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一章 森の少女と獣
国王
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あの事件から約二日が経った。ローニャは街での生活にも慣れ始めていた、そんな時の事。
いつも通りギルドでクエストを探していると『バン!』と凄い勢いで扉を開き、ギルドに騎士数名が突然入って来た。騎士はギルド全体に聞こえる程の大声で叫ぶ。
「このギルドに、森に住んでいたと言う子供が居るとの情報を聞き付けた、本人、或いは知っていると言う者は直ちに名乗り出よ!」
突然の珍客にギルド内はざわつく、ローニャは咄嗟に物陰に身を隠した。そこに急いでギルドマスターであるカーバッツが現れ、騎士に話し掛ける。
「これはこれは、騎士団長様がわざわざこんな所まで御足労様です。」
「思ってもいないご機嫌取りは結構です、ギルドマスター殿。それより先程告げた子供を呼んで頂けますか?」
「いやーそうしたいのは山々なんだがなぁ…生憎あいつは人見知りでな…」
「それは承知しています。ですがこれは陛下の御命令ですので。」
「へ~陛下がわざわざ何処の馬の骨とも知らない子供を?まさか…捕縛でもするつもりか?たかだか森に住んでいただけで?」
カーバッツは挑発するような言葉を騎士に言い放つ。しかし騎士は全く動じない。
「それは私の方からはお答えし兼ねますね。ですが陛下が城に連れて来るようにと」
全く動じない騎士にカーバッツは折れてしまった。
「成程、分かった…あいつを呼ぼう、だが城へは俺も同行させて貰うぞ。一応の保護者役として。」
「それは構いません、同行者の有無は仰言られて居られなかったので。」
「そうか…おい!居るんだろう!こっちに来い!」
カーバッツがローニャを呼ぶ。がローニャは物陰から中々出て来ない。仕方無くカーバッツはローニャに近寄り説得を試みる。
「なぁ嬢ちゃん…頼む来てくれ。流石に陛下の命令は断れないんだ。」
ローニャは嫌そうな顔をしながら騎士の前に出る。
「こいつがそうだ」
「本当に子供なんですね…いえ失礼しました。では外で馬車が停まっていますので、そちらにお乗り下さい」
と扉を開けて馬車を指差した。
外に出る前にカーバッツがローニャに話し掛けて来た。
「なぁ嬢ちゃん勝手に決めちまったが、同行者として俺が付いてっても良い?もし俺が嫌なら他の奴か…別に一人でも良いが…」
「一人は…流石に無理…同行するのは誰でも良い…」
「そうか…なら俺が同行させて貰おう。」
話し合いが終わると二人は馬車に乗り込んだ。次に騎士が馬車に乗ると、馬車は城に向かって走り出した。
道中 フード越しにローニャは騎士を睨み付け警戒と威嚇を示す。騎士はローニャを宥める様に話し掛ける。
「そんなに警戒しなくて良いよ、もし君を捕らえるつもりならもうやってるからね。そうだ紹介が遅れました。私は王国騎士団団長、【サンザック・オーレック】です。以後お見知り置きを。…そろそろ警戒を解いて欲しいな…」
「ああ…俺もよくは知らんが色々有ったみたいでな気にしないでやってくれ」
「はぁ…分かりました…では何か気が解れる事を話しましょうか」
とサンザックは楽しげに話しを始めた。
その後はサンザックの話に馬車内の空気は穏やかになった、ローニャ以外は。
十数分後 ようやく城に着いた。初めて来る城にローニャはとても驚いて居た、街から見た城は他よりも大きく見えては居たが、いざ間近くで見ると更に大きく、全く違う印象を受けた。
「凄いですよね、でも中はもっと凄いですよ」
