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再び、異世界へ
03
しおりを挟む王宮の廊下をアナスタシアと歩きつつ、話す。
ゼクスさんは仕事を切り上げるために執務室へ戻り、セバスはそのお手伝いに。ターニャとライラは私の好物を作る為に邸へすっ飛んで帰って行った。
馬車?…誰かが用意してくれるでしょう、多分。
「それにしても、だが。これからなんと呼ぼうか」
「ん?私?コーネリアでいいんじゃないの?」
「いや、さすがにまずいだろう。どう見ても2年で成長したとは言えないし」
「まあ確かに老けたし・・・っていうか、2年って何?」
「ん?・・・いなくなってから2年経っているが?」
「は?1ヶ月でしょ?」
2人で歩きながらの会話。
なんかおかしいかもしれないが、いつもの如くどこかからオリアナが現れて私を確認したあと『人払いをいたします』と言って消えていった。
…彼女を見ても、アナスタシア見ても、2年経ったとは思えないんですけど?
アナスタシア曰く、私があそこから元の世界に戻ってから本当に2年経っているそうだ。
あらびっくり、私の中では1ヶ月なんですけど。でもこっちから向こうへ戻った時も2年半が3日だったし、時間の進み具合が一定じゃないんだな。
さすがは異世界ですよ、恐れ入っちゃうね。
それ故に、18歳前後だった『コーネリア』を今の私…アラフォーの見た目の私が『コーネリア』と名乗るのは不自然らしい。
しかも、コーネリア姫は外遊に出ている事になっているそうだ。
「あとの詳しい話は、とりあえず邸に戻ってからするとして?名前、名前ねえ?」
「何かあるか?呼んで欲しい名があればそれでいいと思うが」
「『コズエ』はまずいのよね?」
「そうだな、避けた方がいい。ネイサム・タロットワークもそうしたから変えたのだろうから」
『いさむ』が『ネイサム』だから上手いわよね~
『こずえ』だともう何のひねりも出来ないんですけど?
『コーネリア』をひねり出すのにも何日かかったかって話。
この先ずっと使うとなると、適当に考えると悲しい事になるし…
回廊を抜け、出口近く。アナスタシアも『まあ気長に考えてもいい』なんて言っていたのだが。
しかしイベントフラグは立っているのである。
「アナスタシア?こっちに来ていたのか」
「フリードリヒ?何故王宮に?」
逆光で見えなかった1人の影。
その人はアナスタシアを認識し、こちらへ歩いてきた。
フリードリヒ・クレメンス。団長さんだ。
うわー、なんて所で会うのよこれ。
なんて言うイベントのフラグですか?『ピンチ!』とかそういう名前?こっちに話を降らないでねアナスタシア!
アナスタシアはスタスタ、と団長さんに近寄ると話を始める。よし、この隙にサクッと通り過ぎましょう、そうしましょう。
私は極力2人の方を見ないで歩く。こっち向くなよ、向くなよ、向くなよ、
「あ?ああ、陛下に呼ばれていてな。
そちらの麗しい女性は誰かな?アナスタシアの知り合いだろう」
向いたぁーーー!!!
アホか、フリードリヒ・クレメンス!!!
こんな時に社交スキルを使うな!こっち見るなー!
しかしそんな事を思っていればいるほど、フレンさんはにこやかに近付いてくるのである。蹴り倒して逃げる…とか無理よね?
アナスタシアがチャキ、と、剣を抜きかかっているのを目線で抑える。何しようとしてるのアナスタシア!こんな所で殺傷事件なんて起こさないで!
が、頑張れ私、女は女優!
「こちらはどなた?アナスタシア」
「・・・こいつは私の夫、だ」
「まあ、そうでしたか。初めまして、アナスタシアの旦那様」
「お初にお目にかかります、レディ。近衛騎士団団長をしております、フリードリヒ・クレメンスと申します。
どうぞその美しい手に、口付ける名誉を頂ければ」
「どうぞ、お好きに」
「感謝致します」
手を取り、恭しく口付けを落とす。
なーんか、フレンさんの調子が違う…こんなにスマートで大人なフレンさんを初めて見ましたけど…?
