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57 元に戻らない体※
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※56話 タイトルと文章を変更しました。詳細は近況ボードにてお知らせしています※
弓の披露からの数日は、何事もなく穏やかに過ぎた。そしてとうとう、辺境へと戻るために屋敷を出る日がやってきた。
――その日の、朝。
いつもよりもっと早くに目が覚めたシタンは、厠にこもっていた。……単なる用足しではない。辺境へ帰る段になって、領主に抱かれておかしくなった体のことを思い出したからだ。
……抱かれなくても前だけでいけるかどうか、確かめたい。
こんなことは今でなくてもいいことだが、気になりだすと落ち着かなくなって、汚しても始末のしやすい厠に朝っぱらから駆け込んだのだった。
……屋敷では誰かしらに世話を焼かれ、ハイレリウスの与えてくれている仕事のこともあって、周囲に常に人がいる暮らしだ。辺境での気ままな独り暮らしとは違うのだろう。気を使うのかそれほど疲れていないのに、寝床に横になればすぐに眠ってしまっていた。
気疲れしていて溜まるほどの精力もなかったのか、体が疼くなんてこともなく、自分で慰める気にもならなかったのだ。
もたもたと夜着をたくし上げて肩に掛け、不格好な姿で下穿きを下ろす。
「ん……」
そして、無造作に両手で一物を擦ってみたが、なかなか勃たない。
したいからというよりは、しなくてはいけないという気持ちで無心に触っているかだろうか。気持ちよくない。領主に口付けされて、体に触れられるとすぐに勃っていたというのに。
気分をそそるようなことを思い浮かべようとしたら、白い肌をほのかに火照らせた領主の、綺麗で艶やかな姿が脳裏にちらついた。
「んっ……!」
途端、尻孔にきゅうっと力が入って切ない気分になる。術によって腹に熱を注がれ、熱い蜜が滴る孔に長い指が入ってくるだけで達してしまったこともあった。熱く太い男のそれが、孔の中をみっしりと埋める感覚が蘇る。
「ふっ、ん……っ」
手の中の物が徐々に硬さを増してきた。先走りが滲んで滑りが良くなった先端を親指で捏ねるが、達するまでにはいかない。物足りないのだ。奥まで余すことなく擦られて、突き上げられたい。
気付くと片方の手を尻へと滑らせていた。
指先を窄まりに当てると、ひくつきながら貪欲に吸い付いてくる。滑りもない孔は固く閉じていて中までは弄れないが、入口への刺激だけでぐっと腰が重くなっていく。
腰が勝手に揺れて「あ、あっ……」と、切羽詰まった声がでた。腹が熱くなっていく気がした。もっと、中をめちゃくちゃに掻き回したい。
「んぅっ……!」
少しだけ解れた孔へ強引に指先を押し込んで、ぐっと腰を逸らしながら水音が立つほどにたっぷりと濡れた一物の先端を苛めると、体が震えて緩く達した。
「はぁっ、あぁ……」
とろりと、溢れた精が指を汚す。
「あっ」
床に落とさないようにしながら、慌てて厠の中で始末をした。
「なんでだよぉ……」
よりによって領主を思い出して、尻を弄りながら達してしまった。全く戻っていなかった自分の体に、少し涙が出る。抱かれなくなれば不調も落ち着くだろうと思ったが、執拗に植え付けられた快楽は根深かった。
「うぅ」
正直なところ、領主の肌が恋しくなった。
あの白い腕に抱き締められて、奥深くまで愛撫されるとたまらない気持ちになる。自分が男だとか、そういうことはどうでも良くなって、ただ蕩けるように気持ちが良くて、何度されても体が疼いて、もっと抱いて欲しくなる。潤んだ紫紺の瞳に見詰められて、名を呼ばれながら求められるのも好きだ。
……どうせ、慰みだ。いつか飽きて放り出される。
そう考えては気持ちを向けないようにしてきたがもう駄目だ。あんな横暴で勝手な男に……認めたくないが……会いたくて仕方がなくなってしまった。
ずっと一緒にいるなんて、絶対に望めない相手だ。なんでこんな、切なくて惨めな思いをしなくてはいけないのだろう。ハイレリウスにばれてしまったときのように、また泣きたくなった。
禁猟期は城で傍仕えをしろという命令を無視して、王都へ逃げて来たことは果たして正しかったのだろうか。もしかしたら、行方を暗ました自分のことなど愛想を尽かしてしまっているかもしれない。お前など用済みだとでも、冷たく言われてしまったら……。
胸が締め付けられて、しくしくと痛んだ。
……逃げた仕打ちとして酷く抱かれても構わない。体だけでも、求められたい。そう、思ってしまった。
