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13『頭痛の種と愛しき人』
2 板井、決断の時
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****side■板井
一時期は自分との恋愛に戸惑っているように感じていた唯野が隣で穏やかに笑うのを、板井は眺めていた。
「板井、聞いてる?」
「ええ。ちゃんと聞いてますよ」
今夜の食事の場所は彼が選んだ。
いつも板井に頼りきりではいけないと検索して選んだらしい。
「口コミもなかなか良いみたいだ」
「そうみたいですね」
板井としては唯野が選んでくれたと言うだけで十分だった。
「ちゃんと投稿の日付とかもチェックしたから大丈夫なはず」
サクラなら投稿の日付が被っている場合もある。もっともそれが商品以外に通用するのかも分からないが。
レビューでチェックすべき点は何点かあるが、良い評価よりも悪い評価の方が参考になるとも思う。良い評価ばかり並んでいたら日付はチェックすべきだ。
某大型ショッピングサイトなどで買い物をすると『高レビュー評価で商品券をプレゼントします』なんてのはザラにある。
さすがに飲食店でそれはないだろうとは思うが、サクラならありそうだ。
「へえ。写真通りお洒落な雰囲気の店ですね」
飲食店は近代的な建物よりもレトロな雰囲気のところの方がよく見えるのは何故だろう。
「予約して置いたから席がないなんてことはないはず」
唯野は腕時計で時間を確認しドアを開けた。
大人向けなのか、少し明りを落としたオレンジの間接照明がよりお洒落な雰囲気を醸し出している。光がニスの塗られた板張りの床に反射してキラキラしていた。
「へえ、奥は一面ガラス張りのカウンター席なんですね」
「夜景が綺麗らしいぞ」
こんな風に嬉しそうに笑う彼を見たのは久々な気がする。それもそのはず、最近は黒岩がしょっちゅう苦情係に顔を出していたのだから。
「ゆっくり食事して帰ろう」
「そうですね」
奥のカウンター席に通され、思い思いに好きなものを注文する。
「家でのんびりも良いけれど、こういうのもいいだろ?」
「修二さんはこういうのが好きと言うことは分かりました」
板井の言葉に彼がふふっと笑う。
ビールで乾杯をし、ローストビーフに箸を伸ばす板井。話は自然と職場の話になってしまうのは否めない。同じ職場なのだから。
こんな時、相手が女性なら嫌な顔をされてしまうだろう。
「まだ黒岩のこと気にしてんの」
「そりゃあ、気にするでしょう」
別に仕事中も二人きりが良いとまでは言わないが、部署の違う黒岩がしょっちゅう唯野に言い寄るのを見ているのは良い気がしない。
「まあ、気にするなという方が無理があるか」
困ったように眉を寄せる彼。そんな顔をさせたいわけではないのだ、板井は。
そこで板井の脳裏に皇から言われた言葉が過る。
『いっそのこと籍を入れてしまってはどうだ?』
黒岩がそんなことを気にしなくても、その繋がりは自分にとって強固なものになるだろう。
正直、自分は婚姻した塩田と電車のことが羨ましいと感じてしまっている。
すぐにどうにかならなくとも、話だけはしていきたい気持ちもあった。
この良い雰囲気の中でなら勢いをつけて言ってしまってもいいかもしれない。だが、どう切り出すべきか。
「黒岩のことはなんとかするから、もう少しだけ辛抱してくれないか?」
唯野がため息を漏らしながら。板井はそれを曖昧な笑みを浮かべて受け止める。
「修二さん」
「うん?」
「塩田たち、丸く収まって良かったですね」
こうなったら塩田たちを引き合いに出すしかない。この流れに乗って話すんだと自分に言い聞かせる板井。勝負の時は今だ。
そんな板井の心を知ってか知らずか、唯野は『そうだな』と微笑む。
「それでですね」
「うん」
「俺は正直、塩田たちが羨ましいんですよ」
「え?」
全くスマートな話の流れではないが遠回しに言って失敗するよりは良いと思った。いつもの自分ならもっと上手くプレゼンできたはず。だが、カッコ悪くても良い。伝えるべきことを伝えたいと思った。
「羨ましい?」
不思議そうに首を傾げる彼。無理もない、端折り過ぎなのだから。
「俺も籍を入れたいです、修二さんと」
唯野は板井の言葉に目を丸くする。いつか結婚したいと言う話は以前したはずだ。寝耳に水ということはないはず。
