クラス転移で俺だけ勇者じゃないのだが!?~召喚した配下で国を建国~

かめ

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第二章〜フューズ王国〜

第31話 洞窟での死闘

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「ほーら、起きて! 起きてってば!」

 むにゃむにゃ……もう起きないと行けない時間なのか。
 今日は試験があるので、一回目の鐘に間に合うように4時くらいに起きなければいけない。
 いつもは一回目の鐘が鳴る6時くらいに起きているので、凄く眠いし、外はまだ真っ暗だ。

「もうっ! ノアちゃんやっちゃえ!」

「えい♪」

「うひっ、あはっ。ストップストップ、起きるからストップ!」

 むぅ、この朝起こされるシュチュ好きだったから、もうちょっと楽しみたかったのに、こちょこちょで無理やり起こされてしまった。

 欠伸をしつつ、背伸びをして顔を洗う。カンナの作ったサンドウィッチもどきみたいなのを食べて身支度を済ませると、ギルドへと赴く。
 朝方だからか、まだ空気は冷たく、喉を空気が通るのがよく分かる。

「おはようございます、エルフィンさん」

「ああ、おはよう。昨日はしっかりと休めたかね?」

「まあ、そこそこです。少し試したいこともあったので」

「ほう、それは気になるな。今日の試験で見せてもらえるのかな?」

 そう言いながらエルフィンさんは少しニヤリとする。使うかどうかは分からないので適当に濁しておく。昨日はしっかり寝たし、回復ポーションなどの道具も買った。これで準備は満タンなはずだ。

「では、出発しよう」

 いつもはギルマスが試験監督者ではないのだが、今回は監督を出来る高位の冒険者がいないため、エルフィンさんが試験監督者だ。明らかにインテリ系なのに一応Aランクの冒険者でもあるらしい。荒々しい冒険者を束ねるためにも強くないと行けないのかもしれない。
 盗賊の巣窟はここから3時間ほど歩いた所にあるらしい。まあ早歩きで3時間なので、のんびり歩いてたら帰る頃には真っ暗になってしまうだろうけど。

 盗賊の巣窟に向かうまでの道中も試験の一環なので、道脇に飛び出してくる魔物を撃退しつつ進む。ちなみにエルフィンさんは基本想定外のことが起きない限り戦いには参加しない。もちろん殺されそうになってもだ。そのため、盗賊の巣窟でも常に命の危険が隣り合わせだ。

「あそこだ」

 エルフィンさんが指を指す方には、そこそこの大きさの洞窟があった。おそらく洞窟を拠点として活動しているのだろう。入口には柄の悪そうな男が二人立っている。おそらく見張りだろう。

「中にいる人数は推定で30人だ。私はここで待機しているので、非常事態があったらこれで呼ぶように」

 そう言われ、通信用の魔道具を渡される。流石に中にはついてきてくれないか……

「ノア、風魔術であの二人を無音で殺ることは出来るか?」

「はい、出来ます♪」

 ノアは、可愛く返事すると詠唱を始める。ノアの手から鎌鼬の様なものが飛んでいき、見張りの盗賊の首がスルリと地面に滑り落ちる。
 ドクンと心臓が鳴る。自分の指示で人が死ぬのは心底気持ち悪いものだが、覚悟を決めたのだから飲み込まなければならない。

「よし、行くぞ。いつでも接続コネクト出来るようにしとけよ」

 俺たち4人は、見張りが居なくなったことを確認すると、洞窟の中へと入っていく。洞窟の入口からは人が2人通れるくらいの通路が続いていた。少し歩くと人の声が聞こえてきた。少し開けた場所になっていて、10人くらいの男女がいた。

「ハハッ、今回も上物ばっかだな。そこの女とかすげぇデカいもん持ってるしよ」

「手を出すのはよしとけよ? 奴隷商に売って稼ぐんだからな。頭に殺されるぞ」

 どうやら数人の女性が捕虜として捕まっているらしい。盗賊だけなら魔術ブッパの火力でゴリ押しでも良かったが、捕虜がいるなら危険だろう。それに人数も5名ほどしかおらず、他に分散しているのだろう。爆発音で来た、他の仲間に囲まれたら大変だ。ここは剣で行くしかない。ステータスの確認だけ行い、余裕で勝てることを確認すると、俺は3人の方を見てコクリと頷く。これも事前に決めた合図だ。

