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森の人編 ~エルフの郷~
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しおりを挟む飛行魔法やキール君の関わっている研究についてああでもない、こうでもないと世間話のような取り止めのない話をしていると、いつの間にか獅子王達は酒盛りに突入していた。よく飲むな、と思っていると、女子2人も参戦している模様。
「あら、あの2人もお酒が好きなのかしら?」
「え?・・・しまった」
食事をあらかた終えて、私と食後のお茶とデザートを楽しみながら魔法談義に夢中だったキール君がちらりとテーブルの向こうを見た。獅子王、イヴァルさん、青髪君と共に女子2人が酒盛りしているのを見て、顔が引き攣る。
すると、斥候職君もこそこそと私達の方へ逃げてきた。
「おい、ヤバいぞキール」
「ウルズ、何故止めない」
「気が付いたらもうあの状態だったんだよ」
「・・・知らないぞ、何があっても」
「何?酒乱なの?」
意外にもあの大人しそうな僧侶ちゃんがグビっと飲んでいる。飲める子に気を良くして獅子王が更に酒を注いでいる。…酔い潰して襲わないでよ?本人合意の上なら良いけども。あれ?確か青髪君とデキてるんだっけ?
斥候職の子が私を見て、椅子に座る前にペコッと頭を下げた。
「すみません、ご挨拶が遅れて。青の均衡で斥候職をしています、ウルズです」
「ご丁寧にありがとう。エンジュ・タロットワークです」
「あと2人も挨拶してなくてすみません。あっちの狩人がミレイユ、僧侶がシェリアといいます。酒入っちまってるんで、また明日改めて」
「いいのよ別に。律儀にありがとう」
「いえ、『偉大なる女魔術師』に向かってそんな訳には」
「・・・ごめんなさい、何その呼び名」
「あ、すいません。知りませんよね。冒険者の間では、レディ・タロットワークはそう呼ばれてて」
何その厨二病チックな呼び名は!!!
えっ、こういうのって冒険者にだけ付くものじゃないの!?しかも本人知らない間に付いてる!!!
よくよく聞けば、ゼクスさんにもあるらしい。『魔術の王』という名が。やだそっちは格好いいかもしれない。セバスにはないのかしら。『暗黒魔王』とか。
私とウルズ君が話している間にも、キール君はチラチラと酒盛りを伺っている模様。私が見ているのに気付いて、バツの悪そうな顔をした。
「どうしたの?」
「・・・いえ、お気になさらず」
「すんません、あいつら酒乱って訳じゃないんですが。ここ最近ちょっと揉めてまして」
「パーティ内の揉め事?」
「まあ、そうっすね。というか、ジョシュアと2人の間というか」
「巻き込まれるのは苦痛だ」
ハッ、と諦めの入った乾いた笑いをするウルズ君と、ボソリと本音を零すキール君。これは思った通りの三角関係。いつだったかキャズが言ってた『男女関係の縺れでパーティ解散説』もあながち本当の話かも。
やっぱりあれね、吊り橋効果。
「モテるわねえ、青髪君」
「確かに頼り甲斐もありますしね、ウチのリーダーは。・・・でも女癖だけは悪いですけど」
「・・・優しいといえばいいんですが。時には突き放す事も視野に入れて欲しいと思います」
「えーっと?貴方達、ギルドから依頼されてここへ来たのよね」
「はい」
「魔獣討伐の依頼だけなのかしら?」
「・・・レディ、知ってるんですね?あの依頼」
「・・・俺は・・・遠慮したい」
苦笑いをするウルズ君。どんよりしたキール君。
ああなるほど、やっぱり彼等にもあの依頼来てるのね。そしてこの反応からすると、受けちゃったのね。
「受けちゃったのね?」
「いや、受けた・・・と言われると少し違うんですよ。話は聞きましたが、やるやらないは現地で各々判断してくれと」
「実際に確かめてみて、自分自身引き受けられるようであれば受けて欲しい、という内容です」
「ふうん、そうなの。まあ自分次第なら無理矢理というわけでもないのね。良心的じゃない」
「・・・レディは、その、大丈夫なんすか?」
「大丈夫、って何が?」
「その、・・・すいません、立ち入った事を聞きますが、レディと獅子王様は、そういう事ですよね?」
「ああ、その話?アルマが引き受けたいなら好きにすればいいと思うけど。エルフさん達も困ってるみたいだし。なんか強い子供が産まれそうな気がしない?」
「・・・凄いっすね」
「気に、ならないのですか」
「だって、あの人元からああだし。それは私がどうこう言う話ではないと思うわ?結婚した相手なら別だけれど。
なのに彼の夜の事情に口を出す権利は私にはないもの」
「そういう、もんすか?」
「そういうもんよ。・・・ああなるほどね、彼女達は青髪君のそれにピリピリしてるって訳?」
まあわからないことも無い。好きな相手が他の女とニャンニャンするってんだから、気にならないのは嘘になるだろう。私も若い頃は『浮気してるんじゃ…』と気を揉んだものだ。
しかし、獅子王に関してはそんな事をどうこう言う権利は私には無い。…いや、シオンにもないな。目の前でおっ始められたらさすがに文句も言うが、知らない間に知らない女性とそういう事に及んだとしてもだ。私は彼等の『女』でも『妻』でもないのだから、文句を言う事は筋違いなのではないか。
…とはいえ、理性と感情は別回線なので、納得いかない事もあるだろう。それが今の女子2人ということだ。
それにしても、彼女達2人もいるのに、よくエルフさんとニャンニャンしようと思うわね。それも凄いといえば凄い。…エルフさんの種の繁栄に人肌脱ぎましょう、という正義感から?
「彼奴らもレディのように割り切ってくれればいいんですけどね。さすがにそうも行かないようで。ジョシュアもそこを思いやってくれればいいんだけどなあ」
「・・・無理だな、ジョシュアにそんな気遣いができると思えない」
「・・・キール君にそこまで言われるってどうなの青髪君」
「ですよね」
「いや、私は女性に興味が無いわけではないですよ?ただ、今の自分はそれよりも魔法の研究に興味があるだけで。しかし種馬として働け、と言われてご婦人を相手にするというのもどうかと」
「種馬、ね。まあそこに恋愛感情がなければ、単なる生殖行為でしかないのよね。そして今回望まれているのはまさに『そういうこと』なのよね」
だからこそ、獅子王のようなそういうことを割り切ってドライになれる人が適任なんだと思うのだけど。現代なら精子バンクって奴があるからまだ気負わないわよね。あれって番号管理されてて、どこの誰ってわからないって話だし?経歴くらいは閲覧できるようだけど。
そんな風に機械的に子種を貰えるならば、気持ちも楽なのだろうけど。この世界にはそんなものはないので、子種を貰うならば、性行為が必要となる。
エルフにしてみれば、己の種の繁栄という非常に繊細な問題なのだけど。…そういえば、種馬となる男性側の意見は聞くけれど、母体となるエルフさんの方はどう思っているのだろうか。
「どうかしましたか?」
「ふと思ったんだけど、その子種が欲しいっていうエルフさん達ってどのくらいいるのかしら。その人達はどう思っているのかなって」
「・・・そーいや、そうですね」
「私達に声が掛かってはいますが、相手を紹介された訳ではないんですよね、実際」
「そうなの?彼も?」
「ジョシュアにも・・・来てない、よな?」
「恐らくは来てない、はずだ。私達もここへ来てまだ3日ですから」
「私達も昨日来たばかりだし・・・アルマの所にも来てない、と思うけど」
これは誰に聞けばわかるのかしら?
やっぱり族長であるディードさんかしら。
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