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第二章

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 部屋の中は昔に使われていたであろう机や椅子が、朽ち果てて散乱している。新しく調達してくる訳でもなく、でも片付ける訳でもなく放置している。もしかしたら、まだ最近ここを使い始めたばかりで、片付けられていないのか。単純に気にならないから、放置しているだけか。他にも原形が分からない物が、いろいろ朽ち果てて転がっている。
 気になる物は他にもあった。部屋の端、一ヶ所に無造作に置かれている物。まだ朽ち果てていない、新しい物。革の鎧などの防具類や剣などの武器類だ。私自身の装備と変わらない、ランクの低い冒険者が身につけていそうな物がそこにあった。そして、その近くには。
「……ふぅ」
 私はお腹の辺りにある気持ち悪い物を薄めようと、息を吸い込んで吐き出す。そんな事でこの気持ち悪さが消える訳がないんだけど、それでもやらずにはいられなかった。
「どうしましたか?」
 隣にいたエリスが、心配した様子で声をかけてくる。隠しても仕方がない事。私は小さく指を差して、それについて伝える。
「あれって……人の……だよね」
 どうしてもはっきり言う気になれずに、濁した表現に留める。そうして指し示した方向に、エリスが視線を彷徨わせた。しばらくして、それを捉えたらしい瞳は少しだけ揺らいでから閉じられる。
「……おそらくは」
 暗がりなせいでちゃんと見える訳じゃないけど、キレイに肉が取り去られた感じではない。足の一部に見える様な物や、指が残っている様子の骨が見える。それに、頭の骨は無いからここから見えない所に、生首の状態で転がっているかもしれない。
「オークは雑食でなんでも食べますが、肉を好みます」
 遠回しに、そういう事だろう、と言っているらしかった。つまりは落とし穴を使って冒険者を捕えて、食料にした。人間が猟をする様に、知恵を持ったオークがそうした。
 眉をひそめて、エリスが胸の辺りを握り締めていた。怖がっているわけではない。正義感に震えて自分を責めている訳でも、きっと無いだろう。ただ受け入れがたい事実に、そうせざる負えなかっただけだと思う。書物で読んだり、人から聞いたりして知っていた。そして、覚悟もしていただろう。でもその事実を実際に目にするのとでは、全然違う。
「はぁ……」
 エリスも私も絶対に、あんな風にはならない。その為に、敵の戦力をきちんと把握しなければならない。部屋の中のオークを見つめる。数は三体。さっき網を持った一体が出て行ったから、分かっているのは四体だ。あと何体いるんだろう。慎重に、見極めなければ。ここですべて倒しきりたい。自惚れだろうか。少しだけそんな事を思いつつ、オークの動きを目で追い続ける。
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