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第四章

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 なんとなく定着してしまったセリフを、微笑と共に口にする。オークロードは一瞬足を取られて、すぐに体勢を持ち直した。それから足元や自分の周辺を見回す。
「礼ヲ言オウ……頭ガ冷エタ」
「……それはどうも」
 自分の全力が相手に良い影響を与えたのかと思うと、少し悔しくなる。まぁ、私の領域なのは変わりない。相手にとっては戦い辛い環境のはずだ。そう思っていると、オークロードは一歩踏み出す。しかもかなり力強く踏み込んだらしく、氷が割れる音がした。凍った地面が割れるほどの力を込めて踏み出せば、足を取られにくくなる。その事に気付いたらしい。さすが知能があるオークロードだった。
「……アァ、踊ロウジャナイカ」
 オークロードは、バカにしたようにニヤリと笑う。クソ。なんだか、恥ずかしくなってきたじゃないか。ただそんな考えている場合じゃない。私は氷煙を操って、オークロードをめがけて、近くの地面から氷の槍を作り出す。
 氷煙はこの領域の中では透明になっている。だからオークロードには見えない。はずなのに、氷の槍は避けられてしまった。そのままオークロードはこちらに駆け出してくる。その一歩一歩で凍った地面を砕きながら。
「強引な人は嫌われるよ!」
 スピードはさすがに遅くなっているけど、それでも早い方だった。オークロードはもう目の前まで迫っている。それならと、オークロードの背後から、氷の槍で襲いかかった。
「なっ」
 背中に目でもついているのか、と思う反応速度で体を回転させ氷の槍を避けると、オークロードはその遠心力で剣を振り抜いた。私は自分で出した槍に手をかけて、体を持ち上げる。振り抜かれた剣が足の裏を通り抜けた。
 オークロードは剣の勢いを止めないで、さらに体を反転させると、こちらに背中を向ける形になる。そして、勢いを使ってもう一度こちらに体を反転させて、剣を振りかぶる。私は、乗っていた氷の槍の根元の方に走り抜ける。後ろで氷が砕ける音がした。そのまま少し走って距離をとって振り返った。
「なっ」
 剣が、地面に突き刺さっている状態を想像していたけど、それは甘かった。すでに距離をとった私を、追いかけてきている。踏み出す事で割れる氷の音を聞き逃していた。振り下ろされる剣が見える。すぐに地面から氷の槍を作り出して、オークロードの剣にぶつける。それからすぐに横に飛び退いた。そして足元から、進行方向に氷の槍を作り出す。その氷の槍の根元から切っ先に向けて走り抜けた。
「空中なら無理でしょ!」
 私はそう叫んで、切っ先からジャンプする。
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