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13『頭痛の種と愛しき人』
3 唯野が渋る理由
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****side■唯野
「残りの人生は俺にくれるっていいましたよね?」
「い、言ったよ」
いつになく強引な板井に唯野はたじろぐ。
いつかは板井のご両親に挨拶に行くべきだとは思っていた。だが自分は彼の上司であり、子持ちのバツイチ。そして十以上も年上。すでに同棲をはじめてしまっているが離婚したばかりだし、同性なのだ。しかも板井は初婚。
同性婚に偏見のない世の中とは言え、やはり親は孫の顔が見たいものではないのかと思ってしまう。考え方が古いなと額に手をやった。
異性と結婚し子孫を繁栄させるべきという考え方が一般的だったからこそ、人類を減らそうとしている人間が生み出される。本当にそれが適切人口なのかは分からないが、確かに人類は動物の中で一番数が多い。そんなに必要なのかと思うくらいに。
そして人口が増加しても人は平和の道を歩むことはない。
ならば子孫繫栄よりも愛する人と幸せな婚姻をし、幸せな生涯を終えるべきなのだろう。
多様性を否定し続けた人類は、愛のない婚姻の元不幸な人類を増やしただけに過ぎないのかもしれない。
もちろん幸せな婚姻をし、温かい家庭を築いたものもたくさんいるだろう。けれども、それができる男女だけで良かったのではないだろうか?
無理に家庭を作らされ、愛しい我が子を戦場に送り出した家庭もきっとたくさんあるに違いない。
自分も幸せな家庭を持てなかった口だ。自分が歩んだ十七年は嘘と勘違いでできていたように思う。我が子だと思っていた娘にもきっと楽しい家族の時間を作れてはいなかっただろう。
そんなダメな自分が心から惹かれた相手は部下で、年下で。
「まだ体裁が気になるんですか?」
離婚して一か月くらいしか経っていないのに、恋人がいて婚約している状況だ。体裁が良いわけがない。
「法律上、男は離婚してすぐに次の相手と籍を入れられる。つまり、そういう人がいてもおかしくないということなんですよ」
周りがそれをどう判断するか。それは周りのお気持ちと価値観の問題。
結婚するのは本人たちであって、それを評価する他人ではない。他人はとやかく言うものの、自分の人生に責任なんて負ってはくれない。無責任に言いたいことを言う。それが他人というものだ。
板井にそう説かれ、唯野は『それは分かるし、同感だよ』と相槌を打つ。
塩田と電車は問題を抱えていないわけではない。
けれども互いに求め合って一緒にいる。そしてとても幸せそうに見えた。
自分とて彼らが羨ましくないわけがない。
「親御さんにどう説明したら……」
「それが渋っている理由なんですか?」
だったら心配いりませんよと彼は言う。
「なんでだよ」
「話してありますから」
どうやら板井はどんな相手とつき合っていて、現在同棲していることも話してあるらしい。もちろん結婚前提におつき合いしているということも。
「特に母には学生時代にカミングアウトしているので」
そのカミングアウトは何のことだろうかと思ったが、板井は元は”ネコ”だったわけで。恋愛対象になるのは同性の可能性が高いことを高校時代に母に打ち明けていたのだと言う。
「そのことに関しては弟妹も知っているので問題ないです」
「そ、そうなのか」
高校に入ったばかりの頃はまだ華奢な分類だったが、あれよあれよといううちに身長が伸びそれに伴ってガッチリした体格になってしまったらしい。
「別に女装趣味とかないんで良いんですけどね」
板井は苦笑いを浮かべる。可愛いと思われたいわけではないが、どちらかと言うと近づいてくるのは女性ばかりだったようだ。
「板井はカッコいいし、な」
唯野がクスリと笑うと彼は意外そうな顔をする。
「だから、うちは問題ないです」
今度実家に一緒に行きませんかと言われ、唯野は覚悟を決めた。
「修二さんの方はどうなんですか?」
「うちは……」
そう言えば家族構成については話したことがなかったなと思いながら、唯野は自分の生まれた環境について話し始めたのだった。
