人はその時の最善を選ぶんじゃないのかと思う』
自分が社長に逆らわなかったことは、あの時の最善なのだろうか?
どう返事をしていいのか分からず黙っていると、
『複雑な心境ってのはよく分からないが、複雑な状況だというのは理解しているつもりだ』
と彼。
皇は、社長秘書の神流川や苦情係の課長であり営業部時代の先輩の唯野から守られている。そして同じく営業部時代の先輩である現在の総括の黒岩からは求愛されている状況。
そして社長からは愛の形として体の関係を求められている。
その社長は唯野が皇に慕われているからパワハラを。
『どうにもならないから逃げてるんだろ?』
『そうだけど……』
言葉を濁す皇の腰に彼の腕が回る。
『塩田?』
顔を上げれば口づけられた。
拙いキスに酔っているうちに気づけばベッドに押し倒されていて。
『今日のことは忘れてしまえばいい』
と彼に耳元で言われた。
誰が吹き込んだのか、これが彼なりの慰め方なのだと知る。
『皇はこう思っているんだろ?』
”もし恋人だったなら、こんなに悩まなかったのに”と。
彼の言葉に皇は瞳を揺らした。
塩田は普段、そんなに話す方ではない。
簡潔で言葉が少ないことが多い。
だからこんな風に話すことも意外。
『んん……ッ』
シャツの中に侵入した彼の指先が胸の突起に触れると皇は思わず声を漏らす。慌てて口元に手を持っていったが遅かった。
『いいよ、声出しても』
ちょっと触れられただけで全身に電気が走ったようになる。
好きな相手とするのは全然違うのだと思いながら、皇は塩田の首に自分の腕を巻き付けた。
『何も考えなくていいから』
と彼。
『塩田……ッ』
自分は確かに欲情していた。彼の欲情を股に感じながら。
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