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第一章

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 突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。私は必要以上に体が強張る。怖い事を考えていたから、そんな反応をしてしまった。人の声を聞いたせいで、一瞬だけ本当に見えない誰かから返事をされたのかと思った。
「いや、そんな事より」
 今のは悲鳴だった。ほとんどスライムだけだから、危険な場所じゃないはず。どうして悲鳴なんて。そこまで考えて、ミリエナの言葉が蘇る。
「今から案内する場所は、スライムばかりの場所ですが、他のモンスターもゼロではないので気を付けてくださいね」
 他のモンスターもゼロではない。あの悲鳴の主は運悪く、スライム以外のモンスターを引き当ててしまったのだろうか。でも、冒険者になるための試験が行われる場所だ。そこまで危険なモンスターはいないのではないだろうか。まだ冒険者にもなれていない私でも、助太刀くらいはできるかもしれない。私は悲鳴がした方向に走り出す。声の聞こえ具合からして、それほど遠くないはずだ。
 走り出してすぐに、悲鳴の主が見えてくる。私と同じくらいの年齢の女の子。前方を怯えた視線で凝視しながら、座り込んでしまっている。何かがいるらしい。私の視界からは木々に阻まれて『それ』の姿は見えない。女の子はなんとか距離を取ろうとして、座り込んだ状態で後ずさっている。でもすぐに後ろにある木に追い詰められてしまった。
「今行く!」
 私は声をあげた。女の子を追い詰めている何かが、それで逃げてくれたらと思ったけど、そんなに甘くないらしい。私の声に反応して女の子がこちらを見る。恐怖に歪んでいた顔が、少し和らいだ気がした。
 私は木々をすり抜けて、女の子の場所までたどり着く。それからすぐに女の子を背に隠すように立ちはだかった。女の子の反応的に、この子も試験を受けるためにここに居たのだろうか。助太刀をしよう、という目論見は外れてしまった。単独で目の前にいるヤツをどうにかしなければいけないらしい。
 私は女の子の恐怖の対象である『それ』と対峙した。気持ち悪い熱のこもった鼻息をあげるそいつは、薄く笑っている気がする。その様子だけで卑劣な本性がうかがい知れた。
「……オークだったっけ」
 豚と人間を混ぜ合わせたような人型のモンスター。学園の授業で少し勉強したぐらいで、実物は初めて見る。どれくらい強いのか分からないけど、少なくともスライムよりは強いだろう。実戦経験がさっきスライムをプチプチ倒したのが最初くらいな私が、どうこう出来る相手とは思えない。
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