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閣下がお見舞いに!
しおりを挟む「モルヴァン嬢具合はどうだ?」
閣下が我が家に……いますわ。本当に来てくれましたのね。
「……ご覧の通り回復いたしました。昨日はご迷惑お掛けして、さらに送っていただいて申し訳ありませんでした」
お花とお菓子を持ってお見舞いにきてくださった閣下に申し訳なさが募る。ただの貧血のようなものなのに。
我が家の中庭にはガゼボがあって本日は閣下と二人でお茶を飲んでいます。
お母様が天気がいい日はガゼボに限るわね! と準備をしてくれました。使用人達は離れた場所で待機しています。
「迷惑ではない私が勝手にした事だ。昨日は視察の途中で盗難事件があって解決した後だったんだ」
平和そうに見える王都でも物騒な事件がありますのね。
「閣下、あまり無理をなさらないで下さいませね。お仕事の途中でしたのにわざわざ送ってくださらなくとも良かったのに……お仕事を放棄してしまって、部下の方達に示しがつかないのでは……」
私のせいでお仕事に支障があったらどうしましょう。
「モルヴァン嬢を助ける事で仕事を放棄した事にはならない。人助けは騎士として当然の事。犯人を自警団に渡してきたから文句を言うものは誰もいない」
……人助けは騎士として当然。胸がまた痛んだ。そうよね、たまたま会っただけだもの。
「閣下にはご迷惑ばかりかけていますわね」
傘を借りたり、送ってもらったり……学園では卒なくやってきた自負があるだけに、落ち込んでしまいますわ。みっともないところばかり見せて……
「迷惑だなんて思っていない。寧ろあの場で君に会えて良かったと……そう思っている」
「……え?」
「……これから先も……君に頼ってもらえる相手になりたいと、思う」
……それって、どういう意味……都合のいい様に受け取ってしまいそう。これから先? って。
「君といると心が落ち着く。君といると楽しい。君と次に会う約束があると安心する。この先君が笑って過ごせる場所が私の隣であってくれたら……そう思っている。私は君の事が好きなんだ」
真剣な顔で、でも優しい顔で私を見てきました。閣下が私を?
「嫌なら遠慮なく断って欲しい。私は令嬢に好かれるような風貌をしていないし、」
「いいえ、いいえ、そうではありませんの。閣下にそんな風に思っていただけている事に驚いて……」
「すまない。圧をかけてしまったのだろうか」
「圧? そうではなくて……わたくしは婚約破棄の経験がありますし、そのような者が閣下の周りにいる事を面白く思わない人がいるのではないかと……」
「それは全く問題ない。安心して欲しい」
「年齢の差も……閣下に見合わないと」
「そうだよな。君からしたらおじさんにしか、」
「いいえ、いいえ。そうではなくて……閣下から見たらわたくしなんて子供ですし、」
「一緒にいたら心が安らぐ。一緒にいたら楽しい。そう思うのに年齢は関係あるのだろうか……年齢と身分を差し引いてもダメなら……断って欲しい」
「……わたくしも閣下と過ごす時間は楽しいです。閣下のことを考えていると夜も眠れなくて……」
「寝不足の原因を作ったのは私だったのか!」
「……初めての事なので……でも閣下のおっしゃる通り身分と年齢を差し引いたら、」
「……それは、つまり」
「お、お慕いしていますっ」
……ドキドキが……心臓が破裂しそうです。閣下が席を立ち私の元に跪いて! 私の近くにいる。ちゃんと答えなきゃ、そう思いました。
「リュシエンヌ・モルヴァン嬢。こんな私だが君の将来を私に預けてくれませんか? 一生大事にすると誓う。一生生活に困らせることもしない。君を悪意から全力で守るし私は一生君だけを愛する。結婚を前提に付き合って欲しい」
そして手を出してきました。まるでロマンス小説の騎士様のようでドキドキが止まりませんわ。閣下が私を……なんて素敵なんでしょうか。
「はい、わたくしでよければ閣下のお側に……」
なんとか返事をして閣下の手を取りました。閣下の手も少し震えていました。そっと両手で閣下の手を包むと、とても大きくて温かい手でしたわ。
「この大きな手で一生わたくしを守ってくださるのですね。よろしくお願いしますわ、わたくしの騎士様」
「モルヴァン嬢! 勿論だ!!」
安心した顔つきで私を見てきました。こんなに大きな体でも手が震えるなんて閣下のかわいらしいところも発見しましたが、閣下には内緒にしておきましょう。
嬉しくて感動しつつも、急に現実に戻って……(だって使用人たちが遠くでこちらをちらちら覗いているのだもの)
そこでハッとしました!
「あら。わたくし……両親に相談もなく閣下からのプロポーズを受けてしまいましたわ……」
閣下と繋いでいる手をきゅっと握りしめてしまいました。どうしましょう。
「それなら(問題ないけれど……)今から報告へ行こう」
「閣下も一緒にですの?」
「ちゃんと許しを貰いたいから、準備も進めたい」
準備って……結婚の……?
「あの、両親に反対されても返却不可ですわよ?」
相談もなしに勝手にと怒られるかしら……でも、閣下のことをお慕いしている気持ちに気がついてしまったら、嘘はつけませんわ。
「ははっ、面白いな返却不可とは。もしダメだと言われたら攫っていくから覚悟しておいてくれ」
……素敵。閣下はわたくしの欲しい言葉をくれるヒーローですわ! 心は既に攫われてしまいましたわ。
「約束ですわよ?」
微笑まれましたわ! 素敵すぎてクラクラしてきましたわ……
応援ありがとうございます!
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