サンザックがニコニコしながらローニャに話し掛ける。騎士達に付いて行き城門を通り、城内に入る、そこでローニャは更に驚く。
とてつもなく広いエントランス、ローニャは周りを忙しなく見渡しながら騎士達に付いて行く。その後も、街では見られない様な内装、そして広場や中庭を窓越しに見ながら城の奥に進む、そうしてローニャ達は格段に大きな扉へ辿り着いた。
見張りの騎士が扉を開ける、開き切った先に見えたのは、今まで見て来た、どの部屋よりも広い空間、そしてその更に奥には、四人の人物が座っていた。
一行はその人物達の前に進み全員がその場で跪く。ローニャも少し遅れて膝を突く。全員が跪くとサンザックが玉座の人物に話し掛ける。
「王国騎士団、団長、サンザック・オーレックです。陛下…御命令通り子供を連れて参りました。もう一人はこの子供の保護者役の様な者です。」
「うむ…御苦労であった。下がって良い」
「はは!」
国王の言葉に返事と共に騎士達は部屋の外へ出ていった。
「表を上げよ」
その言葉に二人が顔を国王に向ける。
「ではまずは自己紹介から…私はレオンハール王国国王【オルデリオン・レオンハール】である。こちらの者達は私の妻の【マリアナ】。第一王子の【オルガ】。第一王女の【アリア】だ。少女よ、其方は何と言う名だ?」
カーバッツが肘でローニャを突き小声で名乗る様に指示する。
「ロ…ローニャ…です…苗字は…その…ありません…」
オドオドしながら必死に詰まる言葉を絞り出す。
「ん?無い?普通、平民だろうと苗字はあるはずなんだが…何故無いのだ?」
「え…と…私は捨て子でして…その…捨てられた時に名乗らないと決めまして…」
「成程…では仕方ない。それより今回其方を呼び出したた理由を言わねばな」
二人は固唾を飲み、何を言われるのかと身構える。しかし告げられたのは、二人の予想の斜め上の物だった。
「今回其方を呼び出したのは…其方に感謝したかったからだ。」
「…え?」
同時に同じ反応をする、ローニャですら心当たりが無かった。
そこでカーバッツが口を開く。
「発言を宜しいでしょうか?」
「許す」
「感謝とは一体?」
「お主は知らなくて当然だ。ローニャよ其方は覚えておらんか?」
ローニャは四人の顔を見ても全く心当たりが無い。
「いえ…全く…」
国王は残念そうな顔をする。
「そうか…まあ実際其方の姿を見たのはこちら側だけで対面してはいない故、仕方無いが…。では、事の経緯を話そう。オルガ。」
国王に名前を呼ばれ王子が話し始める。
「二年前の話です。二年前、私と妹であるアリアは帝国へ二人で出向いていました。その帰り、本来通る筈の道でトラブルがあったようで、その道を使えず、その日は大雨だったので道の無い場所を通れば事故になりかねない、そんな事になれば王族として大問題だった。その為、仕方無く御者を説得して【暗い森】の一本道を通ったんです。しかし運悪く道中で【ダッシュボア】に目を付けられてしまい…我々の馬車は追い掛けられました。知っての通り【ダッシュボア】は速い、馬車など直ぐに追い付かれてしまいます。後少しで追突される思ったその瞬間!何処からともなく一本の矢が飛んで来たんです!ボアは矢に驚き森の中に逃げて行きました。そして私は見たんです!木の上で佇む黒いマントに身を包んだ子供の姿を!あの格好良い姿は一生忘れられない!何としてでも会ってお礼をしなくてはと!しかし…あの森はとても危険、故に私自身が出向く事は出来ず、騎士も誰一人として行ってくれる人は居ませんでした。しかし!先日学園でアリアが森から来た子供が冒険者をしていると言う噂を聞き付け、父上…いえ陛下にお願いして、貴女をお呼びした、と言うのが事の経緯です。」
「あなたは私達の恩人ですから。噂を耳にした時にすぐさまお兄様に報告致しました。私からも是非呼んでお礼をと思って」
