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エピローグ 聖霊界再び
桃色御殿
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馥郁と香る桃色の彩雲を潜ると、門の傍らでご機嫌そうに鼻唄を歌いながら風に模様を描いて遊んでいる童女に出会った。
童女は流れる彩雲のようなゆったりとした衣服を着、艶やかな黒髪を左右で丸めて団子をつくっていた。
「あっ~! エロじゃない。あんた、どこ行ってたの?」
我輩の姿を認めると、童女は風に模様を描くのを止めた。
「久しぶり、織姫ちゃん。うっかり、混沌門から人間界に迷い込んじゃったんだけど、やっと帰ってこれた」
「そうだったの? 全然あんたの姿を見なかったから、どうしたのかと思っていたのよ」
風が織姫の髪をそよがせる。ついで清らかで澄んだ嘶きが空に轟いた。麒麟が我輩らの頭上を飛び越えたようだった。
「織姫ちゃんはご機嫌だね。なんか良いことでもあったの?」
「ウフフ、そうなのよ❤️ なんと娘娘様がお戻りになったの。それも、夢幻のスケベを捕まえてらしたみたい。最高じゃない❤️ 私、あのスケベにしょっちゅういやらしいことされてたんだから。けれど、それももうおしまいね。今度は、私があいつに仕返しをする番よ!」
「·······そ、それは、良かったね。あ、あのさ、御殿に入っても大丈夫かな?」
「もちろんよ。娘娘様がたもお喜びになるわ」
我輩は門を潜って中庭を奥へ進んだ。路の両脇に大きな桃の実がなる並木が続いている。よく熟れた桃の甘い香りが陶酔を誘った。その香りに誘われた蝶の精達が、翅を輝かせながら彩雲の中を乱舞していた。
流れる彩雲の切れ間から、娘娘様の新御殿が姿を見せていた。その方から二胡だろうか、弦楽器の幻想的な音色が響いてくる。
「······エロー! 夢幻がどんな目にあっているか、後で教えてねー!」
楽器の幽玄な音色に、織姫ちゃんの甲高い嬌声が混じって聞こえた。我輩はそれに適当な返事をすると、更に奥へと進んだ。
我輩は桃の形をした御殿の入り口に来た。そこには、沢山の桃が入った籠を小脇に抱えた娘がいた。ゆったりとした絹の衣服をまとい、河のせせらぎのような音をかすらせていた。編んだ長い黒髪を、蝶の翅のように後方で結い、幾つもの髪飾りが、天空の星ぼしのように煌めいている。
「弁財姉さんー!」
「あら、エロじゃないの? 今まで姿が見えなかったけれど、どこにいっていたの?」
「えっとー、に、人間界です」
「人間界ですって? どうして、そんなところに行っていたの?」
「そ、それは、秘密です······」
「秘密ね~、まあ、あなたのことだから、なんとなく想像はつくけれど······それよりも、あなたがいなくて織姫が淋しがっていたわよ」
「さっき、門のところで会いました」
「そう、なら良いけれど」
「姉さん、そんなに沢山の桃を抱えて、御殿で何かあるのですか? 楽器の音も聞こえているようですけど?」
「フフフ、エロももう知っているでしょう? 今しがた、娘娘様がお戻りになったのよ。それも、小悪党の夢幻を捕まえてね。これから、神仙様がたを招いて桃の宴を行うのよ。」
「······姉さん、夢幻仙様はどうなるのですか?」
「夢幻? あのエロボケなら御殿の一角に幽閉されているわよ」
弁財姉さんは、汚い言葉でも聞いたように顔をしかめて、御殿の一角を指差した。そこは、桃色の彩雲に包まれた御殿の中で、唯一、禍々しい赤紫色の障気で覆われていた。欲にまみれた淫らな波動が、美しい香気を卑猥なものに腐らせている。
「あそこだけ、香気が違っていますね······」
「あれが、夢幻の波動よ。本当にいつ見ても汚ならしいわね。これまで、あの波動に汚されて来たかと思うと、気持ち悪くて怖気が止まらないわ」
穢れた淫らな記憶に鳥肌をたてた弁財姉さんは、ブルブルと体を震わせた。
