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第3章 お供え物を求めて
奥の殿⑤ ~南斗六星~
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2柱とも愛欲責めから解放されて、真底嬉しそうだった。思い詰めたような顔つきが消えて、晴れやかな表情をしている。
「南斗六星、中心の夢幻と愛染を見てご覧なさい」
摩利支娘娘が中心で絡み合う2体の像を指した。そこには、像はなかった。ただ朽ち果てた木屑の山があるだけだった。お供え物の残骸が、幾つか木屑の山から顔を覗かせている。
「これが、彼らの1500年後の姿。お供え物を力に私達から霊力を奪って、1500年間、姿を維持してきたのよ。もう夢幻達は自力で存在することはできない。単なる霊となって、人から人へと憑依をし続けて、生き長らえようとするしかないでしょう」
摩利支娘娘が、木屑の山をお供え物だったボロごと吹き払った。木屑は渦を巻いて異界の空に消えていった。
「もう夢幻達の好きにはさせない。これからは私達が、夢幻を仙郷に閉じ込めて、人間界で悪さできないように押さえておくわ」
瓊霄娘娘が呪文を唱える。朽ち果てた異界の社が、揺らめきながら消えていった。丘の頂上には、荒れ果てた広場だけが残った。
外は夜のように暗かった。空は星1つない虚空がどこまでも広がっていた。荒れた広場の上には、自ら輝く2柱の女神と我輩だけがいた。
摩利支娘娘が我輩に振り向いた。
「有り難う、南斗六星。私達はこれから夢幻洞に戻ります。」
「夢幻洞? 娘娘洞ではないのですか?」
「もう夢幻洞の名で天宮に登録されています。登録変更はいろいろと手続きが面倒なので、このままにします」
摩利支娘娘が呪文を唱えて印を結ぶと、荒れ果てた草むらに夢幻洞の紋が現れた。紋は様々な色合いに変化しながら回転している。
「南斗六星、あなたを1500年後の現在に送り返します。本当なら1緒に連れて帰りたいのですけど、あなたには、まだしなくてはならないことがあります」
瓊霄娘娘が回転紋の上に乗って言った。漆黒の髪が、上空ヘ吹き上げられるように逆立っている。
「人間界に迷い混んだあなたを助けた娘が、夢幻に狙われています。あなたは娘を夢幻から守らねばなりません。夢幻は娘をかつての私達のように利用しようとしています」
「京香が危ない!?」
「南斗六星、お父さんの仙宝を使いなさい。娘を夢幻から守り、仙郷まで夢幻を連れてきて下さい。仙郷の入口は狐火に伝えておきます」
摩利支娘娘も回転紋の上に乗った。長い髪が勢いよく逆立った。2柱の女神が乗ると、回転紋から緑色に輝く円柱状の光が、果てしない虚空へ伸びていった。女神達の姿が薄くなっていく。
「「頼みましたよ、南斗六星」」
女神達の姿が完全に消えると、回転紋も消滅した。辺りから秋の虫が鳴き交わす音が聞こえてきた。もう夜だった。辺り一面に暗い雑木林が広がっている。遠くの方で、自動車がクラクションをたてたり、電車が走行音をたてたりしていた。
どうやら、我輩は1500年後の現在に戻ってきたようだった。
「······あなたを助けた娘が、夢幻に狙われています······」
我輩は急いで丘を降りて、夢幻神社を後にした······
「南斗六星、中心の夢幻と愛染を見てご覧なさい」
摩利支娘娘が中心で絡み合う2体の像を指した。そこには、像はなかった。ただ朽ち果てた木屑の山があるだけだった。お供え物の残骸が、幾つか木屑の山から顔を覗かせている。
「これが、彼らの1500年後の姿。お供え物を力に私達から霊力を奪って、1500年間、姿を維持してきたのよ。もう夢幻達は自力で存在することはできない。単なる霊となって、人から人へと憑依をし続けて、生き長らえようとするしかないでしょう」
摩利支娘娘が、木屑の山をお供え物だったボロごと吹き払った。木屑は渦を巻いて異界の空に消えていった。
「もう夢幻達の好きにはさせない。これからは私達が、夢幻を仙郷に閉じ込めて、人間界で悪さできないように押さえておくわ」
瓊霄娘娘が呪文を唱える。朽ち果てた異界の社が、揺らめきながら消えていった。丘の頂上には、荒れ果てた広場だけが残った。
外は夜のように暗かった。空は星1つない虚空がどこまでも広がっていた。荒れた広場の上には、自ら輝く2柱の女神と我輩だけがいた。
摩利支娘娘が我輩に振り向いた。
「有り難う、南斗六星。私達はこれから夢幻洞に戻ります。」
「夢幻洞? 娘娘洞ではないのですか?」
「もう夢幻洞の名で天宮に登録されています。登録変更はいろいろと手続きが面倒なので、このままにします」
摩利支娘娘が呪文を唱えて印を結ぶと、荒れ果てた草むらに夢幻洞の紋が現れた。紋は様々な色合いに変化しながら回転している。
「南斗六星、あなたを1500年後の現在に送り返します。本当なら1緒に連れて帰りたいのですけど、あなたには、まだしなくてはならないことがあります」
瓊霄娘娘が回転紋の上に乗って言った。漆黒の髪が、上空ヘ吹き上げられるように逆立っている。
「人間界に迷い混んだあなたを助けた娘が、夢幻に狙われています。あなたは娘を夢幻から守らねばなりません。夢幻は娘をかつての私達のように利用しようとしています」
「京香が危ない!?」
「南斗六星、お父さんの仙宝を使いなさい。娘を夢幻から守り、仙郷まで夢幻を連れてきて下さい。仙郷の入口は狐火に伝えておきます」
摩利支娘娘も回転紋の上に乗った。長い髪が勢いよく逆立った。2柱の女神が乗ると、回転紋から緑色に輝く円柱状の光が、果てしない虚空へ伸びていった。女神達の姿が薄くなっていく。
「「頼みましたよ、南斗六星」」
女神達の姿が完全に消えると、回転紋も消滅した。辺りから秋の虫が鳴き交わす音が聞こえてきた。もう夜だった。辺り一面に暗い雑木林が広がっている。遠くの方で、自動車がクラクションをたてたり、電車が走行音をたてたりしていた。
どうやら、我輩は1500年後の現在に戻ってきたようだった。
「······あなたを助けた娘が、夢幻に狙われています······」
我輩は急いで丘を降りて、夢幻神社を後にした······
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