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三章 人間という生き物の本質

73 パーティーの最大火力

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「ちょ、グレンさんも拳ぶっ壊れるっすよ!」

「あーまあ多分大丈夫だ」

 そう言ってグレンは左手で結界に触れる。

「現状このパーティーの前衛を務める事になったが、アリサと比べりゃ動きが鈍い。だけど俺には俺の仕事ができるって所を自分の為にも改めて再確認しておきたい」

 そう言ったグレンの左手が発光し、リーナの作りだした結界に小さな魔法陣のような物が展開される。
 そして右拳にも展開される魔法陣。
 それらが展開された所で静かに息を吸い、そして。

「せい!」

 拳を振り下ろす。
 そして次の瞬間、響き渡る破砕音。
 グレンの拳がリーナの結界を破壊した音。

「……なるほど、拳でもこの辺りまではいけるか」

「あ、あの……グレン?」

 自分の力を再確認するように拳を握ったり開いたりしているグレンに問いかける。

「えーっと……なんだろう。ハンマー無しでもそれって、お前実は俺よりも無茶苦茶強いんじゃねえの?」

 なんとなく、グレンは俺と同格か少し上位に思っていたんだけど、こんなのを見せられると結構上に思えちゃうんですけど。
 だけどグレンは言う。

「単純な威力の話ならな。正直俺はお前のようにハンマーでぶっ飛ばされて、辛うじてでも無事着地できる自信はねえし、単純な身体能力じゃ間違いなくお前の方が上だろ」

「そ、そうか……」

 グレンがそう言ってくれるならそうなのかもしれない。
 でも……まあ実際にあの結界がどれくらいの硬度だったのかは分からないけど、グレンが砕けたなら俺も砕けるようになりてえ……怪我治ったらもっと筋トレしよ。

「しかし……なんか躊躇いもなくぶっ壊したっすね……流石にちょっと傷付くっすよ」

 そう言ってリーナがシュンとした表情で顔を俯かせる。
 そして何かやらかしてしまったとグレンは察したらしい。

「えーっと、ごめん……その、なんだ……ごめん」

 そう言って深々と頭を下げる。ガチ謝罪だ。
 だけど次の瞬間にはリーナの表情はケロっと元に戻る。

「いや私から吹っ掛けたんで別になにも傷付いてないっていうか、寧ろなんか凄いなーって思っただけっすよ。いえーい騙された」

「……」

 グレンはしてやられたとばかりに、顔を右手で覆って空を見上げる。
 ……なんでお前の洞察力こんな時には働かねえんだよ。俺はこの流れ掴めたぞ。
 ……まあ、当事者なら俺もガチ謝りしてたと思うけど。
 と、そこで頭を下げるグレンに対し、アリサが問いかける。

「えーっと今使った魔術って、さっき説明してた奴ですよね?」

「ああ。衝撃とかのエネルギーを操作する魔術。それ応用して拳のインパクトの衝撃を一点集中させて、結界の方には効率よく衝撃が伝わるようにしたんだ」

 グレンは簡単そうにそう言うが、その応用という奴はとても繊細な高等技術だ。普通に魔術を発動できただけじゃそうはならない。
 そして魔術そのものも初心者向けのものじゃない。
 一応以前村を出る前にそれを学んだ教本を見せてもらった事があるが、中、上級者向けの魔術だったのを覚えている。
 それを鍛冶師としての仕事の合間に必死になって覚えていたのを見ていた。
 曰く刀鍛冶としての活動に応用できないかと考えた結果らしい。
 ……鍛冶に関連するスキルを持っていないグレンが、少しでもその穴を埋めるために選んだ選択の結果だ。
 ……やっぱすげえよ俺の親友は。
 なんか俺の周りすげえ奴だらけだ。それはとても良いことなのだけれど。

「で、とりあえず実際砕いてみた感覚的にも、やっぱ強度は決して低くねえわ」

「じゃあどれだけ役に立つか分かんないっすけど、この魔術で今日は頑張ってみるっす。とりあえず先輩、ヤバそうな時は私の後ろで待機っすよ」

「た、頼りにしてるわ……」

 ……良い事なんだけど、素直に頷き辛いわ。
 まあでもふてくされても良い事なんて何もないから。元より今日はあまり戦力にならない事を自覚して此処に居るのだから。
 そんな中で三人の負担をどれだけ減らす事ができるか。
 とにかくやれる事を頑張ろうと思うよ。

 そう考えて、そして気持ちを切り替えるように三人に言う。

「よし。とりあえず確認する事は確認したんだ。さっさと進んで、こんな仕事終わらせちまおう」

「そうですね。行きましょう」

「分かってると思うが此処から先、何があるか分からねえからな。警戒は怠るなよ」

「分かってるっすよ。っしゃ、頑張るっすよ!」

 そして俺達は足を踏み入れる。
 魔獣の出現。
 謎の黒い霧。
 その原因があると思われる神樹の森へ。
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