 最初にカンナが飛び出していき、1人の首を落とす。他の男たちは混乱しているのか、口をパクパクしている。そこを後ろから俺やノアが攻撃し、殺す。リアンは後ろから他に人が来たら魔術を撃ち牽制してもらう訳だ。
 俺は背中から心臓部分に向かって剣を突き刺す。

「──あがっ」


 肉を斬る感触が手に伝わり、動悸が激しくなる。頭がすっと冷えて、軽い放心状態になる。背中から刺したので返り血はあまり浴びなかったようだが、剣の先に滴る赤い鮮血が生々しい。

 ……ああ、俺、人殺したんだ。

 なんとも言えない虚無感が身体を襲う。しかし、ここでクヨクヨしていては自分だけではなく、カンナ達の危険も誘ってしまう。
 呼吸を整えつつ、捕まっていた女性の縄を切って、外に走るように指示する。
 ここにいたら巻き込んでしまうかもしれないからな。

「敵襲だ!!」

 カランカランという鐘のような音と、洞窟内に響く怒号を境にチラホラと敵が集まってくる。

「だれだぁ? お前冒険者か。チッ、ギルドの依頼にでも出されたか。村の連中を取り逃したのが原因か?」

 何やらぶつくさ喋っている大柄な男は、左右に女を侍らせ、ジャラジャラと貴金属を身にまとっている。どっからどう見てもボスだろう。あのボスさえ倒せば指示系統が麻痺して倒しやすくなるはずだ。
 俺は火炎球フレイムボールを大柄な男に向かって放つ。

「うぎゃぁぁぁ」

 しかし、悲鳴を上げたのは大柄な男ではなく。他の男だった。

「俺に攻撃しても無駄だ。こいつらの誰かが全部ダメージを肩代わりするからな。つまり、お前達は全員倒すまで俺を倒すことは出来ないって寸法だ」

 大柄の男はいやらしい笑みを浮かべながら、侍らせている女の胸を揉んでいる。なるほど、お喋りなやつで助かったな。しかし、なかなか厄介だ。未だ敵は20人以上いる。

 相手は軽い陣形のようなものを組みながら、こちらを取り囲む。

「死ねぇぇぇ!」

 その掛け声を合図に一斉に襲いかかってくる。
 前衛はカンナ、中衛は俺とノア、後衛はリアンという具合に陣形を組み、出口を背にしながら、退路を確保しつつ戦う。リアンには敵が纏まっているところに魔術を打ってもらい、牽制してもらう。カンナは遊撃しつつ、俺とノアのカバーをしてもらう。俺とノアは魔術と剣を使い分けながら敵を殲滅していく。

「ほう、お前達若いくせにそこそこやるな。俺が直々に葬ってやろう」

 そう言うと、大柄な男が斧を持って立ち上がる。俺はステータスを確認するため鑑定を使う。



 名称:ギオルギード  年齢:37歳

 種族:人族

 職業:山賊

 状態:平常

 ステータス レベル:28

 HP:2600 MP:607 腕力:1787 体力:1590 敏捷:378 知力:276 魔力:453 器用:787

 スキル
 槍斧術LvMAX、腕力上昇Lv8、体力上昇Lv7、痛覚鈍化Lv6、皮膚硬化Lv6、筋肉鋼体Lv5、衝撃耐性Lv5、恫喝Lv6

 ユニークスキル
 狂化

 称号
 盗賊の長、殺戮者、元Bランク冒険者


 装備
 レッサードラゴンの皮鎧、銑鉄のバルバード



 うわ、かたっ! 何だこの如何にもタンカーです見たいなスキルの偏り方は。
 それに元Bランク冒険者だと!?
 これは一筋縄では行かないだろう。狂化も少し気になるな。