「汚ない話は辞めましょう。もうすぐ、宴が始まるから、あなたもご一緒しなさいよ」
我輩は弁財姉さんに勧められて御殿の中へ入った······
童女は流れる彩雲のようなゆったりとした衣服を着、艶やかな黒髪を左右で丸めて団子をつくっていた。
「あっ~! エロじゃない。あんた、どこ行ってたの?」
我輩の姿を認めると、童女は風に模様を描くのを止めた。
「久しぶり、織姫ちゃん。うっかり、混沌門から人間界に迷い込んじゃったんだけど、やっと帰ってこれた」
「そうだったの? 全然あんたの姿を見なかったから、どうしたのかと思っていたのよ」
風が織姫の髪をそよがせる。ついで清らかで澄んだ嘶きが空に轟いた。麒麟が我輩らの頭上を飛び越えたようだった。
「織姫ちゃんはご機嫌だね。なんか良いことでもあったの?」
「ウフフ、そうなのよ❤️ なんと娘娘様がお戻りになったの。それも、夢幻のスケベを捕まえてらしたみたい。最高じゃない❤️ 私、あのスケベにしょっちゅういやらしいことされてたんだから。けれど、それももうおしまいね。今度は、私があいつに仕返しをする番よ!」
「·······そ、それは、良かったね。あ、あのさ、御殿に入っても大丈夫かな?」
「もちろんよ。娘娘様がたもお喜びになるわ」
我輩は門を潜って中庭を奥へ進んだ。路の両脇に大きな桃の実がなる並木が続いている。よく熟れた桃の甘い香りが陶酔を誘った。その香りに誘われた蝶の精達が、翅を輝かせながら彩雲の中を乱舞していた。
流れる彩雲の切れ間から、娘娘様の新御殿が姿を見せていた。その方から二胡だろうか、弦楽器の幻想的な音色が響いてくる。
「······エロー! 夢幻がどんな目にあっているか、後で教えてねー!」
楽器の幽玄な音色に、織姫ちゃんの甲高い嬌声が混じって聞こえた。我輩はそれに適当な返事をすると、更に奥へと進んだ。
我輩は桃の形をした御殿の入り口に来た。そこには、沢山の桃が入った籠を小脇に抱えた娘がいた。ゆったりとした絹の衣服をまとい、河のせせらぎのような音をかすらせていた。編んだ長い黒髪を、蝶の翅のように後方で結い、幾つもの髪飾りが、天空の星ぼしのように煌めいている。
「弁財姉さんー!」
「あら、エロじゃないの? 今まで姿が見えなかったけれど、どこにいっていたの?」
「えっとー、に、人間界です」
「人間界ですって? どうして、そんなところに行っていたの?」
「そ、それは、秘密です······」
「秘密ね~、まあ、あなたのことだから、なんとなく想像はつくけれど······それよりも、あなたがいなくて織姫が淋しがっていたわよ」
「さっき、門のところで会いました」
「そう、なら良いけれど」
「姉さん、そんなに沢山の桃を抱えて、御殿で何かあるのですか? 楽器の音も聞こえているようですけど?」
「フフフ、エロももう知っているでしょう? 今しがた、娘娘様がお戻りになったのよ。それも、小悪党の夢幻を捕まえてね。これから、神仙様がたを招いて桃の宴を行うのよ。」
「······姉さん、夢幻仙様はどうなるのですか?」
「夢幻? あのエロボケなら御殿の一角に幽閉されているわよ」
弁財姉さんは、汚い言葉でも聞いたように顔をしかめて、御殿の一角を指差した。そこは、桃色の彩雲に包まれた御殿の中で、唯一、禍々しい赤紫色の障気で覆われていた。欲にまみれた淫らな波動が、美しい香気を卑猥なものに腐らせている。
「あそこだけ、香気が違っていますね······」
「あれが、夢幻の波動よ。本当にいつ見ても汚ならしいわね。これまで、あの波動に汚されて来たかと思うと、気持ち悪くて怖気が止まらないわ」
穢れた淫らな記憶に鳥肌をたてた弁財姉さんは、ブルブルと体を震わせた。
「汚ない話は辞めましょう。もうすぐ、宴が始まるから、あなたもご一緒しなさいよ」
我輩は弁財姉さんに勧められて御殿の中へ入った······
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