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第二章

06

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 翌日。朝ごはんを軽く済ませると、私とエリスはギルドの前まできた。それからたっぷり時間をかけて私はドアに手をかけて、そこからさらに躊躇する。エリスが何も声をかけてこないで、待ってくれているのが有難かった。昨日会ったばかりのはずなのに、もう長年連れ添ったかのように私の事を見守ってくれている。
 あまりエリスを、待たせる訳にいかない。私は思い切ってドアを開けた。
「……ッ!」
 ギルドの中は雑踏の声に満ちていた。笑い合う声。ふざけ合う声。方針が合わないのか議論する声。そんな声に満ちていたはずなのに、私が入ってきた事に気付いた途端、ピタリと静かになった。それから囁き合う声が、微かに聞こえてくる。
「ふぅ」
 私は一度息を吐くと、前を向いて中に進み入った。予想していた事だ。どうという事は無い。
「誰に話を聞きますか?」
 エリスが耳打ちしてくる。私はギルドの中を見回して、ターゲットを見定める。学園で見た事ある顔。その三人グループに向かって歩き始めた。
「あっ、ルネーナ殿下……様、す、すみません」
 私が近づくと、三人が揃って慌てたように謝ってきた。悪い事をしてしまった、という感じで居心地が悪そうにしている。
「ごめん、突然声かけて、大丈夫楽にして」
 そんな事言われて楽にできる様な神経の持ち主なら、最初からもっと違う反応だっただろう。そんな事を思いながら、口を開く。
「聞きたい事があって」
 私の言葉で、三人がさっきよりもさらに、恐れる様に体を縮こませる。何を聞かれるかわかっている様だった。それなら話は早い。
「グルシアの事なんて聞いてる? それに私の事」
 まず聞きたかった事はそれだった。私が突然髪を切り、グルシアが滅亡したと口走っていなくなったのだ。噂は広がっているだろうし、それに対しての教諭陣から何か説明があったはず。それを聞きたかった。
「あっ、あの、えっと」
 三人のうちの一人が、二人から押し出されるようにして前に出て口を開く。
「グルシアの殆どの都市が、同時多発的にモンスターに襲撃されて壊滅したと……それでルネーナ様は自暴自棄になって行方不明に」
「行方不明ですか」
 たまらなくなったのか、エリスが声をあげる。退学になった、あるいは追い出された、ではなく、私が自主的にいなくなったという事になっているらしい。
「それは、先生たちからの説明? それともただの噂?」
「先生たちが、そう説明していました」
 つまり学園長の意思と考えていいだろう。
「……ありがとうね」
 私は三人にお礼を言って、その場を離れた。
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