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その後の愚かな二人
しおりを挟む「平民を娶ると、国民からの支持が上がるんじゃなかったのか……」
王都から離れた遠く田舎の地で領主代行の仕事をしている。王子として与えられた金額よりも遥かに少ない金額が給金となる……
使用人も限られているがいるにはいる。だが私を敬う者は……いないかもしれない。
「何よ! またこんな葉っぱばかりなの!」
がちゃんと音を立てカトラリーを置くベラ。最近何にでも当たり散らし、領民にも嫌われているようだ。
「まだ王都の家にいる時の方がマシな物を食べていたわよ! コックに文句を言いに言ってくるわ!」
ベラが立ち上がった瞬間グラスが倒れドレスにシミを作った。
「何よ! バカにして! この机!」
ガンっと! 机を蹴るベラ。いつも怒った顔をしていつも機嫌悪い。
「ベラ、そのドレスはどうしたんだ? 私は見たことがない」
「買ったに決まってるでしょ! 商人が売りにくるのよ。元とは言え王子の妻なんだから普段から綺麗にしておかないとね」
誰に見せるんだ。こんな田舎で……商人はこんな僻地まで売りつけにくるのか……? もしかしてベラの実家の商会の回し者とか。
「この地にそのドレスは合わないよ。もっとおさえた服装を心がけてくれ。それに貯蓄がそろそろ底を、」
「稼いでよ! もうすぐ子供が生まれるのに。それにこんな栄養が偏ったご飯ばかりじゃ元気も出ないわよっ!」
……いや、元気だろ。毎日毎日ヒステリックに騒いでいるのだから。
量は少ないかもしれないが、健康的に良さそうだ。
この地に来た時は領民みんなが喜んでくれたのに、今では掌を返され見る目のない男だと言われている。
いや、執務は頑張っていて、来期は黒字になるんだ! だが出て行く金額が多いのだ。ベラの買い物が多すぎる。
「とにかく、買い物は控えてくれ。領民からもクレームが来ているんだ。それと領民とも仲良くしてくれ。産まれてくる子が疎まれては可哀想だ」
「こんな田舎でできる買い物なんて高が知れているでしょ! 急にケチになったわね!」
ワンピース一枚で喜んでいたベラはどこに行ったのだろうか。
来年早々に産まれてくる我が子の母じゃなかったらとっくに別れていた……。こんなはずではなかったのだが、これが罰だというなら甘んじて受け止めるしかない。
ヴィクトリアの人生まで変えてしまったのだから。ヴィクトリアは……元気だろうか……?
もっと早くにヴィクトリアに気持ちを伝えていたらと後悔をしたが、今更ヴィクトリアが戻ってくるわけではない。
「ライアン様、奥様が厨房でシェフを怒鳴りつけています!」
「今行く!」
またか……ベラは問題ばかり起こしてくれる。
ベラを愛していたのはなぜなんだろうか。ヴィクトリアへの当てつけだったのかもしれない。最低だな……
ヴィクトリアは生まれた時から生粋のお嬢様だ。家を出て今頃どこで何をしているのか……生きているよな?
******
「リアちゃん!」
「アルフォンソ様? どうされたんですか?」
「デートしない?」
「…………」
「し・ま・せ・ん! なんなんですか! 貴方は! 人妻をデートに誘うなんて!」
デビスが厨房から血相を変えて出てきた。
「今日も可愛いなぁと思ってさ。それにまだ正式の夫婦ではないんだろ?」
ニヤリと笑うアルフォンソ
「貴方、暇なんですか? 仕事はされていますか?」
「失礼だね、今日は休みだよ! だから約束通りリアちゃんに会いにきたんだ」
「リア、奥へ」
とんと背中を叩かれ厨房の方へ行くように言われた。
「え! でも……」
申し訳なさそうな顔をして二人を見るリア
「さぁアルフォンソ様こちらへどうぞ、何にされますか?」
「そうだね、まずはデビスさんと話をしようか?」
「良いですよ。コーヒーでよろしいですか?」
コーヒーの準備をするデビスに声を掛ける。
「お客様がきたらどうするの?」
「開店を一時間遅らせます。リアはニ階にいてください」
「わかった」
アルフォンソ様と話をしていると何か探られているような気になるからデビスに任せよっと。
******
「私に何のご用ですか?」
「君達に興味があるんだ」
「私たちに? 何かありましたか?」
「本当に一年後に結婚するつもり? リアちゃんは君のことどう思っているの?」
にやついた顔で痛いところをついてくる。
「貴方には関係ないでしょう」
「偽装夫婦はこの国ではやってけないよ。入国違反だ。犯罪者は偽装夫婦を装う事が多いからね」
「貴方はこの国の……役人か何かですか? その立ち居振る舞いから見ると良いところの坊ちゃんと言った感じはしますね」
「まぁ、そんなものかなぁ。君たちはなぜこの国に来たの?」
まさか役人とは! 悪い事はしているわけではない。正直に答えないと後々面倒だ。
「自由を求めに。ですよ。リアがこの国にいるのなら自ずと私の居場所はこの国です」
「へー。リアちゃんはそれを望んでいるの?」
さっきから痛いところを! お嬢様は、平民となった。お嬢様が私を望んでくれるのなら私の人生を全て投げ打ってでも一緒にいるつもりだ。
「リアは……いえ、リアもそう思ってくれていると嬉しいですね。私の方がリアに対する気持ちが重いのかもしれません」
「なるほどね。リアちゃんに好きな人ができて、君と結婚しないと言う選択肢もありって事かな?」
「……なしですね! 貴方にリアは渡しません」
「興味があるんだよね。リアちゃんに。可愛いし上品だし、素直だし」
「興味を持つのは自由ですが、ちょっかいをかけるのはやめてください。貴方みたいな方なら横恋慕しなくともお相手は見つかるでしょうに」
「デビスさんイケメンだし若い子に人気があるんだって? 君こそ相手はすぐに見つかるさ! なんなら紹介しようか?」
「結構です。私は妻一筋ですから」
「へぇーまぁ、良いや。また来るよ。リアちゃんの足が治った頃にね、じゃあ!」
アルフォンソは席を立ち多めの代金を置いて行った。
「コーヒー美味かったよ、淹れるのが上手いんだな。帝国の定番だもんな。故郷の味ってやつか?」
そう言ってガランと扉のベルを鳴らし出て行った。
俺の事を調べたのか。そうなるとリアの正体も? 面倒なことになりそうだ。
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