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第六章 旧領土奪還編

132 対ボルダード王国2

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 ボルダード王国王都を取り囲む夥しい数の魔物たち、それはMAOシステムにより強化された機械獣と言っても良い代物だった。
その戦力はエリュシオン単艦では太刀打ち出来ないであろう物量だった。
戦うことは出来る。しかし弾薬が切れれば数の脅威に潰されるのは間違いない。
俺は迷わず一時撤退を決断し命令を下そうとした。

「一時撤…」

『降伏ずる!』

「はい?」

 突然ボルダード王国側から音声拡大魔法で降伏が告げられた。

『我々に戦う意思はない。
ボルテア公国の使者に話を聞いた。
ボルテア公国の公子即位の件も了解した。
我が国も彼の国と同じ条件で従おう』

 全面降伏だった。
あれだけの戦力を持ちながら、何が何だかわからない。
とりあえず、降伏文書調印の席が設けられることになった。
しかも、ボルテア公国のような騙し討ちが出来ないようにと、陸上戦艦で調印するという。
まるで日本が戦艦ミズーリ艦上で降伏文書に調印した時のような感じになってしまった。

 降伏文書はキルト王国から奴隷として連れ去られた国民の返還と賠償、国境線の維持というボルテア公国降伏と同様の条件だった。
ボルダード国王が自ら調印し降伏は成立した。
この勢いなら属国化も成立しそうだが、俺はそこまでやる気はない。
これ以上国土や国民を抱えても俺には統治出来ないからだ。

「それにしても、MAOシステムを持つ魔王勇者の末裔だろうに、どうして戦わずに降伏したのか?」

「我々が魔王勇者の末裔だと気付いておいででしたか」

 ボルダード国王が驚きの声を上げる。
やはりそうだったのか。

「そりゃ強化された魔物を従わせているからには、関係者だってわかるさ」

「確かに我々は魔王勇者の末裔ですが、魔物をテイムすることは出来ても戦わせるような高度な制御は出来ないのです。
襲って来た魔物の被害を回避するためにテイムしましたが、既にMAOシステムは失われており、それが無ければ魔物の戦闘制御などとてもとても……」

 どうやら北の遺跡の調査結果にあったように、MAOシステムがこの大陸にはもう存在しないというのは間違いなかったようだ。
そして魔王勇者の末裔に残された能力は魔物をテイム出来るということだけ。

「するとあの魔物は戦えない?」

「御飾りです。
テイムして、ああやってあそこに居るだけで貴国以外には抑止力となりますからな」

 ボルダード国王が自虐的に言う。
なるほど、群雄割拠の戦国時代に生き残るためには、ああやって戦力を誇示するのも生き残りの手段なのか。
俺もあれを見て一度は撤退を決断したからな。
なんだか善良そうな国王だな。ボルテア公国の新公王に似ている。あ、まさか……。

 しかし官僚や国民までが善良とは限らない。
実際にキルトの民を奴隷として攫っているんだからな。
それがこの世界の戦争の常識だとしてもやりきれない。
しかし、これで少なくともキルト王国の国土は回復し、国民の返還も進むだろう。
治安維持のための兵力と抑止力の陸上戦艦を配置すればキルト王国は復活する。

「あれ? そうなるとズイオウ領のキルトの民はここへ帰るということか?
ルナトークもザールも国を取り戻したからには国民は帰りたいよな」

 俺はある重要な事に気付いた。

「もしかしてキルナール王国の国民はいなくなる?」

 三国まとめてキルナール王国だとしても、国土が分散しているので名目だけになりそうだ。
もしかして、これでまたズイオウ領でスローライフに戻れる?
むしろ王なんて立場は捨ててもいいかもしれない。

「あ、嫁たちを手放すのは嫌だな」

 彼女たちは国を捨てて王ではなくなったとしても付いて来てくれるだろうか?




お知らせ

 間が空いてすみません。
DBシンドロームにかかってしまい、今後の展開に迷ってしまいました。
あ、DBシンドローム(造語)とは新たな強い敵が現れて戦い続け、強さのインフレ状態に陥ることを言います。
新しいMAOシステムが発見され、また戦いを続ける。
これに作者は魅力を感じませんでした。
なので、このような展開となってしまいました。
戦いを楽しみにしてくれていた方々にはお詫びいたします。
次からはスローライフのほのぼの展開に入ります。
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