「い、今……なんて?」
たっぷり三秒は固まっただろう後に、彼は聞き返したのだった。
一時期は自分との恋愛に戸惑っているように感じていた唯野が隣で穏やかに笑うのを、板井は眺めていた。
「板井、聞いてる?」
「ええ。ちゃんと聞いてますよ」
今夜の食事の場所は彼が選んだ。
いつも板井に頼りきりではいけないと検索して選んだらしい。
「口コミもなかなか良いみたいだ」
「そうみたいですね」
板井としては唯野が選んでくれたと言うだけで十分だった。
「ちゃんと投稿の日付とかもチェックしたから大丈夫なはず」
サクラなら投稿の日付が被っている場合もある。もっともそれが商品以外に通用するのかも分からないが。
レビューでチェックすべき点は何点かあるが、良い評価よりも悪い評価の方が参考になるとも思う。良い評価ばかり並んでいたら日付はチェックすべきだ。
某大型ショッピングサイトなどで買い物をすると『高レビュー評価で商品券をプレゼントします』なんてのはザラにある。
さすがに飲食店でそれはないだろうとは思うが、サクラならありそうだ。
「へえ。写真通りお洒落な雰囲気の店ですね」
飲食店は近代的な建物よりもレトロな雰囲気のところの方がよく見えるのは何故だろう。
「予約して置いたから席がないなんてことはないはず」
唯野は腕時計で時間を確認しドアを開けた。
大人向けなのか、少し明りを落としたオレンジの間接照明がよりお洒落な雰囲気を醸し出している。光がニスの塗られた板張りの床に反射してキラキラしていた。
「へえ、奥は一面ガラス張りのカウンター席なんですね」
「夜景が綺麗らしいぞ」
こんな風に嬉しそうに笑う彼を見たのは久々な気がする。それもそのはず、最近は黒岩がしょっちゅう苦情係に顔を出していたのだから。
「ゆっくり食事して帰ろう」
「そうですね」
奥のカウンター席に通され、思い思いに好きなものを注文する。
「家でのんびりも良いけれど、こういうのもいいだろ?」
「修二さんはこういうのが好きと言うことは分かりました」
板井の言葉に彼がふふっと笑う。
ビールで乾杯をし、ローストビーフに箸を伸ばす板井。話は自然と職場の話になってしまうのは否めない。同じ職場なのだから。
こんな時、相手が女性なら嫌な顔をされてしまうだろう。
「まだ黒岩のこと気にしてんの」
「そりゃあ、気にするでしょう」
別に仕事中も二人きりが良いとまでは言わないが、部署の違う黒岩がしょっちゅう唯野に言い寄るのを見ているのは良い気がしない。
「まあ、気にするなという方が無理があるか」
困ったように眉を寄せる彼。そんな顔をさせたいわけではないのだ、板井は。
そこで板井の脳裏に皇から言われた言葉が過る。
『いっそのこと籍を入れてしまってはどうだ?』
黒岩がそんなことを気にしなくても、その繋がりは自分にとって強固なものになるだろう。
正直、自分は婚姻した塩田と電車のことが羨ましいと感じてしまっている。
すぐにどうにかならなくとも、話だけはしていきたい気持ちもあった。
この良い雰囲気の中でなら勢いをつけて言ってしまってもいいかもしれない。だが、どう切り出すべきか。
「黒岩のことはなんとかするから、もう少しだけ辛抱してくれないか?」
唯野がため息を漏らしながら。板井はそれを曖昧な笑みを浮かべて受け止める。
「修二さん」
「うん?」
「塩田たち、丸く収まって良かったですね」
こうなったら塩田たちを引き合いに出すしかない。この流れに乗って話すんだと自分に言い聞かせる板井。勝負の時は今だ。
そんな板井の心を知ってか知らずか、唯野は『そうだな』と微笑む。
「それでですね」
「うん」
「俺は正直、塩田たちが羨ましいんですよ」
「え?」
全くスマートな話の流れではないが遠回しに言って失敗するよりは良いと思った。いつもの自分ならもっと上手くプレゼンできたはず。だが、カッコ悪くても良い。伝えるべきことを伝えたいと思った。
「羨ましい?」
不思議そうに首を傾げる彼。無理もない、端折り過ぎなのだから。
「俺も籍を入れたいです、修二さんと」
唯野は板井の言葉に目を丸くする。いつか結婚したいと言う話は以前したはずだ。寝耳に水ということはないはず。
「い、今……なんて?」
たっぷり三秒は固まっただろう後に、彼は聞き返したのだった。
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