「カンナ、ノア、リアン、気をつけろ! そいつ滅茶苦茶硬い。そして元Bランク冒険者だ! 油断するなよ!」

 まだ敵は10人程残っているが、ギオルギードが前衛になったせいで殺りにくくなった。
 両手で振り回すバルバードは剣ではパワー不足でとてもやりあえない。攻撃範囲も広いため、迂闊に近づくことも出来ない。速度は遅いので避けるのは容易だが、後ろから他の盗賊の邪魔が入ったりする。
 ただでさえ、防御力が高いのに、ギオルギードの持つ魔道具のせいで魔術も効かない。1回カンナが魔術を打ち込もうとしたら、攻撃を受ける前提で突進してきやがった。ダメージが入れば怯むのでいいが、ダメージが入らないため、こちらが痛手をおってしまうだろう。

「てやぁ!」

「ふっ、……効かねぇよっ!!」

「かはっ…げほっ」

「大丈夫か! カンナ!」

「……だいじょうぶ…です……」

 カンナは脇腹に攻撃をもろに喰らい、苦痛の表情を浮かべている。
 現状は良くない。攻撃範囲が広く、パワー負けするので、剣でまともに攻撃をする事は出来ない、魔術で攻撃しようとすれば攻撃を受ける前提の捨て身攻撃をしてくる。魔術、剣術両方とも封じられ、このままだとジリ貧で負けてしまう。取り巻きを攻撃しようにも詠唱を唱える前に突っ込んできて魔術は使えないし、剣だと取り巻きを殺す前にギオルギードの攻撃を食らうだろう。

「仕方ない。ノア、カンナ! 集中しろ! 接続コネクト!!」

 奥の手だったが、しょうがない。

「──接続コネクト ──成功しました。個体名«カンナ»、«ノア»と意識を共有します」

 俺はカンナ、ノアと意識を共有する。

(カンナ! 大丈夫か?)

(回復ポーションを飲んだので……多少マシです)

(じゃあ、作戦を言うぞ。まず、ノアは暴風檻ブラストプリズンでボスの動きを一旦封じろ! その間は恐らくノアを攻撃しようとするから俺とカンナはノアを守るぞ。ノアがボスを封じたあとは、後ろの取り巻きを魔術で焼き払う。さっきまではボスが直ぐに潰しに来るからキツかったが封じてる時は可能なはずだ)

(りょうかい♪)

 ノアが詠唱を始めると、ギオルギードがこちらへと猛突進してくる。

「オリャッ!」

「えいっ!」

「ッチ、鬱陶しいやつめ!」

 ぐっ! 重い。まだ耐えれそうだが腕が折れそうだ。

暴風檻ブラストプリズン!!」

「うおっ! なんだこれは」

 ギオルギードは、風の牢獄に囚われ、身動きが取れなくなった。

「今だ!」

火炎伊吹 フレアブレス!!」

 火魔術LvMAXの大技が盗賊達を襲う。

「うわぁぁぁ!!」

 あっという間に丸焦げになり息絶える。
 残りはこいつだけだ。

「チッ、こんな若造に負けてたまるか!! うおぉぉぉぉ!」

 ギオルギードはいきなり叫び始めると、暴風檻ブラストプリズンをレジストする。俺は慌てて鑑定を使う。

 名称:ギオルギード  年齢:37歳

 種族:人族

 職業:山賊

 状態:狂化

 ステータス レベル:28

 HP:3900 MP:910 腕力:2680 体力:2385 敏捷:567 知力:414 魔力:679 器用:1180

 スキル
 槍斧術LvMAX、腕力上昇Lv8、体力上昇Lv7、痛覚鈍化Lv6、皮膚硬化Lv6、筋肉鋼体Lv5、衝撃耐性Lv5、恫喝Lv6

 ユニークスキル
 狂化

 称号
 盗賊の長、殺戮者、元Aランク冒険者


 装備
 レッサードラゴンの皮鎧、銑鉄のバルバード


 うげっ! ステータスが1.5倍になってる!

