35 / 56
第3章 お供え物を求めて
奥の殿③ ~2柱の女神~
しおりを挟む
我輩はお供え物を咥えたまま、裸像の周りを意味もなく彷徨いていた。埃が舞い上がって鼻がむずむずする。
いったい、これらの像はいつからここにあったのだろう。胸、尻、口や陰部などの磨り減り方から、かなり古いもののように思えた。
おやっ? 台座が埃を被っていてよくわからなかったが、台座の側面に文字が彫られていた。左の台座の側面には、❬摩利支娘娘❭と彫られていた。
摩利支娘娘? 我輩はお目にかかったことはないが、夢幻洞の摩利支殿におわす女神様である。夢幻仙様がよく会いに行っていたのを思い出す。
我輩はもう1度、台座の上で開脚しながら座る裸の少女を見た。切ない瞳を夢幻仙様に向けている。この少女が摩利支娘娘だったのか······
女神様は夢幻仙様に焦がれているようだった。確か、摩利支娘娘様には仲の良い女神様がいたはず。摩利支殿の近くにある瓊霄殿の女神、瓊霄娘娘様だ。
我輩は右の裸像が乗る台座を見た。思った通りだ。台座の側面には❬瓊霄娘娘❭と彫られたプレートが付いていた。顔は台座に埋まっていて分からないが、四つん這いになって、尻を夢幻仙様の方へ突き上げている少女が瓊霄娘娘様のようだった。
「······エロ? ······エロ、聞こえる?」
我輩の中に女の子の声が伝わってきた。その声には、もの悲しい響きがあった。どことなく泣いているような雰囲気だった。
「エロ、私よ······摩利支娘娘よ。私達を助けて······」
我輩は吃驚して裸の少女を見上げた。そして、再び吃驚した。なんと、夢幻仙様を焦がれるように見つめていた少女が、我輩を見下ろしているではないか!
それだけではない。右の台座の上で、尻を夢幻仙様に向けて四つん這いになった少女も我輩の方を見ていた。確か、顔を台座に埋めていた筈だが······
「ここは······あなたのいた世界ではないわ」
右の瓊霄娘娘がすすり泣きながら言った。
「そう、ここは異界。夢幻神社の裏手には奥の殿などないの。丘の頂上には雑木林が広がっているだけよ」
左の摩利支娘娘が疲れた声で漏らした。
「あなたが見た広場は、約1500年前の姿よ。私達があなたをここへ呼んだの。お願い、お供え物は捧げないで」
摩利支娘娘はそう言うと、中央の夢幻仙様に対してきつい目を向けた。
「し、しかし、お供え物を祭壇に捧げないと我輩は夢幻洞に帰れない······」
「大丈夫よ、私達が夢幻洞ヘ還してあげるから。でも、ここにお供え物を捧げられると、私たちは夢幻から自由になれないの」
2人の女神は、陵辱され続けた無惨な肢体を眺めた。
「この私達の像は、夢幻が私達から霊力を奪い、その夢幻を敵から守る結界なの。下の本殿で狐火の女の子が消えたでしょう。夢幻に危害が加えられないように、私達が、不本意だけど排除したの。大丈夫よ、あの娘は私達が安全な場へ送ったから」
瓊霄娘娘様が妲己ちゃんの安否を保証した。
「そうよ、あの娘は夢幻の魔の手に落ちてなんかいないから。私達が、夢幻から解放されれば、あの娘は元の世界に戻れるわ」
「で、では、我輩はどうしたら······?」
「ここにある枷を全てはずしてほしいの」
摩利支娘娘が、歯痒そうに言った。
「枷?」
「そうよ、これらお供え物のことよ。確かに、夢幻にとっては私達の自由を奪って、女神の力を好きに使えるのだから、お供え物と言うのは正しいわ。けれど、私達にとっては枷でしかないわ。これら枷のせいで、私達は夢幻の好色を満たすために霊力を利用され、私達自身も夢幻の性的玩具にされているの」
瓊霄娘娘の彫刻の瞳から涙が頬を伝った。
「それでは、これらのお供え物はいったい誰が?」
「夢幻に唆された愚かな男達よ。お供え物を捧げれば、女達と好きなだけ快楽に耽れるとか言ってね。私達の肢体が汚されてボロボロな理由がわかるでしょう。この像は依り代で、私達が憑依すると像は生身の私達になるの。私達はこの依り代に憑依させられては、千年以上もの長い間、生身の少女になることを繰り返して、夢幻の信者と称するスケベ達から、凌辱の相手をされ続けてきたの」
摩利支娘娘の口調に悔しさが滲む。
「エロ、あなたは霊犬だから、枷を食いちぎれると思うの。私達を自由にして娘娘洞を取り返して」
瓊霄娘娘の口ぶりも悔しげだった。
「娘娘洞?」
「そうよ、夢幻洞は元々、娘娘洞という私達の仙郷だったの。エロ、あなたのお母さんは、私達の使いとして、仙郷と天界を往き来する霊犬だったのよ」
「母を知っているのか!」
