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第一章:リスタート
変わらなければ
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分かっている。
今までのイザベラなら医者が自分を診るのは当たり前、礼を言うどころか用が終わればさっさと出ていけという態度しかとらなかった。
それは前世の麗子も同じ。
生い立ちや境遇が違うから理由はべつだが、麗子もイザベラも、人を思いやるということをしなかったし、出来ない人間だった。
人を信用するということも。
人を愛するということも。
イザベラは公爵令嬢。使用人たちは勿論、王族でもない限り自分より上の者はいない。下の者は従って当然、思い通りに動くのが普通。感謝することでもないし、する必要もない。
でも、きっとそれでは駄目なのだ。駄目だったから、イザベラは断罪された。同じようにしていれば、きっとまた酷い断罪ルートを体験することになる。
麗子が読んでいた小説は、乙女ゲーム『ローズコネクト』の世界に転生してしまった主人公のアメリアが、紆余曲折の末に王子と結婚して幸せになる物語だ。
ちなみにその紆余曲折というのが、悪役令嬢イザベラの嫌がらせや謀略である。
作中に出てくる、スマホ配信の乙女ゲーム『ローズコネクト』には、イザベラはヒロインを陥れたことがばれ、激怒したヒーローによって死刑、奴隷落ち、地下牢投獄、自殺などのルートを辿ると書かれていた。
イザベラはぎゅっと布団を握りしめた。
小説の中ではさらっと書かれていた記述に過ぎないが、自分が体験するとなると別だ。
奴隷としての日々はもう二度と経験したくない。他の断罪ルートも回避したい。
だったら変わらなければ。
だから、手始めに礼を言ってみた。たったそれだけのことだけれど、ずっとしていなかったことをするというのは、少し勇気のいることだった。
なのにその結果が、医者と侍女の驚いた顔だ。苛々する。
ポスポスと、床に落ちた枕を叩く音がしてイザベラの後ろに柔らかいものが置かれる。セスが枕を戻したらしい。
「お嬢様」
うつむいたままのイザベラにセスの表情は見えない。だが、心配そうな声音だった。
「いいから下がりなさい!」
それがまた癇に障って、イザベラはヒステリックな声を上げた。
「……はい。隣の部屋におりますから、何かありましたら何時でもお呼び下さい」
足音と動く気配。しかし、足音が止まる。セスの気配が扉の前くらいで動かなくなった。
「あの、お嬢様……」
おずおずと躊躇いがちなセスの声に思わず顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見つめ、微笑むセスと目が合った。
「礼を言うくらい、お嬢様のおっしゃる通り普通のことですが……俺は嬉しかったです」
「……なんで、セスが嬉しがるの?」
セスの意図が掴めなくて、イザベラはぽかんと口を開いた。
「皆誤解していますが、お嬢様は優しい方です。今みたいに少しだけ声をかけるようにしたら、本当のお嬢様を見せたら、きっと皆お嬢様の素晴らしさに気付きますよ。俺はそれが嬉しいんです」
それでは、と一礼し、セスが部屋を出ていく。それをイザベラは唖然と見送った。
今までのイザベラなら医者が自分を診るのは当たり前、礼を言うどころか用が終わればさっさと出ていけという態度しかとらなかった。
それは前世の麗子も同じ。
生い立ちや境遇が違うから理由はべつだが、麗子もイザベラも、人を思いやるということをしなかったし、出来ない人間だった。
人を信用するということも。
人を愛するということも。
イザベラは公爵令嬢。使用人たちは勿論、王族でもない限り自分より上の者はいない。下の者は従って当然、思い通りに動くのが普通。感謝することでもないし、する必要もない。
でも、きっとそれでは駄目なのだ。駄目だったから、イザベラは断罪された。同じようにしていれば、きっとまた酷い断罪ルートを体験することになる。
麗子が読んでいた小説は、乙女ゲーム『ローズコネクト』の世界に転生してしまった主人公のアメリアが、紆余曲折の末に王子と結婚して幸せになる物語だ。
ちなみにその紆余曲折というのが、悪役令嬢イザベラの嫌がらせや謀略である。
作中に出てくる、スマホ配信の乙女ゲーム『ローズコネクト』には、イザベラはヒロインを陥れたことがばれ、激怒したヒーローによって死刑、奴隷落ち、地下牢投獄、自殺などのルートを辿ると書かれていた。
イザベラはぎゅっと布団を握りしめた。
小説の中ではさらっと書かれていた記述に過ぎないが、自分が体験するとなると別だ。
奴隷としての日々はもう二度と経験したくない。他の断罪ルートも回避したい。
だったら変わらなければ。
だから、手始めに礼を言ってみた。たったそれだけのことだけれど、ずっとしていなかったことをするというのは、少し勇気のいることだった。
なのにその結果が、医者と侍女の驚いた顔だ。苛々する。
ポスポスと、床に落ちた枕を叩く音がしてイザベラの後ろに柔らかいものが置かれる。セスが枕を戻したらしい。
「お嬢様」
うつむいたままのイザベラにセスの表情は見えない。だが、心配そうな声音だった。
「いいから下がりなさい!」
それがまた癇に障って、イザベラはヒステリックな声を上げた。
「……はい。隣の部屋におりますから、何かありましたら何時でもお呼び下さい」
足音と動く気配。しかし、足音が止まる。セスの気配が扉の前くらいで動かなくなった。
「あの、お嬢様……」
おずおずと躊躇いがちなセスの声に思わず顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見つめ、微笑むセスと目が合った。
「礼を言うくらい、お嬢様のおっしゃる通り普通のことですが……俺は嬉しかったです」
「……なんで、セスが嬉しがるの?」
セスの意図が掴めなくて、イザベラはぽかんと口を開いた。
「皆誤解していますが、お嬢様は優しい方です。今みたいに少しだけ声をかけるようにしたら、本当のお嬢様を見せたら、きっと皆お嬢様の素晴らしさに気付きますよ。俺はそれが嬉しいんです」
それでは、と一礼し、セスが部屋を出ていく。それをイザベラは唖然と見送った。
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