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1年の半分が過ぎたけどなんにも進化してないと思ったけど、恋の種が芽吹いていたそうです。

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「へっ」

 話が、あっちこっち飛びすぎでしょ?
わけがわからなくて、ぽかんと加々美くんを見つめる。

 加々美くんの顔は真っ赤で、握りしめられたままの手は熱い。
私を見つめる視線は、熱がこもってて……。

 ぶわっと、私の顔にも熱がうつる。

 加々美くんは、ひまりちゃんと同期の24歳で。
私より、5歳も年下で。
だけど、営業部でも大きな契約をつぎつぎとまとめているホープで、仕事のできる同僚で。
顔もちょっとキツめの目が恐いけど、整ってるし、ラグビーで鍛えた体はたくましいし、つまり女の子たちに大人気で。

 ……ひそかに、私も一緒の飲み会の時に「いいな」って、横目で見ていた。
でも、五つも年下の人気のある人なんてって、初めから諦めていた相手なのに。

 私のことが、好き?

 いくらなんでも都合よすぎて、信じられない展開だよ。
だけど、加々美くんの視線が、態度が、ぜんぶ、私のことを好きだって訴えてて。
むしろ、今までどうやって隠してたんだ?って思うくらい、如実に好意を物語ってる。

 加々美くんは、自分を落ち着かせるように、大きな呼吸をひとつして、言った。

「初めて見た時から、綺麗な人だなと思ってました。見た目が美人なのはもちろんだけど、それだけじゃなくて。髪とか爪とか服とか、丁寧に手入れされている感じとか、ぴんとした姿勢とか。生き方が丁寧で、綺麗なひとだなって。一緒に仕事をしていると、電話やメールの的確さとか、書類の見やすさとか、相手のことをさりげなく気遣える人なんだって、ますます気になって」

 加々美くんの言葉のひとつひとつに、どくどくと心臓が高鳴る。
男の人に見つめられるのって、こんなにもどきどきすることだっただろうか。
ひとつ褒められるたび、恥ずかしさと嬉しさで、どうにかなりそうになる。

「いつの間にか、好きになってました。たまにうっかりするところも、真面目すぎて貧乏くじひくようなところも、めちゃくちゃ好きです」

「なにそれ」

「先輩は覚えてないかもしれませんけど、2年前の入社してすぐの飲み会の時、トイレで吐いてた男いたでしょ? あれ、俺です。ほとんど酒のめないのに、仕事だからって断れなくて……。他の人は見ないふりして逃げてったのに、先輩は最後まで付き添ってくれて」

 そういえば、そんなことあったかもしれない。
わりと、よくあることだったから覚えてなかったけど。

「飲めないなら、断っていいんだって教えてくれて。適当な逃げ方も、教えてくれたでしょう?」

「……ごめん、わりとそれ年中行事だわ」

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