「残りの人生は俺にくれるっていいましたよね?」
「い、言ったよ」
いつになく強引な板井に唯野はたじろぐ。
いつかは板井のご両親に挨拶に行くべきだとは思っていた。だが自分は彼の上司であり、子持ちのバツイチ。そして十以上も年上。すでに同棲をはじめてしまっているが離婚したばかりだし、同性なのだ。しかも板井は初婚。
同性婚に偏見のない世の中とは言え、やはり親は孫の顔が見たいものではないのかと思ってしまう。考え方が古いなと額に手をやった。
異性と結婚し子孫を繁栄させるべきという考え方が一般的だったからこそ、人類を減らそうとしている人間が生み出される。本当にそれが適切人口なのかは分からないが、確かに人類は動物の中で一番数が多い。そんなに必要なのかと思うくらいに。
そして人口が増加しても人は平和の道を歩むことはない。
ならば子孫繫栄よりも愛する人と幸せな婚姻をし、幸せな生涯を終えるべきなのだろう。
多様性を否定し続けた人類は、愛のない婚姻の元不幸な人類を増やしただけに過ぎないのかもしれない。
もちろん幸せな婚姻をし、温かい家庭を築いたものもたくさんいるだろう。けれども、それができる男女だけで良かったのではないだろうか?
無理に家庭を作らされ、愛しい我が子を戦場に送り出した家庭もきっとたくさんあるに違いない。
自分も幸せな家庭を持てなかった口だ。自分が歩んだ十七年は嘘と勘違いでできていたように思う。我が子だと思っていた娘にもきっと楽しい家族の時間を作れてはいなかっただろう。
そんなダメな自分が心から惹かれた相手は部下で、年下で。
「まだ体裁が気になるんですか?」
離婚して一か月くらいしか経っていないのに、恋人がいて婚約している状況だ。体裁が良いわけがない。
「法律上、男は離婚してすぐに次の相手と籍を入れられる。つまり、そういう人がいてもおかしくないということなんですよ」
周りがそれをどう判断するか。それは周りのお気持ちと価値観の問題。
結婚するのは本人たちであって、それを評価する他人ではない。他人はとやかく言うものの、自分の人生に責任なんて負ってはくれない。無責任に言いたいことを言う。それが他人というものだ。
板井にそう説かれ、唯野は『それは分かるし、同感だよ』と相槌を打つ。
塩田と電車は問題を抱えていないわけではない。
けれども互いに求め合って一緒にいる。そしてとても幸せそうに見えた。
自分とて彼らが羨ましくないわけがない。
「親御さんにどう説明したら……」
「それが渋っている理由なんですか?」
だったら心配いりませんよと彼は言う。
「なんでだよ」
「話してありますから」
どうやら板井はどんな相手とつき合っていて、現在同棲していることも話してあるらしい。もちろん結婚前提におつき合いしているということも。
「特に母には学生時代にカミングアウトしているので」
そのカミングアウトは何のことだろうかと思ったが、板井は元は”ネコ”だったわけで。恋愛対象になるのは同性の可能性が高いことを高校時代に母に打ち明けていたのだと言う。
「そのことに関しては弟妹も知っているので問題ないです」
「そ、そうなのか」
高校に入ったばかりの頃はまだ華奢な分類だったが、あれよあれよといううちに身長が伸びそれに伴ってガッチリした体格になってしまったらしい。
「別に女装趣味とかないんで良いんですけどね」
板井は苦笑いを浮かべる。可愛いと思われたいわけではないが、どちらかと言うと近づいてくるのは女性ばかりだったようだ。
「板井はカッコいいし、な」
唯野がクスリと笑うと彼は意外そうな顔をする。
「だから、うちは問題ないです」
今度実家に一緒に行きませんかと言われ、唯野は覚悟を決めた。
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「うちは……」
そう言えば家族構成については話したことがなかったなと思いながら、唯野は自分の生まれた環境について話し始めたのだった。
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