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13 神殿からの追放6
しおりを挟む翌朝。教皇を除いた神殿に仕えている者全員が、神殿の裏口に集まっていた。その最前列でしょんぼりとしていたのは、クリスだ。
「クローディア様。領地までお送りできず、申し訳ございません……」
「気にしないでください。今日は聖竜城での定例会議の日ですもの。馬車も用意してくださいましたし、神官騎士が護衛してくださるので大丈夫ですわ」
「暇を見つけて必ずお伺いしますので、それまでどうかご無事で」
まるで娘を戦地にでも送る親のような顔をしながらクリスがそう述べると、後ろのほうからクローディアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「筆頭聖女様! どうか私達もお連れください!」
人をかき分けて現れたのは、旅支度をした女性の見習い神官が三名。その中には、昨日クローディアの世話をしてくれた見習い神官の姿もある。
どうやら彼女らは、クローディアの世話を続けるつもりのようだ。
「今まで私の世話をしてくださり、ありがとうございます。皆様のご好意には感謝いたしますが、私は一人でも立派にやっていけますわ」
「ですが……」
見習い神官達は不安に満ちた表情で、お互いの顔を見合わせた。クローディアに前世の記憶があると知るはずもない彼女らは、クローディアが一人暮らしをできるとは到底思っていなかった。
けれどクローディアは、一人暮らしへの不安など微塵も感じていない様子で三人に微笑みかける。
「皆様が一人前の神官になる日を、私も楽しみにしています。ですから夢を諦めないでください」
「筆頭聖女様……」
「そうですよ。クローディア様になにかあれば、私が対処しますので。皆はこれからも竜神様へお仕えください」
クリスがこの中で一番、クローディアについていきたそうな顔をしている。そんな彼に止められてしまえば、見習い神官達は諦めるしかない。
「筆頭聖女様、どうかお元気で……」
「一生の別れのように思わないでください。きっとまた会えますわ」
クローディアはがっかりしている三人を慰めるように、一人ずつハグをして別れを惜しむ。彼女達には毎日、本当にお世話になった。
それから、集まっている皆へと視線を向けたクローディアの顔は、実に晴れ晴れとしたものだった。
「皆さんが支えてくださったおかげで、私はこれまで筆頭聖女を務めることができました。今まで本当にお世話になりました。これからはどうか気軽に、ディアと呼んでくださいね」
神殿入りしてからずっと、クローディアは年下でありながらも、彼ら彼女らから敬われてきた。その期待に応えようと気を張り続けてきたが、やっと肩の荷が下りたような気分になる。
そんな彼女の、年相応の笑みを見て取った神殿の者達は、急に年上のような顔つきで口々にクローディアへと言葉をかけた。
「ディア。寂しくなったら、いつでも手紙をくださいね!」
「領地はこちらより寒いですから、体調には気をつけるのですよディア」
「困ったことがあれば、いつでも呼び寄せてくださいディア」
まさか今すぐ呼んでもらえるとは思わなかったクローディアは、瞳をぱちくりしてから満面に笑みを咲かせた。
「皆さん、ありがとうございます」
最後の最後で、皆との距離がもっと近くなれた気がする。クローディアは、感謝の気持ちでいっぱいになりながら馬車へと乗り込もうとした。
その時。一瞬だけ辺りが陰ったので、クローディアは反射的に空を見上げる。
(あっ……。オリヴァー様)
クローディアの瞳に映ったのは、黒竜が悠々と翼を広げながら大空を飛行している姿。
「黒竜が今日も飛行していますね」
馬車に乗るクローディアに手を貸していたクリスは、空を見上げながらそう呟いた。
「今日も、ですか?」
彼らは竜に変化することはできるが、必要がある時にしか竜にならない。
「ディアはいつも、お祈りをしている時間ですからね。この時間帯になると毎日、黒竜はああして首都を見回るように飛行するのですよ」
「知りませんでしたわ」
「竜があのように飛行するのは、番を求めている時だと言われておりますが。殿下には婚約者がいらっしゃるので、飛行がお好きなのでしょうね」
「そうですか……」
この時間といえば、かつてクローディアとオリヴァーが待ち合わせをしていた時間帯だ。
クローディアにとっては今でも鮮明に思い出せる、二人だけの約束。
けれど、狭い視野の中で生きてきたクローディアとは異なり、オリヴァーにとってはすでに特別な時間ではないはず。
(懐中時計は置いてきたもの。いつまでも過去の思い出に浸るのは止めなければ)
クローディアは最後のお別れとしてもう一度黒竜を見上げてから、馬車へと乗り込んだ。
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