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第一章

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 倒したスライムを数えるのが面倒になってきた頃、首にかけていたギルドカードから短い謎の音が聞こえてきた。ちょうど十体目を倒した辺りだったから、この音が終了を知らせる者なんだろう。
「便利だね、最初からわかっていたら面倒が無かった」
 私は一人で呟きながら苦笑する。よく考えてみたら、倒した種類と数を記録する機能があると言っていた。つまり途中経過を確認する事も、もちろんできると考えていいだろう。音が鳴ったくらいだから。
「確認って大事だね」
 その辺の仕様も、聞いておけばよかった。確認を怠る様では、ミリエナに言わせれば高ランク冒険者にはまだまだ程遠い、という事かもしれない。
「まぁいいや、帰ろうか」
 私は周りを見回してみる。動き回ったせいで、来た道はもうわからなくなっていた。私は道を覚えるのが苦手である。街を歩く分には大丈夫なんだけど、似たような景色の連続は苦手だった。いつも誰かが側に居たから。
 私は頭を横に振ってから、もう一度周りを見渡す。何か目印になる物は無いだろうか。
「来るときは、ただひたすら真っすぐだったから」
 言い訳めいた声をあげて、私は一度ため息をつく。来る途中に目印になる物を見ておけばよかった。あるいは木に目印をつけるとか。
「仮のギルドカードにも、ナビゲートをつけてほしいね」
 私は、首にかけた仮ギルドカードを持ち上げながら、そう口にしてみる。それで何か変わる訳でもない。今回だけ頑張ろう。正式なギルドカードを手に入れたらナビゲートを使える。ナビゲートがどれくらい使えるのか分からないけど、期待しているぞ。ギルドカード君。私はチェーンを摘まんでいた指を離した。
 私はとりあえず当たりをつけて歩き出す。合っているかわからないけど、とりあえず進み続けたら森の端までたどり着けるはずだ。そこから周りを見れば、たぶん街が見えるだろう。もしダメでも、森の外の街道をウロウロしていれば誰かに会えるはず。最悪、街道の先には街がある。別の街かもしれないけど。
「よし! 問題ない!」
 頭の片隅に浮かぶ、本当に大丈夫かという考えを押し込みながら、私は進み続ける。


 それなりに歩いたはずだった。それなのにまだ森の中だった。私の希望的観測ではそろそろ森の端に来ていたはずだったのに。
「これは遭難というやつだろうか」
 声に出して確認したところで、誰も反応してくれない。不安を感じつつも、私一人なのだから誰かから返事が来たら、恐怖しかないと思い直す。
「いやぁぁぁ!」
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