王子に話が終わるとカーバッツがローニャの方を向く。
「お前…何でそんな大事な事忘れてんだ?!」
「もしかして…あの時の…あれ…そうだったんだ…」
ローニャは王子の話を聞いて、ようやく何の事を言っているのか理解した。
二年前
朝六時 暗い森 森の家
森で暮らし始めて早一年、過酷ではあるものの、何とか慣れ始めていた。習慣となった朝の準備運動をし、支度をして森の探索へ出ると言う、いつも通りの一日が始まった。その日は少し雨が降っていたがいつも通り探索をする。数時間森の中を歩き、休憩をしようとした時、雨が本格的に降り始めた。ローニャは急いで探索を切り上げ、家へ向かって走り出した。
帰路の途中、微かに振動を感じ足を止める。《感覚強化》で感覚を凝らして振動の源を探る。源を見つけ、その方に向かって走り出す。
少しして一本道に辿り着く。視野を取る為、木に登ると全速力で走る馬車とそれを追い掛ける【ダッシュボア】の姿が見えた。ローニャは急いでそれを追い掛ける。
「さすがにたすけた方が良いかな…」
馬車を追い越し弓を引き、待ち構える
「さすがにころす訳にはいかないから…これで!」
狙いを澄まし矢を放つ。矢はボアの目の前の地面に刺さりボアはそれに驚き、そそくさと逃げて行った。走り去る馬車をローニャは眺める。
「ごうかな馬車だな…話しかけようかな……いや…いいや良い人かもわからないし、ほっとこ」
ローニャは過ぎ去る馬車に背を向け家へ帰った。
そして現在
「思い出してくださったのですね?!」
「た…確かに…豪華な馬車だなとは思いましたけど…まさか王族が乗ってるとは思っていませんでした…」
「それでも我々は命を救われたのです、何かお礼をさせて下さい!」
「そうだな、其方は我が息子達を救った、ただ礼を述べるだけでは足りんだろう、構わん、何か申してみよ、出来る範囲でなら、何でも用意しよう」
「そう…言えわれても…特には欲しい物は…ありません…」
ローニャは悩みながらも全く思いつかなかった。
「うむ…しかし何も無しと言うのは流石にな…」
国王が顎に手を添え考える。そこに王妃が口を開いた。
「陛下…もし良ければ“【身代わりの指輪】を差し上げ出ては?」
「ん?うむ…そうだな…非常用としては取っておいたがそれが良いだろう。そこの者、宝物庫から【身代わりの指輪】を持ってきてくれ」
「畏まりました。」
国王が側に立っていた召使いに指示を出すと召使いには部屋から出て行った。
「すまぬが、礼の品を用意する為、少し待っていてくれ。その間に茶でもどうだ?」
「え?は…はい…」
「うむ…では謁見はこれで終えるとしよう。」
そうして謁見を終えローニャ達はダイニングへと通された。
お茶を出され、カーバッツと国王達が楽しげに談笑している。その様子をローニャは黙って見ていた。
一頻り話し終えると次に国王はローニャに話し掛けた。
「さて、ローニャよ放ったらかしにしてすまんな。是非其方の森での話を聞かさてはくれぬか?」
「あ…はい…えっと先ず私が森に暮らすようになった経緯から…」
とローニャは森に捨てられてから、三年間の出来事を話た。
話をしている最中、話を聞いた者たちは様々な反応を示した。時に怒りを顕にし、時に恐怖を示す者も居た。そしてある程度話し終えると、場が一瞬静寂に包まれた後国王が口を開いた。
「子供とは思えん人生を送ったのだな…よくぞここまでで生きていてくれたな」
「あ…いえ…運が良かっただけです…」
「だとしてもだ。それにしても何故其方の父親はそのような事を?」
「私にも…さっぱり…」
「ふむ…ローニャよ其方の親はどのような者なのか教えてくれるか?」