「アガガッガッガガ」

 もはや理性の欠けらも無いのか、意味不明なことをブツブツ言っている。
 やばい、まともに戦ったら恐らく負けるだろう。どうする……? どうすればいいんだ?

((ご主人様、魔力を注いで下さい! お願いします!))

(でも……制御出来なかったら……。いや、やろう。このまま何もしなかったら俺たちは死ぬ。僅かな希望に掛けるしかない。……1人だけ上げてもやや厳しいか……2人とも上げるとなるとリスクが高いが……)

(なんとか制御させてみせます! ご主人様お願いします)

 俺がカンナとノアに魔力を込めていくと、カンナとノアの身体が光り始める。
 やはり、魔力が反発して跳ね返してくる感触がある。

 ギオルギードは異変に気づいたようで、カンナとノアに攻撃を仕掛けようとする。

「ウガアァァァ!」

「させない!」

 リアンが魔術を行使し、牽制する。

「ううう……」

「くっ……」

 カンナとノアは苦しいのか、頭を押さえ付けている。20秒ほどで魔力を注ぎ終わる。

「うああああああ!」

 カンナとノアの目は爛々と光り、獲物を捉える表情になっている。不味い、制御出来ていないのかもしれない。

 ノアは獣化すると、ギオルギードに向かって斬撃を放つ。前までの比じゃない速度で連撃を行い、武器のバルバードにヒビが入る。

 そこにカンナが魔術を叩き込もうとしている。

「ノア! 危ない」

 俺は咄嗟にカンナを押し、詠唱を辞めさせる。

「聞こえるか! カンナ! 正気を保……ガハッ」

 俺はカンナに吹っ飛ばされ、地面へと転がる。回復ポーションを咄嗟に飲む。

「……うぐっ。カンナ! ……聞こえるか! 思い出せ! ……カンナと俺はパートナーだ! ……これからもずっと俺のとなりでいてほしい大事なパートナー! 目を覚ませよ!」

「私……私は……ううっ」

 ──称号《 立ち向かうモノ》を得ました。称号《 救世主》と結合します。

 ──称号《救世主》のLvが上がりました。現在、称号《救世主》のLvは1です。レベルが上がったことにより、個体名«カンナ»、«ノア»の負担が軽減されます。

 頭に中に機械音が響く。称号? よく分からないが、俺は暴走状態の2人を止めなければならない。

「あ、あれ? 私……あ、大丈夫ですか!? ご主人様!!」

「……ああ、大丈夫だ。正気に戻ったのか?」

「はい!」

「ノア! ノアは大丈夫か!?」

「ウォン!」

「よし、じゃあさっさとあいつ片付けるぞ! リアン!」

「私もいけるわ!」

「大丈夫か! 君たち! なかなか出てこないけど何があったんだ!」

「エルフィンさん! 少しの間でいいのでアイツを足止めしてくれませんか!」

「ああ、分かった」

 俺たちはエルフィンが足止めをしてくれている間、詠唱を始める。

「行くぞ!石弾《ストーンバレット 》!」

 俺はいつもの10倍以上魔力を込め、回転をかけて発射した石弾《ストーンバレット 》はギオルギードの腹に突き刺さる。

「水流刃《アクアブレード》!」

 リアンの魔術が腱を斬ったことによって、ギオルギードの巨体が崩れ落ちる。

「トドメです! 爆裂《エクスプロージョン》!」

「台風《ハリケーン》!!」

「グァァァッ!」

 2つの合体魔術により、ギオルギードが爆散する。ものすごい熱風と衝撃が足から伝わる。

「崩れるぞ! 逃げろ!」

 魔術により、壁が破壊されたため崩落しかけている。
 疲れた身体に鞭打ちながら、外へと飛び出す。丁度出るのと同時くらいに洞窟が崩壊し、入口が塞がる。

「はぁ、はぁ…はぁ…」

 俺は地面へと倒れ込む。

「はぁ…勝ったんだな…俺ら」

「はい! ご主人様!」

 俺は疲れのあまり、そのまま眠りに落ちてしまった。
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