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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟む「燃~えろよ燃えろ~よ~炎よ燃~え~ろ~」
「あんた何歌ってんのよ!」
「和まそうかなって」
「和まないわよ!」
「キャズ、右手だ!」
ピシィっ、と鞭が翻る。聖水を振りかけたおかげで魔物の表面にジュワッと焦げ跡が付く。
…焦げる、ってことはアレも屍鬼化かあ。
あの後、薄気味悪い森を抜けるために上層へどんどん上がっていけば、36~39階層はもう死の森と化していた。
木は朽ちてはいないが、漂う雰囲気がものすごく悪い。
魔物も多くはないが、ほとんどが屍鬼化している。通常の武器では切っても死なず、怯まず、また復活する。
さすがに首を落とすと動かなくなるけれどね。後は動きが鈍い、かな。
何があるかわからないので、怪我をしないようにしてもらっている。しても私がサッと治すけどね、浄化魔法付きで。
引っ掻き傷を作ったキャズに浄化魔法を使った時の『獅子王』の顔が大変だった。すぐに溜め息ついて戦闘に戻ったけど。
「いやしかし・・・お前に付いてきてもらって正解だったな。こりゃ神聖魔法使える奴がいないと詰む」
「ここまで生物災害状態だとはね。やっぱり悪魔茸かしら」
「それ以外ねえな。冒険者が多く入れば、それだけ駒にする死体もたくさん出る。迷宮に吸収されはするが、それも一定時間が経たないと始まらないからな」
迷宮というのは不思議なもので、そこで出てくる魔物は倒すとドロップ品を落とす。素材となるものなどだ。
それ以外の死体は、時間が経つと迷宮内に吸収されるのだという。
「『獅子王』様、36階層を抜けます」
「よし、そこまで出たら休憩する。悪魔茸が出現していたのは36階層までだから、さすがにそれ以上は変化していないだろう」
「・・・その割に、悪魔茸って見てないけど?」
「あ」
「確かに・・・」
「ここで考えても始まんねえよ、とりあえず登るぞ」
35階層まで登る。
…と、そこには通常の森があった。
青々とした木々の緑が目に優しい。
キャズとディーナがへたり込む。
かなり気を張りつめていたのだろう。『獅子王』もどことなく疲れた顔をしている。
「休憩、しましょうか」
「だな。あいつらも頑張ったよ。エンジュ、お前は大丈夫なのか」
「私は大して動いてないし。時折回復魔法かけてたくらいだもの」
「なら、いいが─────っ!?」
「『獅子王』殿!」
「わかってる!シールケ!」
「はい!『探索魔法』!」
何かに気づいた3人。私?特に何も。
『獅子王』が前に、キャズとディーナが私を守るように前後に。
何かいるのかしら?シン、と静まり返る森に、ガサガサ、と茂みを揺らす音が響いた。イノシシとか?
ガサリ、と音を立てて現れたのは───人間。
「なんだ、ひと───」
「待て、何かおかしい」
「え?」
よろりよろり、と歩く人間。
それは、ボロボロになった服を纏い、顕になった手足は傷だらけ。
肌色は青を通り越し、土気色。
「・・・やば」
「ここまで、かよ」
「嘘でしょ、人まで?」
「冒険者、か?」
動きは緩慢で、素早く動く訳では無い。
しかしいきなりスピードアップする場合もある。
えっやだそんなの怖すぎ。
「GWAAAAAA」
「・・・冒険者、じゃなさそうだな」
『獅子王』は騒がずにその体を近くの木に串刺しにして縫い止める。じたばた、と動く様はまるで壊れた人形のよう。懐から聖水を取り出し、バシャッとかけるが、それは苦しみはするものの、動きを止める事は無い。
…ん?聖水かけたら動かなくなるんじゃないの?
「っくそ、止まらねえのかよ」
「燃やす、しかありませんか?『獅子王』様」
「いや、手はあるが」
ちらり、と私を見る。あ、神聖魔法?
