結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 10-2

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 2017年5月26日 金曜日。午後3時半過ぎ。


「ただいまー」
「お帰りなさい、パパ」
 左右さんが帰ってきた。

 家庭訪問の時期は授業は午前中で終わり給食も無いので、
 私はお昼頃に帰って来て昼食を簡単に作り、家庭訪問前にお菓子を買ってきて準備に取り掛かっていた。
 準備はほぼ終わり、もう少しで紅茶を淹れる準備を始めようかなと思っていた所だ。

「凄いね、お客さんが来る準備を全部一人でやっちゃったんだね」
「ふふっ、午前中で授業が終わり時間がありましたので。
 この間パパに買って頂いた陶器製のポットとカップも使わせて頂きます」
 
 ゴールデンウィーク中に孤児院へ行った時、院長先生が淹れてくれた紅茶の味を記憶に刻む。
 再現できる様に何回かトライした結果、同じ味が出せたので先日左右さんに淹れたらとても喜んでくれた。
 良くも悪くも私は、他人より記憶力がいい。

「紅茶も美味しいし、将来は喫茶店でも開けそうだね」
 喫茶店、かぁ。
 郊外にひっそりとある、小さなお店。
 左右さんとふたりで静かに暮らすのも悪くないかも――。

「…………。その場合は、パパとふたりで喫茶店を開いて暮らしたいです」
「そっかぁ、それも良いね。喫茶店かぁ……っと、先生が来たね」
 話しているとチャイムが鳴る。
 カメラ越しに左右さんが応対して、どうぞとオートロックを開いた。
「お邪魔しまーす」
 相田先生が家に入ってきた。


 あっ!
 瞬間、私は気付く。
 先生はメイクをばっちり決めており、初めて見る程だ。
 生徒の家族に会うからと理由もあるかも知れないけど、それでも徹底的過ぎる。
 私は、先生が左右さんを獲りに来たコトを予感した。

「相田先生、こちらへどうぞ」
 私は先生をリビングのソファへ案内する。
 そのままお茶出し用のサイドテーブルの上に予め入れていた、紅茶用のカップと皿をテーブルに置く。
 次いでポットを取り出し、用意した三人分のカップに紅茶を注ぐ。
 ダージリン特有の爽やかな香りが鼻を燻ぶった。

「有難う、梨杏ちゃん。もしかして……」
「はいっ、私が準備しました。どうぞお飲みください」
 言うと先生が先に紅茶を少し飲む。
 続いて私と左右さんも飲み、先生の反応を伺った。
 おいしい、と先生が褒めてくれたので先ずは良かった。

「本当に何でも出来るのね、梨杏ちゃんは。
 小テストも全部100点だし、かけっこも早いしいつも真面目だし!
 おとうさん、学校では完璧ですよ?」
 左右さんに迷惑を掛けたくない。
 と言うか常に良い報せを報告したい。
 私が褒められれば左右さんも褒められるコトになるから頑張れる。
 その甲斐があって、左右さんは嬉しそうに頭を下げた。

「有難う御座います、先生。
 梨杏ちゃんは僕には勿体無い位出来る子です。
 僕が仕事で出ている時に家事もしてくれるし、学校以外でも完璧なんです」

 嬉しい。
 あなたに褒められるコトが私の栄養分です。
 今度は私が満面の笑みを浮かべた。

「ふふ、ご家庭も円満そうですね。
 でも偉いなぁ、梨杏ちゃんはおとうさんのために家事もしてるなんて」
 少し違和感をおぼえつつ私は元気よく先生に返事する。
 そして、次の瞬間。
「父子家庭も非常に大変だと思います。
 おとう……ええとぉ……左右さん」
 ええっ! と内心驚く。
 左右さんの様子には特に変化が無く、恐らく何も考えずにただ先生の話を聞いている。

「私、家が結構近いんです。
 もしご迷惑じゃなければ今度、夕食をお持ち致します。
 私、料理作るの好きなのですが、いつもつい作りすぎてしまって……」
 何を言ってるの、先生! 職権乱用です!
 この前の院長先生と言い左右さんが狙われ始めている。

「それは有難いですね。
 先生が宜しければ今度、頂けると助かります。
 娘も喜ぶと思います」
 
 喜ばないもん、左右さんのバカ!
 私は初めて、彼に対して怒りを覚えた日だった。
 24歳の先生にも負けないんだから。


 ☆新規計画達成項目
 ・2017年5月26日 左右さんに学校での私の様子を知って貰えた。
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