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第四章

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 おじ様との話を終えて、私達は街の自分の宿まで帰ってきていた。私はベッドの頭の方の壁に背中を預けて、膝を抱えて座っていた。エリスはベッドの端に腰掛けている。外はもう暗くなっていて、夜の街によく聞こえてくる酔っ払いの声が、いつも通り聞こえていた。今日も平常運転の様だ。
「王都に行けなくて残念でしたね」
 エリスがポツリと呟いた。気を使わせてしまってはいけないと思って、笑って返す。
「そうだよね、美味しい物食べ損ねたよ」
 そう言った私の顔を見て、エリスの笑顔は少し硬くなった。ちゃんと笑えていたつもりだったけど、そうではないらしい。正直それどころではないから、当たり前かもしれない。
「あぁ、あの……うん」
 何か言おうとしたエリスが、結局何も言えずに顔を正面に向けて黙る。
「ごめんね、変な空気にして」
 なんとなく申し訳なくなってそう伝えると、エリスはこちらを見る事をせずに顔を横に振った。
「私には分からない事なので、なんて声をかけたらいいか」
「とりあえず、大丈夫、落ち込んでる訳じゃないしね」
 そう。落ち込んでいるわけではない。ただどう受け止めたらいいのか分からないと言った感じだ。おじ様の言葉が蘇ってくる。
「ルネーナ・グルシア王女殿下、あなたに王位奪還の意思はあるか、それを問いたい」
 王位奪還。つまりはグルシアの王になる気はあるか、という事だ。私には兄上がいた。だから王位継承の件は頭の片隅にはあったけど、意識したことは無かった。それが突然こんな事になってしまって、戸惑わない訳がない。家族の死を受け入れたばかりで、いっぱいいっぱいだったのに。別のおじ様の言葉が蘇ってくる。
「俺の民に負担がかかってきた段階で、俺はグルシアの難民を追い出す」
 しばらくは大丈夫でもいつかはグルシアの民は居場所を失い、私が立ち上がらなければ、そのまま各国をたらいまわしにされて苦しむのだ。それは嫌だ。私は膝と胸の間に出来た空間に顔をうずめる。
「グルシアの人たちが心配なんですね」
「……うん」
 エリスの言葉に返事をする。ややあってベッドが少し軋む感じがして、それから私は体の左側に温かさを感じた。エリスが隣に座った様だ。
「王位奪還という話は、とりあえず置いておくとして、グルシアの方々と一緒に居てみるのもいいかもしれません、目の届く範囲に居ればひとまず安心でしょう、まぁ難民全てが同じ場所にいる訳ではないですけど、それでも」
 ある意味私も難民だから、グルシアの人たちと一緒に居て、運命を共にするのはいいのかもしれない。
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