2 / 30
〝人殺し〟との再会 ②
しおりを挟む
***
三年前。
杏依は海原楽器の器楽教室で、ピアノ講師として働いていた。
梅雨の半ば、雨の降る昼間のこと。
いつものようにバイクで出勤していると、信号を無視して突っ込んできたトラックに横からぶつかられ、杏依の身体は宙に投げ出された。
そこから先は、記憶がない。目が覚めたら、病院のベッドの上に寝ていた。
生きている。そのことに安堵し、遅れて身体があちこち痛いことに気が付いた。
いろんなところを打ったのだろう。軽い気持ちで、両手を掲げてみた。
けれど、上がったのは左腕だけで、右腕はピクリとも動かなかった。包帯を巻かれ、そこにきちんとあるのに。
「あれ……?」
何度も何度も動かそうと試みた。けれど、右腕は全く反応しない。
ナースコールをし、駆け付けた看護師に右腕が動かないことを伝えた。
「トラックのタイヤ部分に巻き込まれていたみたいで、右腕は粉砕骨折されてるんですよ」
「粉砕骨折?」
包帯を巻かれた右腕に視線を落とした。ドクリと、心臓が大きな音を立てる。
けれど、右腕はここについている。いつか骨は治るんだから、大丈夫。そう、信じていた。
翌日、杏依を待ち受けていたのは、右腕の洗浄という壮絶な治療だった。
トラックのタイヤに巻き込まれた杏依の右腕は、油や砂利が身体の内部まで入り込んでいたらしい。その除去作業があるというのだ。
やってきた看護師に丁寧に包帯を剥がされると、突然器具を突っ込まれた。腕の肉の内部をえぐるように、ぐりぐりと器具を動かされる。
「痛い! もう無理です!」
「無理と言われても、やらないわけにはいかないんです。細菌感染は怖いですからね」
その間にも、腕の中を引っ掻き回されているような、壮絶な痛みに涙と叫び声を上げた。
逃げようと腰を曲げたら、看護師にぐいっと押さえつけられた。
これ、いつまで続くの!?
ひたすら泣いて、泣いて、泣いて我慢した。けれども我慢できず、痛みに叫ぶ。
毎日、恐怖で眠れなかった。事故から生還した喜びなど、どこかに去って行ってしまった。
三年前。
杏依は海原楽器の器楽教室で、ピアノ講師として働いていた。
梅雨の半ば、雨の降る昼間のこと。
いつものようにバイクで出勤していると、信号を無視して突っ込んできたトラックに横からぶつかられ、杏依の身体は宙に投げ出された。
そこから先は、記憶がない。目が覚めたら、病院のベッドの上に寝ていた。
生きている。そのことに安堵し、遅れて身体があちこち痛いことに気が付いた。
いろんなところを打ったのだろう。軽い気持ちで、両手を掲げてみた。
けれど、上がったのは左腕だけで、右腕はピクリとも動かなかった。包帯を巻かれ、そこにきちんとあるのに。
「あれ……?」
何度も何度も動かそうと試みた。けれど、右腕は全く反応しない。
ナースコールをし、駆け付けた看護師に右腕が動かないことを伝えた。
「トラックのタイヤ部分に巻き込まれていたみたいで、右腕は粉砕骨折されてるんですよ」
「粉砕骨折?」
包帯を巻かれた右腕に視線を落とした。ドクリと、心臓が大きな音を立てる。
けれど、右腕はここについている。いつか骨は治るんだから、大丈夫。そう、信じていた。
翌日、杏依を待ち受けていたのは、右腕の洗浄という壮絶な治療だった。
トラックのタイヤに巻き込まれた杏依の右腕は、油や砂利が身体の内部まで入り込んでいたらしい。その除去作業があるというのだ。
やってきた看護師に丁寧に包帯を剥がされると、突然器具を突っ込まれた。腕の肉の内部をえぐるように、ぐりぐりと器具を動かされる。
「痛い! もう無理です!」
「無理と言われても、やらないわけにはいかないんです。細菌感染は怖いですからね」
その間にも、腕の中を引っ掻き回されているような、壮絶な痛みに涙と叫び声を上げた。
逃げようと腰を曲げたら、看護師にぐいっと押さえつけられた。
これ、いつまで続くの!?
ひたすら泣いて、泣いて、泣いて我慢した。けれども我慢できず、痛みに叫ぶ。
毎日、恐怖で眠れなかった。事故から生還した喜びなど、どこかに去って行ってしまった。
1
あなたにおすすめの小説
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
強引な初彼と10年ぶりの再会
矢簑芽衣
恋愛
葛城ほのかは、高校生の時に初めて付き合った彼氏・高坂玲からキスをされて逃げ出した過去がある。高坂とはそれっきりになってしまい、以来誰とも付き合うことなくほのかは26歳になっていた。そんなある日、ほのかの職場に高坂がやって来る。10年ぶりに再会する2人。高坂はほのかを翻弄していく……。
いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜
こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。
傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。
そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。
フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら?
「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」
ーーどうやら、かなり愛されていたようです?
※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱
※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱
※HOTランキング入りしました。(最高47位でした)全ては、読者の皆様のおかげです。心より感謝申し上げます。今後も精進して参ります。🌱
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる