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幸せは、思いがけず突然やってくる。……いやほんと、予想以上の展開だよ!?
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『本当に、本人なの?』
『うん』
ぼうぜんとして問えば、彼は照れたようにうなずいた。
遮断機があがって、人の波が動き出す。
それに合わせて歩きながら、私は好きな作家との思わぬ出会いにまだ呆けていた。
嬉しいというよりも、現実感がない。
『君は俺のことを”評判の作家”だと言ってくれたし、そこそこ部数も刷ってもらっている。ネットで取り上げられたり、感想ももらっているしね。だから俺の小説を読んでくれている人がいるのは知っているんだ。けど、自分の小説を目の前で読んでくれている人を見たのは初めてだったから。それで君から目が離せなかった。怖がらせて、悪かった』
『初めて?』
『あぁ。日本はもちろん、イギリスでも、身内以外では直接は見たことがなかったんだ』
『サイン会とかはあるでしょ?』
『そうだね、そういうところではファンだと言ってくれる人に会ったことがあるよ。けど、それと偶然出会った人が自分の本を読んでくれているのを見かけるのは、インパクトが違うというか……』
顔を赤くして、照れ照れとリチャード・ライターが言う。
『なるほどね。それで、私を見ていたのね』
『あぁ。話しかけようとも思ったんだけど、なんだか照れくさくて。けど、すごく楽しそうに読んでくれていただろう?だから、声をかけたくて。……迷っていたんだ』
『話しかけもせずに追いかけてくるほうが怖かったわよ』
『ごめん。ふだん人に話しかけるのは照れたりしないんだけど、自分の書いたものを読んでくれている人だと思うと、なんだか無性に照れくさくて』
ごにょごにょと言い訳しつつ、慌てている様子はなんだかかわいかった。
追いかけられたと言っても、ただ短距離を後ろから歩いてこられただけだ。
周囲に人も多かったし、若い女の子でもないので、対処もそれなりにできる自信はあった。
恐かったというよりも、面倒なので避けようとして危険な目に合ってしまっただけだ。
彼に対する怒りは、特になかった。
まして彼が、あの面白い小説を書いている本人だと知ってしまっては。
『まぁ、もういいけど』
くすりと笑えば、おそるおそるこちらを見る。
『許してくれるの?』
『大げさ。そもそもそんなに怒っていないし。私、リチャード・ライターのファンだから』
『それは……、ますます申し訳ないというか』
『もういいわよ。それより、ここ右に曲がるわよ』
前に見える鳥居のほうへ歩いていこうとするリチャード・ライターを引き留め、右折する。
『え?こっちじゃないのか?』
『普段はそこからでも行けるんだけど、お正月はこちらから入るって決まっているの』
人ごみ対策である。
『まだ今はそんなに大した人出でもないけど、時間によってはこの辺りの道も人で埋め尽くされるから』
したり顔で言うと、リチャード・ライターは素直にうなずく。
軽くウェーブのかかった金髪が、ひょこひょこ動く。
ひよこみたいだ。
この人があの小説を書いたのか。
意外と言えば意外だし、それらしいと言えばそれらしい。
『うん』
ぼうぜんとして問えば、彼は照れたようにうなずいた。
遮断機があがって、人の波が動き出す。
それに合わせて歩きながら、私は好きな作家との思わぬ出会いにまだ呆けていた。
嬉しいというよりも、現実感がない。
『君は俺のことを”評判の作家”だと言ってくれたし、そこそこ部数も刷ってもらっている。ネットで取り上げられたり、感想ももらっているしね。だから俺の小説を読んでくれている人がいるのは知っているんだ。けど、自分の小説を目の前で読んでくれている人を見たのは初めてだったから。それで君から目が離せなかった。怖がらせて、悪かった』
『初めて?』
『あぁ。日本はもちろん、イギリスでも、身内以外では直接は見たことがなかったんだ』
『サイン会とかはあるでしょ?』
『そうだね、そういうところではファンだと言ってくれる人に会ったことがあるよ。けど、それと偶然出会った人が自分の本を読んでくれているのを見かけるのは、インパクトが違うというか……』
顔を赤くして、照れ照れとリチャード・ライターが言う。
『なるほどね。それで、私を見ていたのね』
『あぁ。話しかけようとも思ったんだけど、なんだか照れくさくて。けど、すごく楽しそうに読んでくれていただろう?だから、声をかけたくて。……迷っていたんだ』
『話しかけもせずに追いかけてくるほうが怖かったわよ』
『ごめん。ふだん人に話しかけるのは照れたりしないんだけど、自分の書いたものを読んでくれている人だと思うと、なんだか無性に照れくさくて』
ごにょごにょと言い訳しつつ、慌てている様子はなんだかかわいかった。
追いかけられたと言っても、ただ短距離を後ろから歩いてこられただけだ。
周囲に人も多かったし、若い女の子でもないので、対処もそれなりにできる自信はあった。
恐かったというよりも、面倒なので避けようとして危険な目に合ってしまっただけだ。
彼に対する怒りは、特になかった。
まして彼が、あの面白い小説を書いている本人だと知ってしまっては。
『まぁ、もういいけど』
くすりと笑えば、おそるおそるこちらを見る。
『許してくれるの?』
『大げさ。そもそもそんなに怒っていないし。私、リチャード・ライターのファンだから』
『それは……、ますます申し訳ないというか』
『もういいわよ。それより、ここ右に曲がるわよ』
前に見える鳥居のほうへ歩いていこうとするリチャード・ライターを引き留め、右折する。
『え?こっちじゃないのか?』
『普段はそこからでも行けるんだけど、お正月はこちらから入るって決まっているの』
人ごみ対策である。
『まだ今はそんなに大した人出でもないけど、時間によってはこの辺りの道も人で埋め尽くされるから』
したり顔で言うと、リチャード・ライターは素直にうなずく。
軽くウェーブのかかった金髪が、ひょこひょこ動く。
ひよこみたいだ。
この人があの小説を書いたのか。
意外と言えば意外だし、それらしいと言えばそれらしい。
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