我輩は雷に撃たれたような衝撃を受けた······
いったい、これらの像はいつからここにあったのだろう。胸、尻、口や陰部などの磨り減り方から、かなり古いもののように思えた。
おやっ? 台座が埃を被っていてよくわからなかったが、台座の側面に文字が彫られていた。左の台座の側面には、❬摩利支娘娘❭と彫られていた。
摩利支娘娘? 我輩はお目にかかったことはないが、夢幻洞の摩利支殿におわす女神様である。夢幻仙様がよく会いに行っていたのを思い出す。
我輩はもう1度、台座の上で開脚しながら座る裸の少女を見た。切ない瞳を夢幻仙様に向けている。この少女が摩利支娘娘だったのか······
女神様は夢幻仙様に焦がれているようだった。確か、摩利支娘娘様には仲の良い女神様がいたはず。摩利支殿の近くにある瓊霄殿の女神、瓊霄娘娘様だ。
我輩は右の裸像が乗る台座を見た。思った通りだ。台座の側面には❬瓊霄娘娘❭と彫られたプレートが付いていた。顔は台座に埋まっていて分からないが、四つん這いになって、尻を夢幻仙様の方へ突き上げている少女が瓊霄娘娘様のようだった。
「······エロ? ······エロ、聞こえる?」
我輩の中に女の子の声が伝わってきた。その声には、もの悲しい響きがあった。どことなく泣いているような雰囲気だった。
「エロ、私よ······摩利支娘娘よ。私達を助けて······」
我輩は吃驚して裸の少女を見上げた。そして、再び吃驚した。なんと、夢幻仙様を焦がれるように見つめていた少女が、我輩を見下ろしているではないか!
それだけではない。右の台座の上で、尻を夢幻仙様に向けて四つん這いになった少女も我輩の方を見ていた。確か、顔を台座に埋めていた筈だが······
「ここは······あなたのいた世界ではないわ」
右の瓊霄娘娘がすすり泣きながら言った。
「そう、ここは異界。夢幻神社の裏手には奥の殿などないの。丘の頂上には雑木林が広がっているだけよ」
左の摩利支娘娘が疲れた声で漏らした。
「あなたが見た広場は、約1500年前の姿よ。私達があなたをここへ呼んだの。お願い、お供え物は捧げないで」
摩利支娘娘はそう言うと、中央の夢幻仙様に対してきつい目を向けた。
「し、しかし、お供え物を祭壇に捧げないと我輩は夢幻洞に帰れない······」
「大丈夫よ、私達が夢幻洞ヘ還してあげるから。でも、ここにお供え物を捧げられると、私たちは夢幻から自由になれないの」
2人の女神は、陵辱され続けた無惨な肢体を眺めた。
「この私達の像は、夢幻が私達から霊力を奪い、その夢幻を敵から守る結界なの。下の本殿で狐火の女の子が消えたでしょう。夢幻に危害が加えられないように、私達が、不本意だけど排除したの。大丈夫よ、あの娘は私達が安全な場へ送ったから」
瓊霄娘娘様が妲己ちゃんの安否を保証した。
「そうよ、あの娘は夢幻の魔の手に落ちてなんかいないから。私達が、夢幻から解放されれば、あの娘は元の世界に戻れるわ」
「で、では、我輩はどうしたら······?」
「ここにある枷を全てはずしてほしいの」
摩利支娘娘が、歯痒そうに言った。
「枷?」
「そうよ、これらお供え物のことよ。確かに、夢幻にとっては私達の自由を奪って、女神の力を好きに使えるのだから、お供え物と言うのは正しいわ。けれど、私達にとっては枷でしかないわ。これら枷のせいで、私達は夢幻の好色を満たすために霊力を利用され、私達自身も夢幻の性的玩具にされているの」
瓊霄娘娘の彫刻の瞳から涙が頬を伝った。
「それでは、これらのお供え物はいったい誰が?」
「夢幻に唆された愚かな男達よ。お供え物を捧げれば、女達と好きなだけ快楽に耽れるとか言ってね。私達の肢体が汚されてボロボロな理由がわかるでしょう。この像は依り代で、私達が憑依すると像は生身の私達になるの。私達はこの依り代に憑依させられては、千年以上もの長い間、生身の少女になることを繰り返して、夢幻の信者と称するスケベ達から、凌辱の相手をされ続けてきたの」
摩利支娘娘の口調に悔しさが滲む。
「エロ、あなたは霊犬だから、枷を食いちぎれると思うの。私達を自由にして娘娘洞を取り返して」
瓊霄娘娘の口ぶりも悔しげだった。
「娘娘洞?」
「そうよ、夢幻洞は元々、娘娘洞という私達の仙郷だったの。エロ、あなたのお母さんは、私達の使いとして、仙郷と天界を往き来する霊犬だったのよ」
「母を知っているのか!」
我輩は雷に撃たれたような衝撃を受けた······
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる