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ルンルンのラスボス
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お金を稼げるのであれば、家にお金を入れることが出来るのであれば、もしかしたらあの家から出ることが出来るかもしれない。
そもそも我々のような下位貴族は花嫁修業のために高位貴族の屋敷で侍女として働くこともあるのだ。侍女か歌手かの違いなんて些事だろう。
ただちょっと気になるのは、クリストハルト・クロウリー専属ってとこだな。専属。
一応婚約者がいる身だし、この男の専属となると、両親や婚約者の許しが得られるかどうか。
彼と私に一切その気がないとしても、一応は未婚の男女なわけだし……得られるわけがないなぁ。
「うーん……一応婚約者がいる身なので、やっぱり専属歌手は難しいかと」
「難しいか……。でも、だとしたら、次はいつ会えるだろう?」
「次は、王家主催の夜会ですかね」
「……ってことは、3ヵ月くらい先?」
「そうなりますね」
「無理!」
まさかの断言。
いやでも無理って言われてもなぁ。
あ、ちなみにその王家主催の夜会には、ヒロインがフランシス・ヴィージンガーと共に選んだドレスで登場する。
今現在行われている夜会の数日後、私が領地に引きこもっている間に奴らは密会をするのだ。
まぁ密会と言っても王都に買い物に来たヒロインがヴィージンガーと遭遇し、なんやかんやでショッピングデートをすることになるだけだけど。
王家主催の夜会となると会場に来る女性たちは皆煌びやかなドレスを着る。だからヒロインはどれにしようかと散々悩む。そこでヴィージンガーが言うのだ。「君にはこれが似合うと思うよ」と、前世の彼女が着ていた物とそっくりなドレスを見ながら。
それでもしかして前世を覚えてるの? みたいな流れになるわけよ。でも覚えている様子はなくて、っていうもだもだじれじれする感じ。漫画として読んでるときは面白かったんだけどなぁ。
私がせっせとマキオンパールを収穫しているであろう間にお前らは楽しくショッピングデートですか、と思うと腹立たしいよな。
「なんとかもうちょっと頻繁に会えるようにしたい」
ガチの目をしている。
「必死だ」
私がそう呟いて笑うと、クリストハルト・クロウリーもほんの少しだけ笑った。
「前世の俺ね、死ぬ前の数年間ずーっと入院してたんだ」
「え、そうだったんですか?」
「うん。時々退院してたけど、もうほとんど入院してた。その時心の支えにしてたのが歌だった」
「なるほどぉ」
そんな話を聞いてしまったら、なんかもうちょっと頻繁に会って聞かせてあげたくなるな。私なんかの歌で良ければ、だけど。
「入院してると外の空気も吸えない日が多くてさぁ。気分もどんどん落ち込むし」
「へぇ」
「自殺防止かなんか知らないけど窓も開けられないんだよ?」
「え、そうなんですか」
「そうそう。空気のいいところに行って肺一杯に綺麗な空気を入れたいなと何度も……あ、そうだ、旅行!」
いいことを思い付いたみたいな顔をしている。
何事かと思いながら首を傾げていると、彼はとても楽しそうに言うのだ。
「君を呼ぶんじゃなくて、俺が行けばいいのか!」
と。要するに、我が領に旅行をしにやってくるつもりらしい。
まぁマキオンパールの収穫時期はガラスの百合が綺麗なこともあり、我が領唯一の観光シーズンと言っても過言ではない。とはいえさほど有名ではないので、沢山人が来るわけではない。
「俺が行っても大丈夫かな?」
「あ、はい、一番いい宿の一番いいお部屋をご用意いたしますけれども……公爵家のかたがそんなに簡単に旅行の予定を立てても大丈夫なんですか?」
「公爵家って言っても三男だよ? 兄さんたちは元気だし、跡継ぎでもない俺はそのうち爵位も失うし自由なもんだよ」
「なるほど」
「だから別にいい宿のいい部屋じゃなくても」
「あ、それは公爵家のかたがいらっしゃるわけですし、いいお宿のいいお部屋に止まってもらえれば、貴族の娘である私が侍女として呼ばれるんじゃないかなと」
「なるほど天才!」
どうも天才です。
そんなわけで、旅行の日程が決まったらまた手紙を送るね、という話になり、クリストハルト・クロウリーはルンルンで帰っていった。
ルンルンのラスボスか……面白いものを見たな。
結局彼が我が領に来ることになるし、私が歌うことになる可能性は高いけれど、彼にも情を移さないようにしなきゃいけないよね。
どうせヒロインに一目惚れするわけだし。
最終的に悪魔に魂を売るレベルでヒロインに惚れ込むってことは、友達の存在だって忘れてしまうかもしれない。
彼の場合、別に忘れられたところで害はないが、寂しい気持ちにはなるだろう。私を必要としてくれる人なんてやっぱりいないんだなぁって。
「はぁ」
一つため息を零して、私も帰ろうと思ったところで女性たちの声が聞こえてきた。
「素敵でしたわねぇ、フランシス・ヴィージンガー様」
「あんな素敵なダンス、初めて見ましたわ」
「キラッキラしていましたものねぇ」
あーやっぱキラッキラしてたんだぁ。
「でもお相手の女性は誰だったのかしら?」
「婚約者のかたではありませんでしたわねぇ」
「彼の婚約者のかたは、なんというか、もっとぼんやりしたかたでしたものね」
流れるような悪口。
