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第十二話 戦闘潮流

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「やはり、機械人形ってのはこうなるか……」

 機械人形──それはダンジョンで稀に見つかる自動式の人形のことである。

 理由は不明であるが、起動するが否やいきなり人間に襲い掛かることも珍しくない。

 極々稀に起動者の命令に従順な個体が発見されることもあるが、夢物語の域を出ない確率の話だ。

 ヒースクリフは少女の手刀での一撃を、紙一重で見切って躱した。

 そのまま木刀をまたも、頭部に向かって振りかぶる。

 今度は先ほどとは違い、遠慮無用の一撃だ。

 魔力により強化されたその刃は、機械と言えども、直撃すれば両断されること必至の威力を秘めている。

 ヒースクリフは確信した。

(殺った!)

 少女はヒースクリフの一撃に対して、何らの防御姿勢も取っていない。

 必中を確信した一閃はしかし、空を切る。

「っ!?」

 目の前にいた少女が消失したのだ。

 それに続いて、重い物が地面に着地するドスンという音がする。

 ヒースクリフは振り返ろうとしたが、背後からの攻撃はそれを許さない。

 機械少女の拳で背中を強く打ち付けられ、吹き飛ぶヒースクリフ。

 その細腕からは考えられないほどの威力だ。

 衝撃で舞い散った土煙が、僅かに舞った。

 少女の一撃の余りに大きい衝撃に、彼はそれほど広くもない部屋の端まで弾き飛ばされ、壁に叩きつけられそうになる。

 そこで、ヒースクリフは壁に手をついて勢いを殺すと、空中で一回転して振りかえった。

(くそ!空間転移か。こいつを舐めていたな。機械の癖に魔法を使うとは)

 ヒースクリフは一瞬のやり取りから、少女が消えたからくりを見抜いていた。

 前世で数々の魔法の使い手と戦った経験が、今まさに活きている。

(だが、その魔法には致命的な弱点がある。次にお前がそれを使った時が最後だ。──────果たして、気づいているかな?)

 ヒースクリフは飛び出すと、油断なく距離を詰め、またも木刀を振り下ろした。

 先ほどと同じ初手だが、少女は変化をつけてくる。

 今度はヒースクリフの一撃を躱すと、拳を突き出してきた。

 少女の華奢な腕から繰り出された拳とは思えないような風切り音で、それはヒースクリフの心臓に迫る。

 彼はその威力を想像しゾクゾクしながらも、またも紙一重で見切って避けた。

 そして、魔力強化を脚に限界までかけて少女の後ろに回り込み、剣を振るう。

 少女はこれに反応しきれていなかったが、攻撃が命中する刹那にまたも消失する。

「ここだ!」

 ヒースクリフは剣の流れをそのままに、見もしないで自分の背後に全力で剣閃を放つ。

 そこには果たして、少女が嘘のように突然現れた。

(転移魔法はコストが大きい。せいぜい数歩移動するのが精いっぱいだ。それなら、相手の背後に転移するしかないのは道理!)

 ヒースクリフの一撃は少女を強(したた)かに打ち付け、金属の塊である体を吹き飛ばした。

 跳ね飛ばされるも、少女は素早く立ち上がる。

 ぼろぼろの服は今や土埃にも塗れていた。

 少女が無表情なのは相変わらずだが、その目には疑念が浮かんでいる。

「手を抜きましたね……今の一撃、直撃すれば私は真っ二つになっていた。であるのに、吹き飛ばされただけなのはおかしい」

 ヒースクリフは嗤う。

「ほう。機械人形のくせにそんなことにも気が付くか。つくづく、面白い奴だな。これまでもそこそこの数の機械人形を見てきたつもりだったが、お前ほど高性能のものは無かったぞ」

(本当に惜しいな……魔力を使う機械人形など聞いたこともない)

 ヒースクリフはだんだんと目の前の機械人形をただ破壊するのがもったいなく思えてきた。

「おい、お前。ダンジョンコアを壊すのは止めてやってもいいぞ」

 ヒースクリフは唐突に言った。

「……ならばこちらにも戦う理由はありませんが、主をお見せすることはどうしても出来かねます」

 少女は少し驚いたように、だが断固として答えた。

「──────俺の今度の条件はお前だ。お前がその身を差し出せば、ダンジョンコアには手を出さない。どうだ?」

 ヒースクリフは邪悪な笑みを浮かべていた。

 本人は優しく微笑んだだけのつもりであったが、少女には邪悪な笑みとしか思えない。

 逡巡する少女の躊躇いは、数秒続いた。

(機械も迷うのか……)

 ヒースクリフは少しおかしく思った。

「私があなたに従えば、主の命を繋げると。そういう脅しですか?」

 少女は皮肉げに問いかけた。

「理解が早くて助かる」

 ヒースクリフは語弊があるとは思ったが、簡潔に応じる。

 やっと覚悟を決めたのか少女は答えた。

 だが、迷った時点で彼女の決断は決まったようなものである。

「分かりました。あなたを主と認め、わが身を捧げましょう」

「ほう」

 ヒースクリフは意外に思った。

 こんな要求が飲まれるとは全く思っていなかったのである。

 まずは到底受け入れられないような要求をし、次の本命の条件を受けさせようとしたのだ。

 で、あるのに彼女はそれをいきなり飲んでしまった。

(これでは俺はただの卑劣漢ではないか……)

 機械とはいえ、少女の身体を狙うような発言となってしまったことに今更気が付く。

 彼は心の中で言い訳した。

(そもそも、こんな要求を受けるなどとは、思わないではないか。主を変えてしまえば、もともとの目的は達成されないかもしれん。それでは、本末転倒だ)

 ヒースクリフは興味深く思い、聞いた。

「本当に俺に服従するのだな?」

「はい。私の忠誠をお捧げします」

 ヒースクリフの目が怪しく光る。

「ならば最初の主の命令だ。ダンジョンコアを破壊しろ」

 それに対する彼女の答えは──────
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