不遇女子、お隣さんに求婚される。

水無月瑠璃

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知る必要のない話…③

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(二度と会わないことを祈るよ)

逃げ帰った一美を神木は冷めた目で見送った。何も注文してなかったから、無銭飲食ではない。神木と一美のやり取りを聞いていたであろうマスターがチラリ、と神木を見る。非難する眼差しではなく、こちらを気遣うような眼差しだと感じた。所々聞こえたやり取りだけで一美の異常性は十分伝わったのだろう。毒にしかならない妹を恋人から切り離したと、称賛してくれても良い、と神木は何故か上から目線だった。当然マスターに伝わらないので、口直しにマンハッタンを注文した。あと2、3杯飲んだら帰ろう。帰って一沙の顔を見なければ。あんな女と話して疲れたので、一沙に癒されたい。

勝手に妹を誘き出して、勝手に縁を切ったことを一沙に言うつもりはない。次は両親にも話を付けに行く予定だが、それも黙ってるつもりだ。このまま桐島家は一沙の中からフェードアウトする予定である。もし彼女の中で何かしらの変化があって、家族と話したいとなったら神木が手を回せば良い。その時が来るまで、一沙に桐島家は必要無い。

排除するのは両親と妹だけで、理解者であったという叔母との縁は残しておこう。調べた限り桐島家での一沙の扱いに憤りを覚える親戚は少なからずいた。しかし、家族間の問題に首を突っ込むのは難しかった。それでも一沙には確かに味方がいたし、妹の虚言に惑わされない友人もいた。だから完全に心が折れることが無かったのだ。もし一沙が既に「壊れていた」ら、神木が一沙の身も心も手に入れるのは容易かった。人1人囲う金はあるので、2人だけの世界を築くのも悪くなかっただろう。

しかし、神木は一沙と色んな場所に出かけ、多くの思い出を作りたいし、いずれは家族になる。そっちの方がより良い。一沙が今の一沙で良かったと心から思う。

一沙と家族になるのなら、そろそろ身の回りを「綺麗」にするのも視野に入れるべきだろう。一沙は神木の仕事について深く聞いてこない。このままでいようと、真っ当な道に行こうと構わないのだ。

神木自身は今の仕事、引いては己の地位に執着してない。育ての親兼上司も神木の意思を尊重すると周囲に伝えている。組を抜けた後、敵対する組に決して入らない、情報も明かさないといった誓約書にサインをし、自分名義の店の権利を幾つか渡せば抜けられるには抜けられるだろう。そもそもこっちの世界に戻る気は毛頭ない。勿論根回しは必要だが。組と全く関係ない商売も立ち上げているし、生活には困らない。

上司からすると、寧ろ神木が抜けてくれた方が都合が良いはずだ。何せ実の息子である若頭より神木を後継者に推す者がいるのだ。神木からすれば金を稼げれば良いだけで、組のトップになりたいという野心を抱いたことは一度もないのだから迷惑な話である。

(そういえば、一沙は俺の昔の話聞きたいと思ってるのか…)

話す必要が無いと神木が判断したので過去の話はほぼして無い。というか平気で手を汚してきたので話して引かれたら、怖がられたらと思うとどうしても話せない。こちらは勝手に調べて一沙の交友関係から過去の交際遍歴まで、何もかも知ってるのに不公平であると詰られても仕方ない。全てを知って欲しいという気持ちと、汚れた自分を知られたくない気持ちが葛藤する。

(………まあ、いつか、ね)

神木は考えてることを一旦記憶の片隅に追いやり、まず帰ったら一沙に「何」をするのかを想像し始める。すると、自然と頬が緩み始めた。

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