「えっと…そうですね…私の母はとても優しい人で、家族の為に何時も働いていました…その上で私に色々勉強を教えてくれたり、裁縫も教わりました。対して父は働かず何時も家に居ました。そのくせ母に命令はばかりしていて…何時もお酒を飲んでは酔っ払って、私や母に暴力を浴びせてくるような人でした。」
ローニャの話に国王達が絶句した。
「そうか…そこでも苦労していたのだな…」
「酷い話ですね…特に父親が…」
「母によれば…父は元々優しい人で…よくは知りませんが何か大きな仕事をしていたと聞きました」
「そうなのか?だが、だとしてもその父親は何か処罰を与えねばならん。もし王国内で見付けた場合その者は拘束させて貰うが…悪く思わないでくれ。」
「はい…」
ローニャよ話が終わると扉からノックが聞こえ、召使いが部屋に入って来た。召使いはローニャの席の横に立ち小さな豪華な箱を開けた。そこにはとても綺麗な青い宝石のような指輪が入っていた。
「さて、待たせてしまったな。ローニャよ其方にそれを授けよう。」
と言って国王がそう言うとローニャはその綺麗は指輪を受け取り、不思議そうに眺めている。
「それは【身代わりの指輪】と言ってな。着用者が命に関わる怪我を負った時、その指輪が瞬時に強力な【回復魔法】を発動し着用者を一度だけ護ってくれる。付けてみるといい。」
ローニャは国王の言葉を聞き指輪を指に通した。その瞬間。ローニャの指よりも大きかった筈の指輪は、ローニャの指にピッタリと填まるように大きさを変えた。ローニャはそれにとても驚いて少し跳び跳ねた。
「はっはっはっ!驚いたろ。どうだ?気に入ったか?」
「はい…」
ローニャは少し微笑みながら返事をした。
「さて!此度はこれでお開きとしよう。ローニャよ改めて子供らを救ってくれた事、感謝する。」
と国王はローニャに頭下げた。
「あ…いえ…その…こちらこそありがとうございます…」
とローニャも頭を下げた。
その後、国王との話し合いを終え、互いに別れを言い、ローニャ達は城を出た
いつも通りギルドでクエストを探していると『バン!』と凄い勢いで扉を開き、ギルドに騎士数名が突然入って来た。騎士はギルド全体に聞こえる程の大声で叫ぶ。
「このギルドに、森に住んでいたと言う子供が居るとの情報を聞き付けた、本人、或いは知っていると言う者は直ちに名乗り出よ!」
突然の珍客にギルド内はざわつく、ローニャは咄嗟に物陰に身を隠した。そこに急いでギルドマスターであるカーバッツが現れ、騎士に話し掛ける。
「これはこれは、騎士団長様がわざわざこんな所まで御足労様です。」
「思ってもいないご機嫌取りは結構です、ギルドマスター殿。それより先程告げた子供を呼んで頂けますか?」
「いやーそうしたいのは山々なんだがなぁ…生憎あいつは人見知りでな…」
「それは承知しています。ですがこれは陛下の御命令ですので。」
「へ~陛下がわざわざ何処の馬の骨とも知らない子供を?まさか…捕縛でもするつもりか?たかだか森に住んでいただけで?」
カーバッツは挑発するような言葉を騎士に言い放つ。しかし騎士は全く動じない。
「それは私の方からはお答えし兼ねますね。ですが陛下が城に連れて来るようにと」
全く動じない騎士にカーバッツは折れてしまった。
「成程、分かった…あいつを呼ぼう、だが城へは俺も同行させて貰うぞ。一応の保護者役として。」
「それは構いません、同行者の有無は仰言られて居られなかったので。」
「そうか…おい!居るんだろう!こっちに来い!」
カーバッツがローニャを呼ぶ。がローニャは物陰から中々出て来ない。仕方無くカーバッツはローニャに近寄り説得を試みる。
「なぁ嬢ちゃん…頼む来てくれ。流石に陛下の命令は断れないんだ。」
ローニャは嫌そうな顔をしながら騎士の前に出る。
