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14話
しおりを挟む予約していたのであっさりと席に案内された一沙は渡されたメニューを開く。ズラリと並ぶスイーツの名前と写真。どれもこれもそそられるが、一際目を引いたのが15時までしか頼めないアフタヌーンティーセットだ。3段仕様で上2段には好きなスイーツ3種類、3段目には好きなサンドウィッチに好きな飲み物が付く。少々ボリュームはあるが、とても気になる。数分悩みに悩んだ結果アフタヌーンティーセットに決めた。
選んだスイーツは洋梨のタルト、マスカットのパフェ、巨峰のショートケーキにパストラミビーフのサンドにフルーツティー。神木は好きなスイーツ2つ選べるセットで和栗のモンブランとマスカットのショートケーキを選んだ。アフタヌーンティーセットは6000円。「奢りなんだから好きなの頼みなよ」と言われたものの、実は尻込みしていたのだが。
「食べてる時の一沙、小動物みたいで可愛いかった。甘いもの食べてる時はどんな顔するのか見てみたいな」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるよ」
小動物と言われ一沙の脳内には餌を頬袋に詰め込んだリスが思い浮かぶ。あんな風だったのか、と喜ぶよりも微妙な気持ちが先に来る。が、神木が蕩けるような甘い眼差しを一沙に向けていることから馬鹿にしてる訳ではなく、本心からそう思っていることが窺える。周囲の女性客もこちらを見ながら色めきだっていた。何とも居た堪れないし、注目されることに慣れない。というか、「あのイケメンといる地味な女何よ。釣り合ってないんだけど」と敵意の籠った視線もグサグサと刺さっている。
(そんなの私が一番よく分かってるよ)
釣り合いが取れていないことも、そもそも自分の自己肯定感が低いことも誰よりも理解している。人はそう簡単に変われない。いつか、自分に自信が持てる日が来るのかと不意に不安に襲われる。神木と並んで歩いてもビクビクと周囲にどう見られているか、一々気にしないようになれるのか、それ以前に彼に自分の気持ちを伝える決心すら出来ていないのに…。
なんてグダグダと後ろ向きなことばかり考えていた一沙だが、アフタヌーンティーセットが運ばれてきた瞬間、全部飛んだ。一沙は目をキラキラと輝かせながらスマホを取り出し写真を撮る。SNSに上げる訳ではない。自分が後から見え返すためだけに撮るのである。色んな角度で写真を撮る一沙に神木が一言。
「俺も撮っていい?」
「良いですよ」
こんなに綺麗なスイーツセット、写真に収めたくなっても不思議ではない。一沙の許可を経た神木もカシャ、と一枚撮る。スイーツセットを前に興奮を抑えきれてない一沙の写真を。
「何で私の写真を?スイーツの写真を撮るんじゃ」
「撮ったよ、スイーツと一沙の写ってる写真」
「私は撮らなくて良いと思うんですが」
「何で?そっちの方が大事だよ」
キョトンとした顔で聞き返され、一沙は困惑した。自分の写真を撮っても何にもならない。が、心底不思議そうな顔をされると自分が間違ってるのでは?という気持ちになる。
「一沙の色んな写真撮っておきたいんだよね。今まで隠し撮りは出来なかったから。あ、大丈夫。SNSに上げたりしないし流出しないよう細心の注意を払うよ」
「その辺の心配は…ん?隠し撮り?どういう」
「お待たせしました」
聞き捨てならない言葉が聞こえたが、店員が神木のケーキを運んできてしまい有耶無耶になってしまった。
互いにケーキを食べ進めている時、神木がふと「そうだ」と名案を思い付いたと言わんばかりに声を上げる。
「せっかくだし今日撮った写真を妹に送ってみなよ。新しく出来た彼氏と来たって」
神木は意地の悪い顔をしながら提案してきた。一沙はケーキを飲み込むと口を開く。
「妹に、ですか…昨日の今日でそんなメッセージ送ったら」
「無駄にプライドが高そうだから、怒るよね妹」
その通り。選んで貰えず、惨めなはずの姉がすぐに新しい恋人が出来た上に幸せそうだと知ったら。絶対に黙っていない。鬼電が来そうだ。自宅の住所もやむを得ずに教えているから、家まで押しかけてくる可能性もある。そこまで暇で愚かだと思いたくはないが…。想像するだけで気が滅入る。渋い顔をする一沙と違い、神木はとても楽しそうで悪巧みをしてる子供を彷彿とさせた。
「寧ろ煽りまくってやれば良い。浮気男なんて熨斗付けてあげるとでも言えば、より効果的だよ」
一沙は悔しがるであろう妹の姿を想像し…ほんの少し溜飲が下がった。今までの人生、妹には散々な目に遭わされてきたのでこの程度では気が済まない。が、妹にやり返した、という結果は残る。ただそれだけだけど、一沙はやってみたくなった。このくらい自慢したとして誰にも文句を言われる筋合いはない。文句を言う方がおかしいのだ。
「そもそも浮気する奴は必ずまたする。妹と結婚したとして、絶対今回と同じことをやらかす。結婚する前に本性が分かって良かったと俺は思う」
神木は鼻で笑った後、一転して甘い顔になり手を伸ばし一沙の下ろした髪に触れ指先で弄ぶ。
「じゃなかったらこうして、一沙を手に入れられなかったからね」
何処かで悲鳴のような声が聞こえた気がするが、一沙にそこまで気にする余裕はない。さっき揶揄われた時より顔が真っ赤になっている。
(ここ!公共の場!)
場所も忘れて甘い言葉を囁かないで欲しい、と切実に願った。心臓が持たない、下手したらいつか止まる。ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、クルクルと髪を弄ぶ彼の指を外しにかかる。一沙が落ち着くまで5分かかった。
気を取り直して、妹を煽る作戦を立て始めた。
「俺とはそうだな、やけ酒したっていうバーで知り合ったってことにしよう」
馬鹿正直にお隣さんでしたと明かす必要はない。下手に知られたら妹のことだ、色々面倒なことをやらかす危険が高い。
妹に話す筋書きはバーで傷心中だった一沙に神木が声をかけ、そのまま…。細かい違いがあれど、大体合っている。事実とかけ離れているとボロが出る可能性があるので、これで問題ないだろう。
「写真送れって言いそうだから、撮っておこうか」
そう言われ一沙は神木の写真を一枚撮った。普通にしてるだけなのに、絵になる人だ。妹が悔しがり地団駄を踏む姿が目に浮かぶ。神木は見た目も中身も元彼と比べるのが失礼なほど良い男だ。
一沙はふと、今までのトラウマが頭を過った。歴代の彼氏が皆、自分から妹に乗り換えた苦い記憶。ダントツで深い傷を付けたのは妹を妊娠させた元彼だが、それ以前の彼氏とも綺麗ではない別れ方をしている。妹の話を鵜呑みにし、一沙を妹を虐める性悪女と罵った奴もいた。
万が妹が神木を気に入ったら、また一沙から奪おうと企んだら。元彼の子を妊娠している妹がそんな馬鹿なことをするわけない、と思いたいが欲望に忠実な妹のことは一切信用してない。
いや、それよりも信用してないのは…。
一沙はスマホを操作し、写真の中からある写真を選び、それを神木に見せてみた。
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