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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

9.5 デートの約束

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 ****♡side・鶴城

 美崎が両手で大事そうに抱えるそのマグカップは、黒猫のデザインで持ち手がしっぽになっており丸っこい形をしている。カップ自体にも黒猫が描かれているのだが、小さなネコがぶら下がっていた。
 二つのカップを並べるとそのネコたちがキスするように設計されている上に、カップ部分の空白がハートになるように黒猫が描かれているのだ。
「な、なんだよ。どうせ似合わないとか思ってるんだろ」
 あまりにも美崎のチョイスが可愛らしかったので鶴城は固まっていたのだが、それを見た彼がムッとする。
「いや、猫好きなのか?」
「好き」
 即答する美崎。鶴城は猫にやきもちを妬きそうになった。しかしそれ以上に美崎の可愛らしいチョイスに愛しさが込み上げる。

 ──優也、可愛い。
  ネコが好きなんだ。
  覚えておこう。

「これにしよう」
 美崎の手元から取り上げ微笑んで見せれば、彼がとても嬉しそうな顔をした。鶴城にしてみればこんなラブラブを象徴するようなマグカップを美崎が選んでくれることが嬉しい。商品を購入し店の外に出ると、美崎は大事そうにその箱をショルダーバックにしまう。

 ──可愛いなぁ、優也。
  凄く嬉しそうだ。

 家まではあと少し。
「優也、土曜日デートしよう」
「ん?」
「どこか遊びに行こう」
 美崎は自分が大事にされていないと思っている。その理由について鶴城は自分なりに考えていた。

 身体ばかり求めているのがその理由の大部分を占めているだろうが、よく考えればデートをしたことがない。喜んでくれるといいなと思いながら美崎を誘ってみる鶴城。鶴城は美崎が驚きに目を見開くのを見ていた。その瞳はまるで“ほんとに?”と言っているようで、彼を抱き締めたくなったのだった。
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