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本編
癒しに溺れる
しおりを挟む――セディウスが胸に秘めた想いを打ち明けてネウクレアを抱き締めてから、彼は夜ごとに天幕に現れては頭を撫でて抱き締めることを要求するようになった。
無防備にセディウスの腕に身を預け、小さく満足そうに吐息を零す様が愛らしい。
撫でているうちに、徐々に力が抜け……やがて穏やかな眠りに落ちる。ここがこの世でもっとも安全だとでも言うかのように、安心しきった様子で。
あどけない寝姿を見ているだけで、心が温かくなり深く癒される。ほのかに甘い香りのする彼を抱き締めて眠ると、夢も見ずに深く安眠できるようになり、以前よりも体調が良くなったほどだ。
そして、早朝の決まった時間にぱちりと目を覚ますと、少しだけ目を細めてセディウスを見上げてから、胸元に頬をすり寄せてくるのだ。
ひとつひとつの仕草が可愛くて、目を離せない。
朝もひとしきり甘えた後に、ネウクレアは静かに自分の天幕へと帰っていく。こうした彼の行動によって、夜から早朝にかけてが至福のひとときとなった。
人肌の温もりと、純粋に求められる幸福感は何ものにも代えがたい。セディウスは、どちらかといえば庇護を与えることに喜びを見出す質だ。ネウクレアを甘やかすことで、自身も心を深く満たされている。
まるで欠けていたものが、ぴたりと合わさったかのようだ。気づけば、彼を本当に手放せなくなっていた。
あの華奢な体をずっと抱き締めていたいと思う。ネウクレアに甘えられると、腕に閉じ込めたくなる衝動を抑えるのに苦労しているほどだ。
――彼との至福の時間を潰さないために、セディウスは昼間の執務により集中するようになった。期限の近い書類以外は早く終わらせようと粘らず、素直に明日に回すようにもした。
その結果、リュデイードの心配混じりの小言がめっきり減った。
「団長、最近は書類を持ち帰ろうとしなくなりましたね。良いことです」
……むしろ上機嫌だ。
これで過剰に心配されることもないだろう。あれほどしがみついていた執務に、緩急がつけられるようになったのだから。
人は変わろうと思えば変わるものだ。
――騎士団長たる自分が、部下と同じベッドで寝起きをしているのはどうなのか。
ふと、そう思い悩んだこともある。
だが、こうまで懐に入り込ませてしまった彼に、今さら自分の天幕で眠れなどと命令できるはずもない。それこそ残酷なことだ。
この関係は少々特殊だが、致し方あるまい。別段、やましいことをしている訳でもない。悍ましく痛ましい過去をその身に背負って生きてきた彼に不足しているであろう愛情を、充分に与えるためだ。
そんな言い訳を重ね、葛藤に折り合いを付けた末、結局のところはネウクレアという癒しに頭の天辺までどっぷりと溺れていた。
一時は、彼が天幕に忍び込む姿を見られて騒ぎになる心配をしていたが、そんな気配は一向にない。夜間巡回の騎士たちですら、彼に気づいていないようだ。
ネウクレアは隠密が上手いらしい。
――気づかれずに済むのなら、それでいい。それ以上は深く考えないことにした。
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