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第二章

02

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 私は周りを見てみる。ここはどこだろう。どれくらい寝ていたのか。ランプの明かりだけで、部屋が照らされているのを見ると、とりあえず夜になっているのは分かった。
「ここは宿です、私の部屋で」
 私の考えを見抜いたエリスが教えてくれる。
「そうなんだ、ごめんベッド占領してて」
「いえ、そんな」
 朝に学園を出て、とりあえず冒険者ギルドに行って。そんな感じで行き当たりばったりで行動してたから、泊る所を確保していなかった。またエリスがそんな私の考えを見透かして、口を開く。
「今日はここに泊まってください」
「ありがとう」
 私はエリスの好意に甘える事にする。
 静かになった。お互い口を開かない時間が続く。窓の外から人の声が微かに聞こえてくる。酔っぱらっているのかなと思わせる感じの、そんな声。
「……私は」
 エリスがそう口にした。私が顔を向けると、エリスもこちらに顔を向けて、続ける。
「私は貴族の娘なんです」
 そう口にするエリスの座り姿はとてもキレイだ。背筋が伸びて、両手を行儀よく太ももの所に重ねている。会った時に感じた印象は、やっぱり間違っていなかったらしい。
「なんとなく分かってたよ、溢れ出る気品というか、そういうので」
 私の言葉で、エリスが少し反応に困った様に笑う。さすがにそうでしょうと胸を張るのも違う気がするし、でも隠しきれるとも思っていなかっただろうし。
「……私はもうすぐ結婚する事になっていたんです、顔も見た事がない方と、家の都合で」
「あぁ」
 私には思い当たる節が、いっぱいあった。そういう事の方がきっと多い。貴族という物は。王族にも近い物があるだろう。少なくとも自由に恋愛して、結婚するなんてそうそうない。
「だから、家を出ました……それで冒険者になったんです」
 やっぱり訳アリだったらしい。
「あっ、別にルネーナの事情を詳しく話せと言う意味で、私の事情を話したわけではないですからね」
 慌てた様子でエリスが否定する。その姿が少し可笑しくて、軽く笑ってしまった。
「なんで笑うんですか」
「ごめんごめん」
 機嫌を損ねてしまったのか、エリスは視線を前方に戻して、少し膨れる。ややあって、真剣な表情に戻って、呟くように言った。
「不可抗力と言っても、ルネーナの事情を聞いてしまったので、私も話さないと不公平かなと思いまして」
 そういう事か。
「ありがとう」
 エリスが微かに「いえ」と言った声が聞こえた。私もキチンと向き合うために、言葉にしないといけないかもしれない。私はエリスに自分の話をする事に決めて、口を開いた。
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