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森の人編 ~種の未来~
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しおりを挟む私達が話している内容を聞いていたのか、ディードさんがこちらへ席を移動してきた。
もちろん、酒盛り中の方々はそのままです。
「なにやら、興味深い話をしていますね?」
「あら、ちょうどいい所に来てくれましたね」
「なんなりとご質問を、レディ」
にこりと笑うディードさん。
私達に新しくお茶を煎れて持ってきてくれた。
ウルズ君やキール君も居住まいを正す。相手は森の人の族長さんだ。気さくに夕食に招いてくれはしているが、馴れ馴れしくしていい相手でもないという判断の様子。さすが、Aランクを目指す冒険者さんね。
「ああ、そんなに堅苦しくしなくて結構ですよ。若い方々のやんちゃな行動には慣れていますので」
「ディードさん?それは褒めてないです」
「おや?おかしいですね」
どこかズレていると思うのだが、ディードさんにしてみれば、彼等はまだまだ子供に見えているはずだ。彼は長い時を生きる種族なのだから。人間なんてみんな子供同様なのかもしれない。
「先程から興味深い話をしていましたね。そちらの男性陣は我々の繁殖活動に参加してくださるのですか?」
「繁殖・・・」
「繁殖活動、ですか」
「はい。その為に外界の冒険者ギルドへ募集を掛けさせて頂きましたので」
ディードさんの言葉に衝撃を受けている2人。
少なくとも、私も衝撃を受けている。まさか『繁殖活動』と言い切るとは。薄々感じてはいたものの、こちらとの考えがここまで違うとは思わなかった。
ディードさんはゆっくり、語りだした。
エルフの現状を。
********************
「私達が長寿なのはご存知ですよね」
「ええ、まあ」
「知ってます」
「長寿であるが故、なのか。それとも種族の特徴なのかは分かりませんが、我々が子を成すには『繁殖期』を待たねばならないのです。それも数十年に一度。個人差もありますが、人間に比べて子を成せる期間はあまりにも限定的で少ない」
ディードさんの話はかなり驚きの内容だった。
エルフが昔からそうであったのかどうか分からないが、ディードさんが子供の頃はまだ今よりも沢山子供の数もいたらしい。
それこそポコポコ産まれていたそうだ。だが、ある一定の時期からそれが難しくなってきた。
イヴァルさんが言っていた『血の濃さ』が問題になったのかもしれない。隔離されているかのような立地。同族同士での婚姻、子作り。世代を重ねる毎にそれはどんどん濃いものとなり、そして未来を作り出せなくなっていた。
時折、外界に出ていく者は、新しい命を宿して帰ってきた。
その産まれて来る命は、他種族の息吹を取り入れ、新たな風を吹き込み、命を繋いでいった。
…ただし、他種族の息吹を取り入れた者。つまりハーフエルフ達は長く生きられない。とはいえ100年は生きるようだが。300年近く生きる純粋なエルフからすれば短い命。
けれど、次世代を産み出す力や、成長していく力は純粋なエルフを上回るものだったと。
だからこそ、純粋なエルフの中でも他種族と交わり、子を成したいと願う者もいる。
そうでない者もいるが、それはそれとして新たな命を育んでいけばいいのだから。
「今現在、繁殖期を迎えている女は20名程でしょうか。他の郷にもいるようですが、それぞれ冒険者ギルドから数名ずつ来てくれているようなので」
「そういうことなんですね」
「ええ、繁殖期もあまり長く続かないんですよ。数ヶ月の間でしょうか。何しろ我々は性欲というものがあまりないもので。どちらかと言うとハーフエルフの方がありますかねえ。それで何とか保っているようなものなんです。
ただし、繁殖期の間は純粋なエルフもそれなりに相手を求める衝動があるので、子を成しやすいんですよ」
「よし、頑張りなさい2人とも」
「ちょ、何ですかいきなり!」
「いやいやいや、それでもちょっと」
「何言ってるのよ、エルフさん達の為でしょうが」
「待ってくださいよレディ、そうは言われてもですね」
「こちらにもそれなりに心の準備が」
「君達それだけ若ければ毎日でもいけるでしょう?」
「いやあの否定はしませんけども」
「・・・そうなのかウルズ」
「お前何裏切ろうとしてんだキール」
「私はそこまで女に飢えていない」
「飢える飢えてないの話じゃねーだろ」
「違うのか?」
「あ、あの、それって、恋愛感情は生まれないのでしょうか」
おそるおそる、と言った具合で声がかかる。
ん?と思って声の方向を見ると、僧侶ちゃんがこちらに来ていた。
なにやら頬を赤らめながら、モジモジしている。やだかわいい。
「なんだよシェリア、もういいのか?」
「も、もういいとは何ですか!私は呑兵衛ではありませんよ!」
「いや、十分だろ」
「それはですね!こちらのワインが美味しくて、ついつい」
見かけはかわいい小型犬のようだけど、中身は土佐犬かもしれない。か弱そうな見かけに騙されると大変な事になるかもしれません。彼女にすると尻に敷かれそう、男性陣。
いや待ってください、逆に考えると冒険者パーティでは手綱を握る関係としていいのではないだろうか。
シェリアと呼ばれた僧侶ちゃんは私の前で膝を付き、手を組んでお祈りポーズ。え、私神様ジャナイデス。
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、『偉大なる女魔術師』様。私、青の均衡にて聖職を務めております、シェリア・オージェと申します」
あっもう『偉大なる女魔術師』呼びってキャンセルできないのね?これ受け入れないといけないやつなの?コーネリアの時の『大公女』とかよりはマシ?
「ご挨拶ありがとう。よろしくね、シェリアさん」
「名を呼んで頂き光栄です、レディ・タロットワーク」
「・・・ええと、なんでそんなに畏まっているのかしら?」
「それはもちろん、レディが私など足元にも及ばない程の神力の持、モゴッ」
「ちょ、待とうか」
ニコニコニコ、とまさに聖職者です、というようなキラキラした笑顔で丁寧に答える彼女の口を塞ぐ。
待て待てこの子凄いこと言おうとしたよ?神力?なんですかそれ。まさか『聖』属性の魔力のことですか?
あれかしら、鑑定の力なくてもそれなりの高い能力の持ち主には見えてしまうのでしょうか。同類はわかるんでしょうか。
「な、なんでしょうか。私何かお気に召さない事でも申しましたでしょうか」
「あのね?私、神殿に所属してないのね。・・・それで察してくれたりはしないかしら?」
「・・・まあ、そうだったのですか。てっきりやんごとなきご身分でいらっしゃいますから、神殿には特例として届け出ているものとばかり。申し訳ありません」
「そういう方もいるのかしら?」
「はい、身分の高い方はそういう方もおられます。神殿にしても無理矢理というわけでもありませんから。旧王族ともなれば、それもあるかと思いまして」
やはり、同じ『聖』属性の魔力がそれなりに高いレベルである人にとっては、何となく同じ力を持っている人はわかるそうだ。
シェリアさんは、私が『聖』属性の魔力を持っていることを獅子王に確かめたらしい。しかもついさっき。何をしているんだあの筋肉ゴリラめ。
ちらりとそちらに目を向けると、獅子王も私の目線に気付いてこちらへ来た。
「んだ?何か文句ありそうだな」
「そうね、口の軽い男は趣味じゃないわ」
「悪い悪い、この場なら内輪ってことで構わないと思ってな。この先何かあった時にお前に出し惜しみしなくていいようにしとかねえと拙い」
「・・・縁起でもないことを言わないでくれる?」
「いや、それがまた現実になるかもしれねえ」
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