ハズレ職? いいえ、天職です

陸奥

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別れと始まり

手慣らしはクエストで

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 おじさまが工房の奥に引っ込み、金属がぶつかり合う音や何かを切る音などの騒音を立てながら作業を始めてしまった。何もすることがないからといってこのまま外に行くのは失礼かなの思って、工房の中をヴァイスとエリと一緒に見て周る。

 冒険者の人たちが使う武具の他に、畑などで使う運搬車や鍬、鋤、鎌といった農具もあるし、家庭で使う鍋やフライ返し、お玉などまでも陳列されている。さらに見たことがない物まであって飽きが全く来ないくらい楽しい。前世のお店でも色んなのがあって面白かったけど、異世界のお店はもっと面白い。

 ヴァイスやエリも長生きはしていても武具屋に来たことがないのか、色々と興味津々のようだ。

「嬢ちゃん、できたぞー!」

 しばらく店の中の物を見ていると、そう声がかかった。どうやら鞍が出来上がったようで、急いでヴァイスたちと一緒にカウンターへ向かう。

「嬢ちゃん、待たせたな。これがその魔獣の鞍だ」

 ドン、とカウンターに乗せられたのは全体的に黒く、縁が山吹色の鞍でヴァイスに似合いそうな物だった。こんな立派な鞍が出来上がるなんて、このドワーフのおじさまはすごい。

「わあ!ありがとうございます!」

「おうよ。とりあえず付けてみてくれ。違和感がありそうなら調整してやる」

「はい!ヴァイス、着けるよ」

 そう声をかけて鞍をヴァイスに付けてみる。こうして自分で着けられるのは、屋敷にいた時にモルヴィスたちに鞍や馬銜、手綱とかの付け方とか教わってたからだ。主に馬でだけど。

「ヴァイス、違和感ない?」

(問題はないな。それどころか重みを感じない)

「これお代です。重さを感じないくらい問題ないって!」

「ガッハッハッ!そうかそうか!」

 代金を払いながら念話で聞いたことを素直に伝えれば、おじさまは豪快に笑う。職人さん故に自身が作ったのを褒められたのは大層嬉しかったようで、手入れ道具をおまけしてくれた。

 このお店の人気前が良いね。

「嬢ちゃん。冒険者なら荷物もたくさん出るだろう。その鞍に荷物を括り付けることができるぞ」

「ありがとうございます!」

 マジックバックはないけど、スキルを習得したらなんとかなりそうだ。鞍に取り付けるのは必要な物で軽い物をヴァイスに任せよう。

──────────
───────
───

 色々と見て回ってから1時間くらい経って、入り口付近にケニスたちが集まってきていた。どうやら用事が済んたようだ。

「ユウキたちも使う武器が決まったし、俺たちも欲しかったものが無事買えた。時間もあるし手慣らしをしに行くか」

「どこに?」

「クエストを受けに、だ。まあ、最初は採取くらいになると思うがその合間に、だ。俺たちも見守りで行く」

「わかった」

 ゆっくりしようと決めてたけど、ヴァイスに着けた鞍の乗り具合と刀と薙刀の使い心地を確かめたいしモルヴィスの案に乗って私たちはギルドに戻ることに。どんなクエストがあるのか楽しみだ。


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