この結婚は間違っている!

アリス

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第二章:狩りの王女様と観察のお姫様

隣の国のお姫様は狩り盛り♪

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ハッシェアーノ王国を南へ
…。
古代都市・アスタロト──なんだか、タージ・マハルを彷彿とさせる丸い屋根の石造りの“城”と幾つかの“民家”、“市場”、“大通り”…“教会”に“図書館”──“時計塔”が街の中央…“噴水広場”の向こうに見え、刻々と時を刻んでいる。
 「…ここが、古代都市・アスタロト…不思議な揺らぎがあるわね。」
 「はい。そこがダンジョンへの“入り口”みたいです」
 「ティアは来たことないのかしら?」
 「…普通“姫”はダンジョンに行きませんよ」
 「そうなの?」
 「…お姉さまには当て嵌まらないようですわね」
 「ええ♪私は魔法の試し撃ちによく潜ってましたわ☆」
とっても楽しそうにウインクするリリアージュ。
一応ティリアの義理の姉になる…そう、かつて一年ほど留学しに来た事があり、その時の同級生で案内役でもあったのがティリアだ。
 「…目に浮かびますわ」
溜め息混じりに呟かれた台詞に元気良く頷くリリアージュ。
…天真爛漫すぎる。
 「…はあ。それで魔石狙いですの?」
 「ええ、出来れば高純度な魔石が欲しいですわね」
本来なら商人でも城に呼んで手配すれば早くて済む。
済む…が。
プレゼントはで用意したい、とささやかな女心である。
海水浴には向かないこのワンピースとロングコートはダンジョンだと別だ。
場所によっては凍土の大地や溶岩地帯、一面が毒沼の所もあって中々危険。
 「古代都市ここは初めてだから楽しみですわ。確か…ランクB~S相当の魔物モンスターが居るのよね?」
 「はい。実際に調査に訪れたAランク冒険者パーティ“風の民”に窺いましたから…確かですわ。」
 「そう」
リリアージュはダンジョンに潜った事があるが、それは国内に限定したもので、他国のダンジョンは潜った事がない。
…リリアージュが4人居れば他国だろうと簡単に踏破できていただろう。
実際には“時間”が足りないのだ。
帝王学に王妃教育、他国の情勢・文化事情…それらに加えて学園での予習復習。
幸いと言うか…ハッシェアーノとリュグディカルトは隣国で言語も文字も同じものを使う。
この大陸にある残り二つの国もそう変わらない言語と文字を使用する為語学に関してはそう苦労しない。
 「…何処から見ますか?」
 「そうね…近くから順に見てまわりましょう」
にっこりと笑って空間からいつでも武器を取り出せるように視界揺らぐ地へと踏み込む。

 「襲われましたわ!あらあらどうしましょう?」

朗らかなリリアージュの言葉。
とても悲壮感なんてない、楽しそうな弾んだ声。

 「…はあ、リリィ…一応迷宮よ?もう少し危機感を──って…ああ!?」

無詠唱で向かい来るミスリルゴーレム3体、その背後にキラーウルフ5体、一番後ろにリッチが3体…が何やら魔法を放とうとして先に発動したリリアージュの魔法がそれぞれの魔物の核を正確にジャベリンで撃ち抜く。

 「…!?リリィってこんなに凄かったっけ…?」
 「あらあら、うふふ♪楽しいですわ♪」

 「グギギギィッ!!」
 「ギギィ…」
 「ギャンッ!?」
 「ギャヒンッ!」
 「…ッ、…。」

魔物達の断末魔がここまで届く。

…まず、現れた先で魔物の襲撃を受けた→リリアージュのジャベリン発動、同時に風魔法で吹っ飛ばされる(5㎞先の壁にぶち当たる)→ポポンッ!とドロップ品に変わる→またまた無詠唱で風魔法でここまで運ぶ。

…今、ここ。
この間僅か1分。
…ねぇ、リリアージュって化け物?

この古代都市に出てくる魔物は決して弱くない。

寧ろ、ランクSの冒険者パーティですら、時と場合であっさりと狩られるのだ。

先に出た“ミスリルゴーレム”これはこの迷宮で出会すと死を覚悟する。

 「うふふ♡ミスリルがゲット出来ましたわ♪お得ですわね」

…その身は薄緑色のボディ。全身をミスリルで出来ている。
体長5m…腕も足も太い。
ゴーレムの癖に魔法を撃ってくる面倒なやつ。
その巨体から繰り出される拳や踏み潰し攻撃は一発でも食らうとぺしゃんこになる。

 「…さあ、次は何かしら?」

わくわくとドロップ品を確認しているリリアージュ…その背後からバシリスク──石化攻撃をしてくる大きなトカゲ──が、

 「はっ!?」

ちゅどーん☆されていた。

…分からない?
ごめん、私も分からない。

説明しよう。
ドロップ品を確認しているリリアージュの背後に忍び寄って来たのはバシリスク──のだった。
それを指先一つ──、そう、まるで友人に“デコピン”するような気易さで空気に圧縮された魔力を放ったのだ!
…それが当たってバシリスクの群れ──30匹はいた──を撃破した。
さながら幽○白書の主人公の“霊○”のように…!!

 「…私、居る?」

見た目“魔法使い”だから…のティリアが案内役を買って出たのだ。

ティリアはこの細腕で剣の達人──“姫騎士”である。
一応、リリアージュの護衛であるのだ。

…まだ入り口からそう離れていないのに襲われた──のに、剣を抜く間がなかった。

 「いるわよ、ティリア。あなたがいないと一人寂しく採取しなくてはいけないのですのよ?…私、一人は嫌ですわ。」
 「…リリィ……それ、結局私要らないじゃないの」
ガックリ、とティリアは項垂れた。

…取り敢えずはドロップ品を回収し終えたリリアージュは再び歩き始めた。

 「…都市型のダンジョンは趣があって良いですわね~」
 「…今度陛下とデートに来られてはどうですか?」
 「まあ、それは素敵ね!」
ティリアの提案に喜色満面に同意するリリアージュ。

…また某護衛と某参謀が胃を痛める事案になるが…リリアージュとラインハルトが気づく筈もない──否、をするのだろう。

次代の王の二人はそんな家臣の心労よりも己の楽しさの為、この“ダンジョンデート”を敢行するのだ。

 「ティリア、行きますわよ!」

リリアージュの声はどこまでも明るい。

忌避感も恐怖もしていない。
リラックスしている。
…え?
ティリアは黙ってリリアージュの後ろを着いて行く。
時折「おほほ」と笑う女王様リリアージュの笑い声がティリアの精神を無邪気に抉ってくるが。

概ね、攻略は順調である。

民家に宝箱──中身はハイポーション。

 「ハズレね」

そう言うけれど…他の冒険者には有り難がられる。

ダンジョン産のポーションは無味無臭で持たれないのだ。

これが人が作った物だと…胃がたぷたぷになるわ、薬品っぽくて苦いわ、回復量もまちまち……よっぽどの薬師か錬金術師でないと高性能な物は作れない。
…しかも高い。
材料となる薬草や聖水、魔石の質で変わる。
…だから、ダンジョンで例え低位でもポーションが出ると有り難がられる。
治癒師ヒーラーが居ない冒険者パーティならポーションは必需品だ。
疲労回復にも使える優れもの。

…断じて、リリアージュのように“蔑ろ”にしていいものではない。

 「…どうするの?売るの?」
 「ん~~、一応持っておきましょうか。どこかで使うかもしれませんもの」

そう言うとさくっとアイテムボックスに仕舞うリリアージュ。

 「そう…じゃあ、行こう」
 「ええ」

にこにこと楽しそうに危険なダンジョンを練り歩くリリアージュ。
…その纏う空気は相変わらず穏やかだ。
まるで近所に散歩に行くかのよう…。



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