「こいつがそうだ」
「本当に子供なんですね…いえ失礼しました。では外で馬車が停まっていますので、そちらにお乗り下さい」
と扉を開けて馬車を指差した。
外に出る前にカーバッツがローニャに話し掛けて来た。
「なぁ嬢ちゃん勝手に決めちまったが、同行者として俺が付いてっても良い?もし俺が嫌なら他の奴か…別に一人でも良いが…」
「一人は…流石に無理…同行するのは誰でも良い…」
「そうか…なら俺が同行させて貰おう。」
話し合いが終わると二人は馬車に乗り込んだ。次に騎士が馬車に乗ると、馬車は城に向かって走り出した。
道中 フード越しにローニャは騎士を睨み付け警戒と威嚇を示す。騎士はローニャを宥める様に話し掛ける。
「そんなに警戒しなくて良いよ、もし君を捕らえるつもりならもうやってるからね。そうだ紹介が遅れました。私は王国騎士団団長、【サンザック・オーレック】です。以後お見知り置きを。…そろそろ警戒を解いて欲しいな…」
「ああ…俺もよくは知らんが色々有ったみたいでな気にしないでやってくれ」
「はぁ…分かりました…では何か気が解れる事を話しましょうか」
とサンザックは楽しげに話しを始めた。
その後はサンザックの話に馬車内の空気は穏やかになった、ローニャ以外は。
十数分後 ようやく城に着いた。初めて来る城にローニャはとても驚いて居た、街から見た城は他よりも大きく見えては居たが、いざ間近くで見ると更に大きく、全く違う印象を受けた。
「凄いですよね、でも中はもっと凄いですよ」
サンザックがニコニコしながらローニャに話し掛ける。騎士達に付いて行き城門を通り、城内に入る、そこでローニャは更に驚く。
とてつもなく広いエントランス、ローニャは周りを忙しなく見渡しながら騎士達に付いて行く。その後も、街では見られない様な内装、そして広場や中庭を窓越しに見ながら城の奥に進む、そうしてローニャ達は格段に大きな扉へ辿り着いた。
見張りの騎士が扉を開ける、開き切った先に見えたのは、今まで見て来た、どの部屋よりも広い空間、そしてその更に奥には、四人の人物が座っていた。
一行はその人物達の前に進み全員がその場で跪く。ローニャも少し遅れて膝を突く。全員が跪くとサンザックが玉座の人物に話し掛ける。
「王国騎士団、団長、サンザック・オーレックです。陛下…御命令通り子供を連れて参りました。もう一人はこの子供の保護者役の様な者です。」
「うむ…御苦労であった。下がって良い」
「はは!」
国王の言葉に返事と共に騎士達は部屋の外へ出ていった。
「表を上げよ」
その言葉に二人が顔を国王に向ける。
「ではまずは自己紹介から…私はレオンハール王国国王【オルデリオン・レオンハール】である。こちらの者達は私の妻の【マリアナ】。第一王子の【オルガ】。第一王女の【アリア】だ。少女よ、其方は何と言う名だ?」
カーバッツが肘でローニャを突き小声で名乗る様に指示する。
「ロ…ローニャ…です…苗字は…その…ありません…」
オドオドしながら必死に詰まる言葉を絞り出す。
「ん?無い?普通、平民だろうと苗字はあるはずなんだが…何故無いのだ?」
「え…と…私は捨て子でして…その…捨てられた時に名乗らないと決めまして…」
「成程…では仕方ない。それより今回其方を呼び出したた理由を言わねばな」
二人は固唾を飲み、何を言われるのかと身構える。しかし告げられたのは、二人の予想の斜め上の物だった。
「今回其方を呼び出したのは…其方に感謝したかったからだ。」
「…え?」
同時に同じ反応をする、ローニャですら心当たりが無かった。
そこでカーバッツが口を開く。
「発言を宜しいでしょうか?」
「許す」
「感謝とは一体?」
「お主は知らなくて当然だ。ローニャよ其方は覚えておらんか?」
