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第十六話

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 倉庫バイトに応募した。倉庫バイトと言えば募集媒体には書かれてはいなかったもののほぼ確実にフォークリフトがあるものだ。実務経験はほとんどないがそれについて書かれていないことを考えると、持っていて有利になることはあっても不利になることはないだろうと都合の良い思考である。実際書類審査で履歴書を送るとしばらくして電話が来た。

「フォークリフトの免許をお持ちということで良いですね?」

やはりこの倉庫でも使うようである。ということで書類選考は無事受かり(落選した人がいたのかどうかはわからないが)面接へと向かった。そうしたらいきなり驚くことになった。集団面接をするというのである。実は物流会社の面接で一度経験していたのだが、バイトで集団面接ははじめての経験だった。なんでも向こうの採用担当が忙しいらしく時間短縮のために一気に選考したいからという理由みたいだ。しかも3人というのは先に述べたときよりも多い……ほかの参加者は子供も大きい年配者(自分も決して若いわけではないけれど)の方たちで、先に説明を受けていた通りシフトは少ないため定年後のちょっとしたパートという感じだろうか。周りの意見を気にしながらの質疑応答というのは何とも緊張するものであったが、思っていたよりかはほかの人たちもそこまで気の利いた返答ができている当感じもしなかったのは少し安心した。(まあ相対的に見たら自分が一番ひどい回答をしていたのだろうけれど)そして自分だけがフォークリフトの資格を持っていたようでこれは大きなアドバンテージになるとも思った。(とはいえ実際その倉庫に置かれていたフォークは教習所や一度だけ工場で転がしたタイプのものとは違うリーチと言われるものだったため経験0だから全く評価されないという可能性も考慮しないといけなくなったのだが)
何だかんだ面接は普段のものより長引いてようやく終わろうとしたところでいきなり面接官は冊子を取り出した。どうやら例の物流会社の二次試験でやらされた心理テストのようなものを実施するらしい。はっきり言ってこの時点で気分は萎えていた。実は研修期間中はこの倉庫でなく電車で1時間くらいかかる本社かどこか別の場所でやるかもしれないと聞いていたのである。自宅近くで短時間からできるバイトだから応募したのにそんなところに行かされるならそのメリットがなくなるじゃないか! そう思った時点でもうここに本気で受かりたいという気概はなくなっていたため物流会社の二次試験を突破するときに使った(実はこれには二度落ちた過去があった)自分の心理と真逆の回答を行うという陰キャコミュ障必須のテクニックをやらなかったのである。それが決め手になったのかどうかは定かではないが無事数日後には不採用のメールが届いた。もう落ちるのには完全になれてしまっていたしわざわざ電車に乗って遠くへ研修へ行く羽目にならなかったことを考えると安堵しかなかった。

「なに落ちたのに安心してんのよ、危機感が足らないのよアンタは!!」

ビリビリビリリリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

危機感があろうがなかろうが受かるものは受かるし受からないものは受からないだろう……。
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