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第3章 お供え物を求めて
奥の殿④ ~我輩の出自~
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我輩は物心ついた時から夢幻仙様の元にいた。無限に近い時間を生きる我輩にとって、いつ生まれたかなど考えたこともなかった。
だが、よく考えてみると、いくら悠久の寿命を持つとはいえ、どこかで始まりがあったことは、我輩も人間も、いや、虫けらだって同じことだ。
ご多分に漏れず、我輩も遥かな過去に母を持つ身だった。我輩の母はどのような犬なのだろう。我輩の母なのだから、無限に近い寿命を持っているはずだ。母は今どこにいるのだろう。
2柱の女神様達は私達の母を知っている。
「女神様、我輩の母は今どこにいるのですか?」
「エロ、あなたのお母さんは西王母様のところに居ます。仙郷が夢幻に乗っ取られて、西王母様のところから帰れないでいるのです」
瓊霄娘娘の言葉を聞いて、我輩は安堵した。母は健在そうで、危機に曝されているわけでは無さそうだったからだ。そう思うと、我輩は無性に母と会いたくなった。摩利支娘娘も我輩の気持ちを察して、母のことを教えてくれた。しかし、母のことだけでなく、なんと、我輩の父についても教えてくれた。
「エロ、あなたのお母さんの名前は、❬金霊❭と言って、あなたと同じく真珠のような毛並みを持った仙犬です。そして、あなたのお父さんの名前は❬天狼星❭と言って、西王母様に使えている犬神様です。もうずっと昔のこと、西王母様のお招きで、私達は金霊を連れ、他の仙人様方と1緒に、天の川の中心で蟠とう会を催しました。西王母様の傍らには、七色に輝く天狼星がつき従っていました。金霊と天狼星は恋におち、その時、天の川の中心で生まれたのが、エロ、あなたよ。あなたの本当の名前は、❬南斗六星❭です。夜空を覗いてごらんなさい、天の川の中心に輝く6つの星を。破魔の矢で、邪悪を狩る6つの星を」
「金霊······天狼星······南斗六星······」
その時、我輩の首輪に付いていた、エロとかたどられた仙宝が、目映い光を発して崩れ去った。いや、崩れたのは赤紫色に輝いていた表面だけで、その奥から、南斗六星を象った七色に輝く仙宝が現れた。
それを見て、瓊霄娘娘が嬉しそうに目を細めた。
「南斗六星、それはお父さんが、あなたに贈った仙宝の破魔矢よ。今までエロという偽りの名前で夢幻に封じられていたけれど、あなたが自分の真の名前を知ったことで、禍々しい封印は砕け散りました」
七色の仙宝から、莫大な霊気が我輩の体に注がれてくる。体が熱い。体内の血がフツフツと沸き立つように熱かった。我輩の毛並みが真珠色に加えて七色になった。灼熱の霊気に炙られて、我輩の周囲が陽炎のように揺らいでいる。
「南斗六星、やはり真の姿は美しいですね」
摩利支娘娘も嬉しそうだ。揺らめく霊気がお供え物を、ゆっくりと溶かしていく。脆くなったお供え物は、我輩の牙で簡単に食いちぎることが出来た。
「ああ! ついに自由になれたわ! 数えなれない年月を陵辱され続けてきた日々も、これで終わりよ! 有り難う、南斗六星。私達の可愛い子!」
我輩は、瓊霄娘娘から祝福の口づけを贈られた。自由になった女神達は、依り代に憑依して生身の姿になっていた。艶かしい2柱の木像は、今や、美しくも可愛らしい2人の美少女だった。
口づけを通して、女神の柔らかさと温もりが伝わってくる。我輩は鼻や口がちょっとくすぐったかった······
だが、よく考えてみると、いくら悠久の寿命を持つとはいえ、どこかで始まりがあったことは、我輩も人間も、いや、虫けらだって同じことだ。
ご多分に漏れず、我輩も遥かな過去に母を持つ身だった。我輩の母はどのような犬なのだろう。我輩の母なのだから、無限に近い寿命を持っているはずだ。母は今どこにいるのだろう。
2柱の女神様達は私達の母を知っている。
「女神様、我輩の母は今どこにいるのですか?」
「エロ、あなたのお母さんは西王母様のところに居ます。仙郷が夢幻に乗っ取られて、西王母様のところから帰れないでいるのです」
瓊霄娘娘の言葉を聞いて、我輩は安堵した。母は健在そうで、危機に曝されているわけでは無さそうだったからだ。そう思うと、我輩は無性に母と会いたくなった。摩利支娘娘も我輩の気持ちを察して、母のことを教えてくれた。しかし、母のことだけでなく、なんと、我輩の父についても教えてくれた。
「エロ、あなたのお母さんの名前は、❬金霊❭と言って、あなたと同じく真珠のような毛並みを持った仙犬です。そして、あなたのお父さんの名前は❬天狼星❭と言って、西王母様に使えている犬神様です。もうずっと昔のこと、西王母様のお招きで、私達は金霊を連れ、他の仙人様方と1緒に、天の川の中心で蟠とう会を催しました。西王母様の傍らには、七色に輝く天狼星がつき従っていました。金霊と天狼星は恋におち、その時、天の川の中心で生まれたのが、エロ、あなたよ。あなたの本当の名前は、❬南斗六星❭です。夜空を覗いてごらんなさい、天の川の中心に輝く6つの星を。破魔の矢で、邪悪を狩る6つの星を」
「金霊······天狼星······南斗六星······」
その時、我輩の首輪に付いていた、エロとかたどられた仙宝が、目映い光を発して崩れ去った。いや、崩れたのは赤紫色に輝いていた表面だけで、その奥から、南斗六星を象った七色に輝く仙宝が現れた。
それを見て、瓊霄娘娘が嬉しそうに目を細めた。
「南斗六星、それはお父さんが、あなたに贈った仙宝の破魔矢よ。今までエロという偽りの名前で夢幻に封じられていたけれど、あなたが自分の真の名前を知ったことで、禍々しい封印は砕け散りました」
七色の仙宝から、莫大な霊気が我輩の体に注がれてくる。体が熱い。体内の血がフツフツと沸き立つように熱かった。我輩の毛並みが真珠色に加えて七色になった。灼熱の霊気に炙られて、我輩の周囲が陽炎のように揺らいでいる。
「南斗六星、やはり真の姿は美しいですね」
摩利支娘娘も嬉しそうだ。揺らめく霊気がお供え物を、ゆっくりと溶かしていく。脆くなったお供え物は、我輩の牙で簡単に食いちぎることが出来た。
「ああ! ついに自由になれたわ! 数えなれない年月を陵辱され続けてきた日々も、これで終わりよ! 有り難う、南斗六星。私達の可愛い子!」
我輩は、瓊霄娘娘から祝福の口づけを贈られた。自由になった女神達は、依り代に憑依して生身の姿になっていた。艶かしい2柱の木像は、今や、美しくも可愛らしい2人の美少女だった。
口づけを通して、女神の柔らかさと温もりが伝わってくる。我輩は鼻や口がちょっとくすぐったかった······
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