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────8話*この手を離さないで
9・間違っていたもの
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****♡Side・板井(同僚)
「概ね当たっているとは言ったが、一つ大きな勘違いがある」
「それは?」
専務の言葉に前のめりになる板井。
「この人事異動は、皇を中心としているわけではないと言うことだ」
皇にとって元は上司や先輩だった専務、唯野、黒岩。
頼る相手を部下にし、皇の頼れる相手を社長だけにした。そういうことではないと言うのだろうか?
「考えてもみたまえ。黒岩君は相手が上司になろうが変わらない。唯野君は立場を重んじるから皇副社長に対して低姿勢になってはいるが、プライベートなら恐らく違うはずだ」
”それは恋人である君が一番理解しているはず”と言われ、板井は唸った。
確かに専務の言う通りである。
「彼は誰よりも唯野君を信頼している。社内では仲良さそうに見えないだろうが、むしろそれが証拠だろう」
皇は苦情係に足蹴く通い、業務を手伝っていく。苦情係が彼の直属の課であることも多少は関係するだろうが、唯野の課だから手伝っているのだと言われたら納得する部分もある。
社長は、仕事が終わらないことを想定して唯野を呼びつけているわけではないということだ。そう、業務妨害目的ではない。となると、社長が唯野を呼び出すのは……傍に置きたいからという理由になってしまう。
「板井君、君の想像は間違っていない」
「いや……でも、社長が恋人になりたい相手は皇さんなんですよね?」
「社長がそう言っているなら、そうなんだろうね」
彼の曖昧な返答に板井は眉を潜めた。きっとこれは打開策への重要な部分なのだろうが、どう受け止めて良いのか迷う。
「社長にとって、最も手放したくないのは唯野君なんだよ。だから彼を苦情係に閉じ込めた」
”まるで地獄の鳥かごだな”と彼は忌々し気に吐き捨てる。
「通常は黒岩君のように出世していく。でも唯野君は、上が副社長。それ以上何処へもいけないだろう」
苦情係が変な位置にあるのは、唯野を傍に置くため。
板井もこの会社に入社する時、変な会社だと感じたことを思い出す。板井、塩田、電車という新入社員は同期入社であり社長にスカウトされてこの会社に就職した。
大卒にしても給料が良く、やけに待遇が良いと思ったものだ。ただし部署の移動がないことがネック。少人数なので役職も基本ない。そのため役職手当がつかないが、代わりの手当はつけると言われた。
つまり、給料面の不満ならいくらでも解消はする。その代わり鳥かごから出るなと言うことなのだろう。
とは言え、自分たちは常に苦情係に閉じこもっているわけではない。
副社長直属の部署ということから融通が利きやすく、いろんな部署の手伝いをしていた。時には自社工場へ手伝いに行くこともあるし、自社の店舗に応援に行くこともある。
ずっと同じ部署に居続けることは飽きるのではないかと思っていた。
だが実際は飽きることなんてなかったのだ。むしろ、どこの部署よりも幅広い業務を行っているともいえる。つまり不満を感じさせないために社長は自分たちを自由にしているとも考えられるのだ。
「でも、何故こんなことに?」
「全てのはじまりは十七年前にある」
それは元会長に唯野が性的なことを強制された事件のことだろう。
「あのバカがいけないんだ。黒岩のバカが……」
額に手をやり、項垂れた専務。普段は優雅に振舞っているのだろうが、こちらが素なのかもしれないと思った。
「十七年前、うちの部署に優秀な人材が入社した。唯野と黒岩だ」
二人は正反対と言っても過言ではないくらい、性格が違ったが営業部として優秀な成績を収めていたのだ。
「板井君の言う通り、僕は唯野に惹かれた。いや、今もなお唯野のことが好きだ」
想いを口にした彼だが、板井をライバル視しているようには感じない。彼の怒りはもっぱら黒岩に向いているようだった。
「概ね当たっているとは言ったが、一つ大きな勘違いがある」
「それは?」
専務の言葉に前のめりになる板井。
「この人事異動は、皇を中心としているわけではないと言うことだ」
皇にとって元は上司や先輩だった専務、唯野、黒岩。
頼る相手を部下にし、皇の頼れる相手を社長だけにした。そういうことではないと言うのだろうか?
「考えてもみたまえ。黒岩君は相手が上司になろうが変わらない。唯野君は立場を重んじるから皇副社長に対して低姿勢になってはいるが、プライベートなら恐らく違うはずだ」
”それは恋人である君が一番理解しているはず”と言われ、板井は唸った。
確かに専務の言う通りである。
「彼は誰よりも唯野君を信頼している。社内では仲良さそうに見えないだろうが、むしろそれが証拠だろう」
皇は苦情係に足蹴く通い、業務を手伝っていく。苦情係が彼の直属の課であることも多少は関係するだろうが、唯野の課だから手伝っているのだと言われたら納得する部分もある。
社長は、仕事が終わらないことを想定して唯野を呼びつけているわけではないということだ。そう、業務妨害目的ではない。となると、社長が唯野を呼び出すのは……傍に置きたいからという理由になってしまう。
「板井君、君の想像は間違っていない」
「いや……でも、社長が恋人になりたい相手は皇さんなんですよね?」
「社長がそう言っているなら、そうなんだろうね」
彼の曖昧な返答に板井は眉を潜めた。きっとこれは打開策への重要な部分なのだろうが、どう受け止めて良いのか迷う。
「社長にとって、最も手放したくないのは唯野君なんだよ。だから彼を苦情係に閉じ込めた」
”まるで地獄の鳥かごだな”と彼は忌々し気に吐き捨てる。
「通常は黒岩君のように出世していく。でも唯野君は、上が副社長。それ以上何処へもいけないだろう」
苦情係が変な位置にあるのは、唯野を傍に置くため。
板井もこの会社に入社する時、変な会社だと感じたことを思い出す。板井、塩田、電車という新入社員は同期入社であり社長にスカウトされてこの会社に就職した。
大卒にしても給料が良く、やけに待遇が良いと思ったものだ。ただし部署の移動がないことがネック。少人数なので役職も基本ない。そのため役職手当がつかないが、代わりの手当はつけると言われた。
つまり、給料面の不満ならいくらでも解消はする。その代わり鳥かごから出るなと言うことなのだろう。
とは言え、自分たちは常に苦情係に閉じこもっているわけではない。
副社長直属の部署ということから融通が利きやすく、いろんな部署の手伝いをしていた。時には自社工場へ手伝いに行くこともあるし、自社の店舗に応援に行くこともある。
ずっと同じ部署に居続けることは飽きるのではないかと思っていた。
だが実際は飽きることなんてなかったのだ。むしろ、どこの部署よりも幅広い業務を行っているともいえる。つまり不満を感じさせないために社長は自分たちを自由にしているとも考えられるのだ。
「でも、何故こんなことに?」
「全てのはじまりは十七年前にある」
それは元会長に唯野が性的なことを強制された事件のことだろう。
「あのバカがいけないんだ。黒岩のバカが……」
額に手をやり、項垂れた専務。普段は優雅に振舞っているのだろうが、こちらが素なのかもしれないと思った。
「十七年前、うちの部署に優秀な人材が入社した。唯野と黒岩だ」
二人は正反対と言っても過言ではないくらい、性格が違ったが営業部として優秀な成績を収めていたのだ。
「板井君の言う通り、僕は唯野に惹かれた。いや、今もなお唯野のことが好きだ」
想いを口にした彼だが、板井をライバル視しているようには感じない。彼の怒りはもっぱら黒岩に向いているようだった。
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