涙目になりながら肩を落として寝床に戻り、もう一度眠ってしまおうとしたが、結局ウェイドがやって来るまで少しも眠れなかった。
弓の披露からの数日は、何事もなく穏やかに過ぎた。そしてとうとう、辺境へと戻るために屋敷を出る日がやってきた。
――その日の、朝。
いつもよりもっと早くに目が覚めたシタンは、厠にこもっていた。……単なる用足しではない。辺境へ帰る段になって、領主に抱かれておかしくなった体のことを思い出したからだ。
……抱かれなくても前だけでいけるかどうか、確かめたい。
こんなことは今でなくてもいいことだが、気になりだすと落ち着かなくなって、汚しても始末のしやすい厠に朝っぱらから駆け込んだのだった。
……屋敷では誰かしらに世話を焼かれ、ハイレリウスの与えてくれている仕事のこともあって、周囲に常に人がいる暮らしだ。辺境での気ままな独り暮らしとは違うのだろう。気を使うのかそれほど疲れていないのに、寝床に横になればすぐに眠ってしまっていた。
気疲れしていて溜まるほどの精力もなかったのか、体が疼くなんてこともなく、自分で慰める気にもならなかったのだ。
もたもたと夜着をたくし上げて肩に掛け、不格好な姿で下穿きを下ろす。
「ん……」
そして、無造作に両手で一物を擦ってみたが、なかなか勃たない。
したいからというよりは、しなくてはいけないという気持ちで無心に触っているかだろうか。気持ちよくない。領主に口付けされて、体に触れられるとすぐに勃っていたというのに。
気分をそそるようなことを思い浮かべようとしたら、白い肌をほのかに火照らせた領主の、綺麗で艶やかな姿が脳裏にちらついた。
「んっ……!」
途端、尻孔にきゅうっと力が入って切ない気分になる。術によって腹に熱を注がれ、熱い蜜が滴る孔に長い指が入ってくるだけで達してしまったこともあった。熱く太い男のそれが、孔の中をみっしりと埋める感覚が蘇る。
「ふっ、ん……っ」
手の中の物が徐々に硬さを増してきた。先走りが滲んで滑りが良くなった先端を親指で捏ねるが、達するまでにはいかない。物足りないのだ。奥まで余すことなく擦られて、突き上げられたい。
気付くと片方の手を尻へと滑らせていた。
指先を窄まりに当てると、ひくつきながら貪欲に吸い付いてくる。滑りもない孔は固く閉じていて中までは弄れないが、入口への刺激だけでぐっと腰が重くなっていく。
腰が勝手に揺れて「あ、あっ……」と、切羽詰まった声がでた。腹が熱くなっていく気がした。もっと、中をめちゃくちゃに掻き回したい。
「んぅっ……!」
少しだけ解れた孔へ強引に指先を押し込んで、ぐっと腰を逸らしながら水音が立つほどにたっぷりと濡れた一物の先端を苛めると、体が震えて緩く達した。
「はぁっ、あぁ……」
とろりと、溢れた精が指を汚す。
「あっ」
床に落とさないようにしながら、慌てて厠の中で始末をした。
「なんでだよぉ……」
よりによって領主を思い出して、尻を弄りながら達してしまった。全く戻っていなかった自分の体に、少し涙が出る。抱かれなくなれば不調も落ち着くだろうと思ったが、執拗に植え付けられた快楽は根深かった。
「うぅ」
正直なところ、領主の肌が恋しくなった。
あの白い腕に抱き締められて、奥深くまで愛撫されるとたまらない気持ちになる。自分が男だとか、そういうことはどうでも良くなって、ただ蕩けるように気持ちが良くて、何度されても体が疼いて、もっと抱いて欲しくなる。潤んだ紫紺の瞳に見詰められて、名を呼ばれながら求められるのも好きだ。
……どうせ、慰みだ。いつか飽きて放り出される。
そう考えては気持ちを向けないようにしてきたがもう駄目だ。あんな横暴で勝手な男に……認めたくないが……会いたくて仕方がなくなってしまった。
ずっと一緒にいるなんて、絶対に望めない相手だ。なんでこんな、切なくて惨めな思いをしなくてはいけないのだろう。ハイレリウスにばれてしまったときのように、また泣きたくなった。
禁猟期は城で傍仕えをしろという命令を無視して、王都へ逃げて来たことは果たして正しかったのだろうか。もしかしたら、行方を暗ました自分のことなど愛想を尽かしてしまっているかもしれない。お前など用済みだとでも、冷たく言われてしまったら……。
胸が締め付けられて、しくしくと痛んだ。
……逃げた仕打ちとして酷く抱かれても構わない。体だけでも、求められたい。そう、思ってしまった。
涙目になりながら肩を落として寝床に戻り、もう一度眠ってしまおうとしたが、結局ウェイドがやって来るまで少しも眠れなかった。
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