別にいいよ。いいけどね。本当のことだもんね。知ってる知ってる。
はぁ~しかしあの家どころかこの国から、いやこの世界から出たい気持ちだけが募っていくな。
生まれながらの大富豪として日本に戻りてえ。そんでもう誰とも関わらずに引きこもりてえ。
そもそも我々のような下位貴族は花嫁修業のために高位貴族の屋敷で侍女として働くこともあるのだ。侍女か歌手かの違いなんて些事だろう。
ただちょっと気になるのは、クリストハルト・クロウリー専属ってとこだな。専属。
一応婚約者がいる身だし、この男の専属となると、両親や婚約者の許しが得られるかどうか。
彼と私に一切その気がないとしても、一応は未婚の男女なわけだし……得られるわけがないなぁ。
「うーん……一応婚約者がいる身なので、やっぱり専属歌手は難しいかと」
「難しいか……。でも、だとしたら、次はいつ会えるだろう?」
「次は、王家主催の夜会ですかね」
「……ってことは、3ヵ月くらい先?」
「そうなりますね」
「無理!」
まさかの断言。
いやでも無理って言われてもなぁ。
あ、ちなみにその王家主催の夜会には、ヒロインがフランシス・ヴィージンガーと共に選んだドレスで登場する。
今現在行われている夜会の数日後、私が領地に引きこもっている間に奴らは密会をするのだ。
まぁ密会と言っても王都に買い物に来たヒロインがヴィージンガーと遭遇し、なんやかんやでショッピングデートをすることになるだけだけど。
王家主催の夜会となると会場に来る女性たちは皆煌びやかなドレスを着る。だからヒロインはどれにしようかと散々悩む。そこでヴィージンガーが言うのだ。「君にはこれが似合うと思うよ」と、前世の彼女が着ていた物とそっくりなドレスを見ながら。
それでもしかして前世を覚えてるの? みたいな流れになるわけよ。でも覚えている様子はなくて、っていうもだもだじれじれする感じ。漫画として読んでるときは面白かったんだけどなぁ。
私がせっせとマキオンパールを収穫しているであろう間にお前らは楽しくショッピングデートですか、と思うと腹立たしいよな。
「なんとかもうちょっと頻繁に会えるようにしたい」
ガチの目をしている。
「必死だ」
私がそう呟いて笑うと、クリストハルト・クロウリーもほんの少しだけ笑った。
「前世の俺ね、死ぬ前の数年間ずーっと入院してたんだ」
「え、そうだったんですか?」
「うん。時々退院してたけど、もうほとんど入院してた。その時心の支えにしてたのが歌だった」
「なるほどぉ」
そんな話を聞いてしまったら、なんかもうちょっと頻繁に会って聞かせてあげたくなるな。私なんかの歌で良ければ、だけど。
「入院してると外の空気も吸えない日が多くてさぁ。気分もどんどん落ち込むし」
「へぇ」
「自殺防止かなんか知らないけど窓も開けられないんだよ?」
「え、そうなんですか」
「そうそう。空気のいいところに行って肺一杯に綺麗な空気を入れたいなと何度も……あ、そうだ、旅行!」
いいことを思い付いたみたいな顔をしている。
何事かと思いながら首を傾げていると、彼はとても楽しそうに言うのだ。
「君を呼ぶんじゃなくて、俺が行けばいいのか!」
と。要するに、我が領に旅行をしにやってくるつもりらしい。
まぁマキオンパールの収穫時期はガラスの百合が綺麗なこともあり、我が領唯一の観光シーズンと言っても過言ではない。とはいえさほど有名ではないので、沢山人が来るわけではない。
「俺が行っても大丈夫かな?」
「あ、はい、一番いい宿の一番いいお部屋をご用意いたしますけれども……公爵家のかたがそんなに簡単に旅行の予定を立てても大丈夫なんですか?」
「公爵家って言っても三男だよ? 兄さんたちは元気だし、跡継ぎでもない俺はそのうち爵位も失うし自由なもんだよ」
「なるほど」
「だから別にいい宿のいい部屋じゃなくても」
「あ、それは公爵家のかたがいらっしゃるわけですし、いいお宿のいいお部屋に止まってもらえれば、貴族の娘である私が侍女として呼ばれるんじゃないかなと」
「なるほど天才!」
どうも天才です。
そんなわけで、旅行の日程が決まったらまた手紙を送るね、という話になり、クリストハルト・クロウリーはルンルンで帰っていった。
ルンルンのラスボスか……面白いものを見たな。
結局彼が我が領に来ることになるし、私が歌うことになる可能性は高いけれど、彼にも情を移さないようにしなきゃいけないよね。
どうせヒロインに一目惚れするわけだし。
最終的に悪魔に魂を売るレベルでヒロインに惚れ込むってことは、友達の存在だって忘れてしまうかもしれない。
彼の場合、別に忘れられたところで害はないが、寂しい気持ちにはなるだろう。私を必要としてくれる人なんてやっぱりいないんだなぁって。
「はぁ」
一つため息を零して、私も帰ろうと思ったところで女性たちの声が聞こえてきた。
「素敵でしたわねぇ、フランシス・ヴィージンガー様」
「あんな素敵なダンス、初めて見ましたわ」
「キラッキラしていましたものねぇ」
あーやっぱキラッキラしてたんだぁ。
「でもお相手の女性は誰だったのかしら?」
「婚約者のかたではありませんでしたわねぇ」
「彼の婚約者のかたは、なんというか、もっとぼんやりしたかたでしたものね」
流れるような悪口。
別にいいよ。いいけどね。本当のことだもんね。知ってる知ってる。
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