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16話
しおりを挟む翌朝、前日の疲れが残った身体をベッドから起こす。腰が痛いし全身筋肉痛だ。こうなることは予想していたが、実際なると前日の自分がどれだけ爛れた行為に耽っていたかを突きつけられた気分だ。
(ご無沙汰だったからしょうがないけれど、そもそも宗一郎さんがしつこいから…)
別れる前にベッドに引き摺り込まれた時も、明日仕事だと言っていたにも関わらず中々解放されなかった。ちゃんと親しくなる前は飄々としており、あまり物事に執着し無そうな人だと思い込んでいたのに実際の彼は性欲が強く、一沙に対する執着心を隠さない人だった。そして不安な気持ちが消えない一沙のために神木自身の気持ちを、しっかりと教えてくれた。その結果もたらされたのは腰の痛みやら疲労感だが、一沙は妹に対する劣等感やら今まで家族に対して抱いた愛されたいという欲求、自分の中に燻り続けていた負の感情に一応蹴りを付けることが出来た気がする。神木を妹に取られるかもしれない恐怖に怯えることは恐らくない。
とはいえ問題が全て解決したわけではない。両親からの連絡は無視しているが、この状態を続けているとここまで殴り込んでくるか、「縁を切る」と脅してくるだろう。愛されたいと願っていた一沙なら見捨てられたくなくて、両親の要求を全て呑んで居場所なんて最初からない「家族」の枠にしがみついていた。でも、そんな紛い物の「家族」なんて要らない。昨日要らないものを捨てたお祝いをしてもらったのだ。一沙には神木が、自分を必要としてくれる人がいる。
愛してくれない両親も、自分を見下して何もかも奪っていく妹も全部捨ててやる。
(そうだ、写真送って自慢しないと)
神木に勧められた通り、新しい彼氏が出来た報告と共に写真を妹の妹のラインに送る。一沙からメッセージを送ることは皆無に等しいので、驚いてすぐさま確認すると思っている。
(どう私を貶してやろうか嬉々として企んでいるだろうし)
一沙がやっと恨み言をぶつけて来たと喜ぶ妹が、神木の写真と共に「自分は今幸せ、寧ろ浮気男引き取ってくれてありがとう(意訳)」というメッセージを目にした時どれだけ怒り狂うか、想像しただけで笑いが込み上げてくる。かなり性格が悪くなってしまったと思いも全く気にしていない。どんどんメッセージを送りつけてやった。ふう、と一仕事終えた一沙は怠い身体を無理やり起こしシャワーを浴びに行った。
その後簡単な朝食を済ませ、部屋の掃除や洗濯をこなす。平日は掃除をする気力は残ってないし洗濯物もついつい溜めがちなので、休日の洗濯は大変だ。洗面所のカゴに洗濯物が溜まっているのはだらしなく見えてしまうので、時間があったらその都度洗濯機を回した方が良いだろう。
ベランダに洗濯物を干し、リビングのソファーで寛いでいた時テーブルに置いたスマホがブルブルと震えた。手に取って確認するとかなりの数のメッセージが送られている。相手は名前を見なくとも分かる。
「うーわ、凄い」
思わず溢してしまうほど、一美からのメッセージは文字だけにも関わらず勢いと圧が凄かった。
「は?新しい彼氏出来たって何?昨日の今日でしょ⁉︎」
「しかも何このイケメン!お姉ちゃんがこのレベルと付き合えるわけないじゃん。騙されてるに決まってるよ、そもそもバーで知り合う男とか怪し過ぎ!」
貞操観念ゆるゆるの癖に常識人ぶる一美のメッセージを流し読みする。この様子は一沙が騙されていると思い込みたいというのが伝わってくる。元彼よりも遥にレベルの高い神木を一沙がゲットしたという事実を決して認めたくないのだ。
「この分だとレンタル彼氏でしょって言い出しそう」
レンタル彼氏にもこんな美形は滅多に居ない。一美も神木の写真から放たれている「本物」オーラを感じ取っていると思う。その証拠に神木を彼氏だと言う一沙の言葉を頑なに認めず、「行きずりの男にコロッと騙されるとか可哀想。彼氏にも捨てられたのに、お姉ちゃん本当惨めだね」「どうせやってる時の動画撮られて脅されて、風俗にでも売られるんだよ」と勢いづいてきた一美のメッセージには一沙を明確に傷付けたいという悪意が存分に含まれていた。この妹は姉がどん底まで堕ちて行ったとしても、その様を見てケラケラ笑うのだ。傷付いただとか、悲しいと思う以前に性根の腐った妹の行く末を心配してしまう。
(この年でこれだと矯正は無理ね…)
捨てると決めたのに、妹の心配をする自分の甘さに呆れた。最も本人に伝えるつもりないので、甘いと言っっても些細なものだ。だから一沙は頭をすぐに切り替えた。
(この様子だと彼氏だって信じてないわね。思い込みもあるでしょうけど写真くらいじゃ信じないのかしら)
一美を煽りまくってプライドをへし折ってやる作戦が早くも躓いてしまう。困った一沙は神木にメッセージで相談した。仕事だと言っていたから返信はかなり遅くなると思っていたのに、彼からの返信はすぐに来た。仕事は大丈夫なのか心配になりながら、届いたメッセージを読む。
「意外と疑り深いんだ。でも問題ないよ。デートした写真を1ヶ月くらい送り続ければ騙されたわけでもレンタル彼氏でもないって信じると思うけど。駄目なら直接会っても良いし」
一美と神木が直接顔を合わせた様を想像すると、思わず眉間に皺が寄る。神木が心変わりすることを恐れているわけではなく、ほぼ確実に一美が彼を気にいるからだ。とはいえ一美は妊娠している上に結婚も決まっってる。いくらなんでも他の男に色目を使うとは思いたくないが、信用出来ないのだ。そうなれば神木にも迷惑をかけてしまう。
(気にしてもしょうがないか)
悪い方向に考えてしまうと気分が暗くなってくる。思考を切り替え神木と行きたい場所を思い浮かべ始めた。
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