「フリードリヒ、私は彼女を送らないとならない」
「そうか、止めてすまんな。・・・失礼致しました、レディ。
またお目にかかる機会がありましたら、是非」
「ええ、こちらこそ。行きましょうか、アナスタシア」
これ切り抜けたんじゃね!?
なんかよくわかんないけど、すごくスマートなフレンさん見たけど、これはこのまま退場できるやつだよ!
歩き出した私の背に、しかしラストミッションが降ってくるのである。
「ああ、お名前を聞き忘れていました、レディ」
聞かんでええやろそんなの!妻のいる前でそんなん聞かんでええと違うんかい!!!
思わず使い慣れない関西弁で突っ込む私。声にでてないだけ優秀だと思いたい。
えーと、名前、名前…!出てこねえ!!!
「フリードリヒ、お前、私のいる前で堂々と口説くんじゃない」
「悪い悪い、こんなに魅力的な女性がいるとは思わなくてな、つい。お名前は秘密ですか?レディ」
「いいのよ、アナスタシア。
─────エンジュ・タロットワーク、と申します」
「っ、タロットワーク、」
「アナスタシアとは従姉妹に当たりますの。今までずっと外国にいたんですけど、少しこちらに滞在するつもりです。
私の事は、あまり外部に話して欲しくないの。お分かりかしら?フリードリヒ様」
「理解致しました。お気をつけて」
「ありがとう。さあ、行きましょうアナスタシア。
・・・オリアナ?居るわね?この事、ゼクスに伝えなさい」
「畏まりました、エンジュ様」
********************
馬車に乗り込んだ私たち。
カラカラカラ、と動き出したのを確認し、私は叫ぶ。
「ああああああ、危なかったぁぁぁぁぁぁ」
「恐れ入ったよ、あそこまで食い下がるとは思わなかったな、フリードリヒの奴め」
「なんだってあんなに食い下がるかな!?」
「それは・・・まあ、あれだな。コー・・・、エンジュがフリードリヒのタイプにストライクだったからだ」
「・・・はあ?」
「フリードリヒの女の好みは、エンジュに近い」
えっ?そうなの?
アナスタシアによると、愛人のキャロルさんもどことなく私に似ているそうだ。コーネリアであった少女の頃とは違い、今の私はまた違う雰囲気らしい。
・・・なんだこっちの世界だと私モテ期が来てるのか?
アナスタシアはふふっと笑って私を見る。
「それにしても、エンジュか。いい名前だな」
「もうひたすら考えて、自分の元の名前に1文字でも入った名前・・・って思ったらこの名前しか出なかったわ」
「いいんじゃないか?呼びやすいし、しっくり来る」
ネーミングは某少女漫画ですよ…!
ぼく○球…好きなんだよな…!『エンジュ』は槐の木、から取っている。元々『コズエ』も木の梢から取っている名前だし、『木』繋がりでいいだろう。
他にもっといい名前あったのかもしれないけどさ…?
フレンさんは国王陛下の所に行く、と言っていた。
オリアナにゼクスさんにこの事を話して、と言っておいたから、後はゼクスさんが何とかしてくれるだろう。
アナスタシアといるには『タロットワーク』を名乗るほうがいいし。…タロットワークに繋がってる血、みたいだからね。
さてさて、2年も経っているとは思わなかったなあ。
もしかしたら、シリス殿下とエリーの間に子供ができたりしていないかしら?
カーク殿下とアリシアさんも結ばれているかもしれない。
キャズやディーナ、ケリーはどうなっただろう。
タロットワークの騎士となった事で、困ったりはしていないだろうか。
『コーネリア』ではなく『エンジュ』となってしまったから、これまでのように皆に会うことは難しいかもしれない。
けれど、今どうしているかくらいは知りたいな。
あの人、・・・シオンの事も。
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