ローニャは四人の顔を見ても全く心当たりが無い。
「いえ…全く…」
国王は残念そうな顔をする。
「そうか…まあ実際其方の姿を見たのはこちら側だけで対面してはいない故、仕方無いが…。では、事の経緯を話そう。オルガ。」
国王に名前を呼ばれ王子が話し始める。
「二年前の話です。二年前、私と妹であるアリアは帝国へ二人で出向いていました。その帰り、本来通る筈の道でトラブルがあったようで、その道を使えず、その日は大雨だったので道の無い場所を通れば事故になりかねない、そんな事になれば王族として大問題だった。その為、仕方無く御者を説得して【暗い森】の一本道を通ったんです。しかし運悪く道中で【ダッシュボア】に目を付けられてしまい…我々の馬車は追い掛けられました。知っての通り【ダッシュボア】は速い、馬車など直ぐに追い付かれてしまいます。後少しで追突される思ったその瞬間!何処からともなく一本の矢が飛んで来たんです!ボアは矢に驚き森の中に逃げて行きました。そして私は見たんです!木の上で佇む黒いマントに身を包んだ子供の姿を!あの格好良い姿は一生忘れられない!何としてでも会ってお礼をしなくてはと!しかし…あの森はとても危険、故に私自身が出向く事は出来ず、騎士も誰一人として行ってくれる人は居ませんでした。しかし!先日学園でアリアが森から来た子供が冒険者をしていると言う噂を聞き付け、父上…いえ陛下にお願いして、貴女をお呼びした、と言うのが事の経緯です。」
「あなたは私達の恩人ですから。噂を耳にした時にすぐさまお兄様に報告致しました。私からも是非呼んでお礼をと思って」
王子に話が終わるとカーバッツがローニャの方を向く。
「お前…何でそんな大事な事忘れてんだ?!」
「もしかして…あの時の…あれ…そうだったんだ…」
ローニャは王子の話を聞いて、ようやく何の事を言っているのか理解した。
二年前
朝六時 暗い森 森の家
森で暮らし始めて早一年、過酷ではあるものの、何とか慣れ始めていた。習慣となった朝の準備運動をし、支度をして森の探索へ出ると言う、いつも通りの一日が始まった。その日は少し雨が降っていたがいつも通り探索をする。数時間森の中を歩き、休憩をしようとした時、雨が本格的に降り始めた。ローニャは急いで探索を切り上げ、家へ向かって走り出した。
帰路の途中、微かに振動を感じ足を止める。《感覚強化》で感覚を凝らして振動の源を探る。源を見つけ、その方に向かって走り出す。
少しして一本道に辿り着く。視野を取る為、木に登ると全速力で走る馬車とそれを追い掛ける【ダッシュボア】の姿が見えた。ローニャは急いでそれを追い掛ける。
「さすがにたすけた方が良いかな…」
馬車を追い越し弓を引き、待ち構える
「さすがにころす訳にはいかないから…これで!」
狙いを澄まし矢を放つ。矢はボアの目の前の地面に刺さりボアはそれに驚き、そそくさと逃げて行った。走り去る馬車をローニャは眺める。
「ごうかな馬車だな…話しかけようかな……いや…いいや良い人かもわからないし、ほっとこ」
ローニャは過ぎ去る馬車に背を向け家へ帰った。
そして現在
「思い出してくださったのですね?!」
「た…確かに…豪華な馬車だなとは思いましたけど…まさか王族が乗ってるとは思っていませんでした…」
「それでも我々は命を救われたのです、何かお礼をさせて下さい!」
「そうだな、其方は我が息子達を救った、ただ礼を述べるだけでは足りんだろう、構わん、何か申してみよ、出来る範囲でなら、何でも用意しよう」
「そう…言えわれても…特には欲しい物は…ありません…」
ローニャは悩みながらも全く思いつかなかった。
「うむ…しかし何も無しと言うのは流石にな…」