そうか、燃やすのって時間かかるわよね、匂いもだけど。
さっきまでは魔物の屍鬼を片付けるのに火魔法を使っていた。しかしサクッとは燃えず、時間がかかるし臭い。
「それ行け『聖光槍』」
びゅん、すとん。しゅわっ。
光で出来た槍が屍鬼に刺さると、光の粒となって消えた。後に残るのは着ていた服、のようなボロ切れのみ。…この魔法、凄い効き目だな。
「・・・」
「え、あんなに一瞬で」
「そういうもの、なのか?」
「んな訳ねえだろ、効果ありすぎだ」
「え?こういうものなんでしょ?」
「普通はもう少し、あー、もういい。お前に負担になってないな?」
「ん?まあ、ほどほどかしら」
「わかった、頼む。疲れたら担いでやるから言えよ」
はあっ、とため息をつく『獅子王』。
私に呆れた、というよりも、人であったものを刺した事に参っているようにも見えた。
しかし、ここは35階層よね?悪魔茸は36階層までのはず。
…階層を上がってきている、のは間違いない。
「キャズ、やっぱりあのキノコ動いてる」
「そうね、じゃないとあんな犠牲者はここにいないはず。でも森の異変はまだ来てないのね」
「徐々に侵食しているんじゃないのか?つまり、いずれはああなるんだろう」
「・・・まずいな、急いで30階層まで上がるぞ。
さっきのもそうだが、こりゃ急いで迷宮主討伐してここを縮小なりさせねえとならん」
「ところで、悪魔茸、って何色?」
「あ?紫の傘だったか?」
「えーと?大きめ?」
「だな」
「じゃああそこにゆらゆらしてるのって、そう?」
ばっ!と3人が私の視線の先へ振り返る。
そこには身長が130センチほど?大きめの小学生くらいの大きさのキノコがゆらゆらしていた。
…うわあ、やっぱり某国民的RPGのキャラに似てる。舌噛まないのかしら。噛んだら死ぬのかしら?
と、ばふっと黄色い粉を飛ばしてきた。え、なんか汚い。
「っ!エンジュ!」
「『風の壁』」
びゅおおおおお。
黄色い粉はキノコの方へ。なにやら動きが怪しくなった。
「お前・・・大丈夫か?」
「なんか汚くてやだなって思って」
「あれ被ってたら毒になるぞ、下がってろ」
「あ、うん?よろしく」
『獅子王』とディーナが距離を詰めて攻撃。
途中、キャズが火炎球で援護。
「ねえキャズ、あれ焼けたらいい匂いすんのかな」
「黙ってて、気が抜けるわ」
「すみませんでした」
怒られました。そんなに言うかな?
疲れてるから気が立ってるのでしょうか。
ふと、後ろに何やらまたも紫色のキノコ。
え、そんなにポコポコ出てくるの?振り返るが、『獅子王』もディーナも忙しそうだ。
…ここは頑張るか。団長さんに教えてもらったやつ、練習がてらやっとこ。
「っ!?エンジュ、下がって!」
「『護法剣』」
光で作られた刃が出ること12本。
1ダース、と考えると使い勝手はいいのかな、この魔法。
基本的に自動で動くから便利。
とはいえ、3本ほどサクサクサク、と某戦乙女の奥義みたいに悪魔茸に刺さった。…あ、光の粒となって消えた。
「・・・えっ、ちょっと今の何」
「え?あれ?団長さんに教えてもらった虎の子の魔法」
「あんなのアリなの?」
「使い勝手はいいわよ?私の場合、『聖』属性入るみたいで、こういう時にうってつけかも」
「・・・じゃあ向こうも援護してみてよ」
「あ、うん」
見れば、ちょうど『獅子王』とディーナが距離を取っていた。
手をそちらへ振ると、数本すっ飛んで行く。サクサク、と刺さった後は光の粒と変わる。
ぐるん、と『獅子王』がこちらを見た。とりあえず手を振ってみる。
「・・・もうなんでもありだな」
「さすがはエンジュ様、ですね・・・」
「あれか?この魔法、『護国の剣』の奴か」
「あら、知ってた?この間教わったのよ、使い勝手はいいからって」
「んな簡単に覚えられるもんでもねえ魔法だがな」
「でもその代わり、これ使ってる時は他の魔法使えないわよ?」
「あのな、普通の奴はいくつも同時に使ったりしねえもんだぜ」
「・・・そうね、基準がゼクスレンやセバスなのがいけないのね」
「・・・基準が間違ってんな」
「そうですね」
「でも助かりました、このまま進みますか?」
「だな、早いとこ抜けちまおう。エンジュ、悪いが抱えるぞ」
私の返事を待たずに、『獅子王』は私をひょいと抱き上げて走り出した。全力ではないが、早足といったところ。
キャズとディーナも併走して走り出す。
折角なので、私は抱えられたまま周りに護法剣を出したまま。なので何かいると勝手に防御機能が働き、魔物を討伐している。そこかしこから光の粒が立ち上ってます。
「・・・最初からこうしてりゃよかったか?」
「んー、でもキャズとディーナのレベル上げもあるじゃない?」
「もういいわ、それより早く抜けてしまう方が先」
「確かにな。一刻を争う」
「っつー事だ。お前にゃ悪いが頼んだぜ」
「わかったわ、まあ無理そうになったら言うわね」
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