地味な私が天敵俺様イケメン部長に娶られそうなんですがそれは

１０５．刻印の相手の未来

「おい」

「んん～……」

「おい…流石にそろそろ起きろよ、バカ！」

「っ！ええ！？」

  夢の中で誰かに呼ばれまくってる…なんて思ってたら、声がやけにはっきり聞こえ出して、目を開けると真っ赤な瞳が不機嫌そうに見下ろしていた。

  な、何故この人がまだここに……

  ハッと脳内がようやく回転を始めて、理解に及び、心臓が熱を上げる。

  もしかして私あの後寝ちゃった！？
  この人の前で！？
  まさか……

「い、一緒に寝てました…？」
 
「はぁ！？
誰が餌と寝るかよ！
あんたが気失った後一度帰って戻ってきたんだふざけんな！」
「ひっ！！」

  ガコン！と物凄い爆発音がしたと思えば、彼の握った拳が私の机に大穴を開けていた。
  まるでそれが発泡スチロールで出来ていたかのような、なんというあっけなさだろう…
  破片は飛んで来なかったものの、大穴と同時にひび割れた影響で足を支えられなかった机は内側に足を崩すように倒れた。

  さようなら…私の机……

「ご、ごめんなさい…言葉が滑りました…」

  ただでさえ私を嫌いな吸血鬼なのだから、もっと言葉に気をつけなければ……

「言葉と思考に気をつけろ。
次は殺す」

  ほら言ってるそばから…
  ただでさえ心が読める相手で厄介なのに…

「はい」と大きく頷くと、彼は金髪の頭を掻きながら、反対の手に持っていたらしい用紙をぶっきらぼうに差し出した。

「昨日渡せなかった転勤先の資料だ。
どこがいいか今日中に決めろ」
「き、今日中…！？」
「当たり前だろ。
人間の手間じゃ処理に1週間はかかるだろうしな。
その代わり、コネがあるから電話一本で転勤確定だ」
「コネって…吸血鬼ネットワーク的な感じですか…？
転勤先に吸血鬼がいたり…？」

  吸血鬼ばかりが働いてる場所に刻印の私なんか入ったら速攻で死ぬのでは…？
  などと不安に頭を巡らせてると、レオはフッと小馬鹿にしたように笑った。

「吸血鬼はいない。
俺は一華と違って顔が広いんだよ」

  得意げに笑うレオの口元に、牙が見えた。

  だ、誰かを脅してるんじゃ…

「んなことするかよ。
てめぇを吸血鬼の巣に放り込んだらすぐに死ぬ。
そしたら一華に行くからな。
てめぇが地方に飛ぶだけでだいぶマシなんだ。
まぁ、吸血鬼なんぞいなくてもてめぇは短命だろうがな」

  レオはサラッと心を読み返事をしながら、先程大穴を開けた机の隅に手を伸ばしたかと思えば、まるでコインのつかみ取りをするかのようにバリバリと音を立て、ただの木屑にする遊びを始められてしまった。

  手遊びの度合いが悲惨すぎる。
  やめて…それ以上死体蹴りしないで…

  そんなこと心の中で呟きながらも、レオの方を見つめる。

  レオは本当に部長を大事にしているんだなぁ…

  朝帰ったっていうのは、やっぱり、私を殺さない為なのだろう。
  寝起きに食事を求めて殺してしまう、なんて普通にありそうだ。

  そう考えて、自分の軽率さに脳内で不安を覚える。
  
  刻印の人間は短命…

  レオはやけに刻印の相手について詳しいように思う。
  本当に部長の一件だけで憎んでいるのだろうか？

  レオは…

「レオさんは…刻印の相手に会ったことあるんですか？」

  小さな声で呟きたはずなのに、レオはピタリと動きを止めた。

「あるよ」

  やっぱり…！
  じゃあ……

「その人とは、どうなったんですか？」

  レオの経験話に期待していると、レオはゆっくりと振り返った。

  その表情が、あまりにも怖くて、私は息を止めてしまった。

「出会ったその日に食い殺してやった」

  喜びが滲むような、その見たことない笑顔と殺気に、吸血鬼の残忍さを、改めて思い知った気がした。