国王が顎に手を添え考える。そこに王妃が口を開いた。
「陛下…もし良ければ“【身代わりの指輪】を差し上げ出ては?」
「ん?うむ…そうだな…非常用としては取っておいたがそれが良いだろう。そこの者、宝物庫から【身代わりの指輪】を持ってきてくれ」
「畏まりました。」
国王が側に立っていた召使いに指示を出すと召使いには部屋から出て行った。
「すまぬが、礼の品を用意する為、少し待っていてくれ。その間に茶でもどうだ?」
「え?は…はい…」
「うむ…では謁見はこれで終えるとしよう。」
そうして謁見を終えローニャ達はダイニングへと通された。
お茶を出され、カーバッツと国王達が楽しげに談笑している。その様子をローニャは黙って見ていた。
一頻り話し終えると次に国王はローニャに話し掛けた。
「さて、ローニャよ放ったらかしにしてすまんな。是非其方の森での話を聞かさてはくれぬか?」
「あ…はい…えっと先ず私が森に暮らすようになった経緯から…」
とローニャは森に捨てられてから、三年間の出来事を話た。
話をしている最中、話を聞いた者たちは様々な反応を示した。時に怒りを顕にし、時に恐怖を示す者も居た。そしてある程度話し終えると、場が一瞬静寂に包まれた後国王が口を開いた。
「子供とは思えん人生を送ったのだな…よくぞここまでで生きていてくれたな」
「あ…いえ…運が良かっただけです…」
「だとしてもだ。それにしても何故其方の父親はそのような事を?」
「私にも…さっぱり…」
「ふむ…ローニャよ其方の親はどのような者なのか教えてくれるか?」
「えっと…そうですね…私の母はとても優しい人で、家族の為に何時も働いていました…その上で私に色々勉強を教えてくれたり、裁縫も教わりました。対して父は働かず何時も家に居ました。そのくせ母に命令はばかりしていて…何時もお酒を飲んでは酔っ払って、私や母に暴力を浴びせてくるような人でした。」
ローニャの話に国王達が絶句した。
「そうか…そこでも苦労していたのだな…」
「酷い話ですね…特に父親が…」
「母によれば…父は元々優しい人で…よくは知りませんが何か大きな仕事をしていたと聞きました」
「そうなのか?だが、だとしてもその父親は何か処罰を与えねばならん。もし王国内で見付けた場合その者は拘束させて貰うが…悪く思わないでくれ。」
「はい…」
ローニャよ話が終わると扉からノックが聞こえ、召使いが部屋に入って来た。召使いはローニャの席の横に立ち小さな豪華な箱を開けた。そこにはとても綺麗な青い宝石のような指輪が入っていた。
「さて、待たせてしまったな。ローニャよ其方にそれを授けよう。」
と言って国王がそう言うとローニャはその綺麗は指輪を受け取り、不思議そうに眺めている。
「それは【身代わりの指輪】と言ってな。着用者が命に関わる怪我を負った時、その指輪が瞬時に強力な【回復魔法】を発動し着用者を一度だけ護ってくれる。付けてみるといい。」
ローニャは国王の言葉を聞き指輪を指に通した。その瞬間。ローニャの指よりも大きかった筈の指輪は、ローニャの指にピッタリと填まるように大きさを変えた。ローニャはそれにとても驚いて少し跳び跳ねた。
「はっはっはっ!驚いたろ。どうだ?気に入ったか?」
「はい…」
ローニャは少し微笑みながら返事をした。
「さて!此度はこれでお開きとしよう。ローニャよ改めて子供らを救ってくれた事、感謝する。」
と国王はローニャに頭下げた。
「あ…いえ…その…こちらこそありがとうございます…」
とローニャも頭を下げた。
その後、国王との話し合いを終え、互いに別れを言い、ローニャ達は城を出た
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