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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

12 記憶と【微R】

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 ****♡side・美崎

 それは誰を対象にした嫌がらせなのか、正直わからない。
 だから美崎は、この感情が何かさえわからないでいた。

 ──妬いているわけではない。
  違うんだけれど……。

「だからなんでかけてくるんだよ!」
 鶴城は不機嫌だ。
 生徒会役員と風紀委員が連携してイジメ対策に取り組んでいる以上、連絡先の交換は当然行われている。だから、かかってくること自体は不思議ではない。

 ──でも、今日は日曜日で……。
  慎だって嫌がっているのはわかってる。

「用事もないのに、なんなんだ」
 美崎は黙々も荷造りをしながら、耳だけは会話に傾ける。なんとも言いがたい気持ちが心を捕らえ、泣きたくなった。
「切るし」
 ムカつくと言わんばかりに鶴城は通話を終える。聞こえていたのは女子の声、恐らく白石だ。
「なんなんだよ、ほんと!」
 鶴城はイライラしながら立ち上がり、美崎はびくりと肩を震わせた。
「ごめん」
 その様子に気づいた彼はばつが悪そうな顔をして、美崎の背後に腰をおろすとその身体を抱き締める。
「優也、せっかくの休みなのにごめん」
 じんわりと鶴城の体温を感じて少しだけ緊張を解く。最近、自分をちゃんと気遣ってくれる鶴城の姿勢が美崎には嬉しかった。

 ──そうだ……
  高等部を卒業したら、これが日常なんだ。
  白石は慎と一年一緒で、自分はかやの外。
  それがイヤなんだ。

 美崎は身体を反転させると、その胸に顔を埋める。二人がどうにかなるなんて思ったことはない。けれど今まで大切にしてきた時間をまるまる独り占めできなくなる。
 どんなに強引で万年発情期の猿だと罵ろうが、美崎は彼が大好きで。
「なんだよ、可愛すぎるんですけど?」
 美崎を包み込むように抱き締める彼は調子にのる。
「可愛すぎて、襲いたくなる」

 やっぱり発情期の猿だ。と、美崎は思うのだった。

   **・**

「いいのか?」
 鶴城は美崎の背中に充てた手を徐々に下ろしてゆく。いまさらじゃないか、と美崎は黙っていた。
 いつだって、抵抗を押さえつけられ身体を開かれるのに。
「んッ……」
 もっと貪欲に求めて欲しいと思っていた。
 気が狂うほど。
「優也」
「あ……ッ」

 ──もっと欲しがって。
  俺なしじゃいられないほどに。

 美崎は彼にシャツを剥ぎ取られ、スラックスを脱がされるとベッドに押し倒される。太腿を撫でる手が、何度も際どい所を行ったり来たりし、美崎をもどかしい気持ちにさせていく。
「うぅん……」
 早く触ってと言うように甘い声を漏らしてみる。
「優也が大学いったら、こういう時間減るんかな?」
 こういう時間の意味が、愛し合う時間を指しているならyesであろう。
「確実に、昼休みは出来ない……だろ」
 美崎が途切れ途切れにそういうと、何故か目を輝かせた。
「じゃあ、卒業まで毎日しよう」
「はぁ?」

 ──どうなっているんだ?
  猿の思考回路は?

「なあ、いいだろ?」
 だが、美崎は鶴城に甘い。
「俺のもの。優也は俺の」
「あああっ」
 鎖骨の近くをちゅうぅっと吸われ、中心部を撫で上げられる。何度も何度も覚え込まれた快感に、美崎は抗えなかった。
「慎……んんッ」
「ずっと俺だけのものでいて」

 ──モテやしないのに。 

 それは美崎が周りに対して鈍感なだけなこととは気づいていなかった。風紀委員として人を危ないところから何度も救っておきながら、そのことが好意を持たれるのに十分な理由だとさえ。

 ****

 ━━━━━━━━あの日の記憶。



『やめろッ……鶴城ッ』
 あれは、レイプだったんだ。


 弾けて飛んだボタンの行く末を悲痛な表情で見つめていた。
『鶴城……嫌だ』
 はっきりと拒絶の言葉を述べたのに鶴城は聞かなかなくて。胸を這う濡れた感触に美崎は涙を溢しながら抵抗をやめる。抗っても無駄だという思いと抵抗して傷つけられたくないという恐怖からだった。

『あ……んッ』
 美崎は鶴城が好きで。
 けれどバレンタインのチョコと一緒にその想いはごみ箱へと捨てたつもりだったのに。
『感じてるくせに』
『やッ……』
 鶴城は、何がなんでも美崎を犯すつもりだったらしい。
『鶴城……ダメ』
『何が、ダメ?』
 気づけば全裸にされ、鶴城の舌がが美崎自身を這う。美崎は人と性的な行為に及ぶのが初めてだった。

『美崎を俺のものにしたい。もう、他の誰とも出来ないように』
 腰を持ち上げられ双丘を拡げられる。美崎の頬を再び涙が伝った。
『そんなとこッ』
 何も知らなかったわけではないが、鶴城は自分ですら見ることの出来ない最奥の蕾を見ていた。
『厭らしいピンク色』
『ああああッ』

 自分は、何もかもが初めてであるのにも関わらず、彼から何か誤解を受けている。
 こういうのは恋人同士がすること、そう思っていたのに。
 美崎は諦めた。
 好いた相手にこれから無理矢理初めてを奪われる。下手をすればこの先も身体だけ弄ばれるかもしれない。何て残酷なんだと思い、自分の運命を呪った。

 ──ねえ? 鶴城は……身体だけが欲しいの?
  好きって言って……

 ****

 「優也?」
 気づけば、鶴城にしがみつき涙を溢していた。忘れたくても忘れられないあの日の記憶。
 「慎ッ……」
 ぎゅっと背中に腕を回すと、鶴城が心配そうに背中を撫でてくれる。
 「どうした?」
 「好き? ホントに俺のこと」

 鶴城はびくっと身体を揺らした。何故かと見上げれば泣き出しそうな顔をして美崎を見つめている。
 「まだ、信じてくれないのか?」
 返事が出来なくて、美崎はただはらはらと涙をこぼし続けていた。そんな美崎の頬を指先で拭うと鶴城は口づける。
 「好きだよ、バレンタインのあの日からずっと優也に夢中なんだ」
 なあ? と鶴城は続けた。
 「優也が信じてくれるまで何度でも囁くから……だから、離れないでいて」

 美崎は再び自分を抱き締める鶴城の背中に腕を回す。
 惚れた男の温もりは美崎を安心させるに充分ではあったが、自信が持てない。
 「俺だけの優也でいてくれよ」
 「ま……こと」
 切な気に名前を呼べばベッドに押し倒される。
 「俺が抱きたいと思ったのは後にも先にも、優也だけだよ」
 鶴城の言葉に美崎は瞳を揺らした。

 happy endにはまだ遠い。
 二人はまだ手を取り歩きだしたばかり。

 しかし、美崎は思っていた。
 この手は絶対に離したりはしないと。
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