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第三章 公爵家の真実
59 意気込み
しおりを挟むパーティーの日は着実に迫っていた。
屋敷は綺麗に飾り付けられて、イボンヌは新しい伯爵家のイメージに似合わないという理由から、何人かの使用人をクビにした。彼女の城が築かれるのもきっと時間の問題だろう。
イーサンは変わらず週末だけ思い出したように私の夫を演じてくれている。夜の誘いをのらりくらりと躱していても文句を言われないのは、アマンダのお陰なのだろうか。だとしたら私は、感謝すべきなのかもしれない。
「ジャンヌ……元気がないな?」
心配そうな父ダフマンの声に、私は顔を上げた。
今日は久しぶりに休暇が取れたという父に誘われて、私たちは昼食を食べに外に出ている。ざわざわとした人混みの中で、答えるべき言葉を探す。
「週末にヘルゼン伯爵家で大きなパーティーがあるので、緊張しているんです。普段お目に掛からないような方々がたくさんいらっしゃるから……」
「お前が身構えることはない。きっとヘルゼン伯爵夫人が良いように紹介してくれるはずだ。私たちは主役ではないのだから、気負う必要はないさ」
「………そうでしょうか」
大丈夫だ、と安心させるように父は私の背中を優しく叩く。並んで座ったカウンターの席で、私はこっそりと周囲の様子を伺った。
「お父様、パーティーの日に少しお話があります。伯爵からの挨拶が終わったら、私の部屋でお会いできますか?」
「お前の部屋というのは、伯爵家の?」
「はい。一階の突き当たりのお部屋です。赤い花のリースが掛かっているから分かるかと」
「分かった。何か伯爵たちには打ち明け難い話があるんだな。お前の生活ぶりも知りたいから、その時間になったら部屋まで行こう」
ありがとうございます、と私は笑顔を浮かべた。
これで準備は整ったということになる。
運ばれて来た紅茶に口を付けながら自分のやるべき事を頭の中で考えていると、先日聞いた人工毛皮の仕入れの件を思い出した。宝石店の店員曰く、ペチュニアはすでに発注を掛けているそうで。
私は再び父に向き直る。
「あの……最近何か大口の注文をしましたか?」
「え?何の注文だって?」
「いえ、お義母様が商会で新しいものを売り始めるからと張り切ってらっしゃったので。どんな商材なのか気になっていただけです」
「変だなぁ。商会で扱うものはすべて台帳に記載があるはずだ。私が三日前に見たときにはそんな動きはなかったんだが……」
詳しく話を、と父が切り出したところで私たちの前にパスタの皿が到着した。美味しそうなバジルの香りに私は笑みを漏らす。
「すみません、聞き間違えかもしれません。今日はせっかくのお父様との食事ですし、まずは目の前のご馳走を楽しみます!」
「はっはっは、いつものジャンヌが戻って来たな!お前はそれで良い。元気な姿を見たら私も安心するよ」
さぁ食べよう、と嬉しそうにフォークを手に取る父親の姿を横目に私はほっと息を吐いた。
会長補佐として経理関係の仕事をごっそり任されている父が知らないということは、ペチュニアが個人的に出資して動いているという意味。もちろん、実際に仕入れたものを販売するとなると、商会として色々な問題が発生しそうだが。
そんなのはもう私にはどうだって良い。
ヘルゼンの問題に、頭を悩ます必要はない。
「あ、そういえばお父様。もしも頭痛などで薬が欲しくなってもアマンダには尋ねないでください」
「それはまたどうして?アマンダは医学を学ぶ身だぞ」
「彼女、以前勤めていた病院の薬をくすねていたみたいなんです。お父様から伝えるとショックを受けると思うので、私から注意しますね」
「なんと……そんなことがあったとは、」
驚いて目を泳がせる父ダフマンを私は「大丈夫ですよ」と励ます。
「何か理由があったはずです。きっと、私たちを思ってのことなので、どうかこの件は私に任せてくださいませ」
「そうだな………頼むよ、ジャンヌ」
「あ、それとこれを預かってほしくて」
私は背を丸めて鞄から小さな四角い箱を取り出した。テーブルの上に置くと、父は不思議そうにそれを観察する。
「結婚式の日にアマンダにいただきました。落ち込んだ日に開けてほしいと言われたのですが、気になってこの前開けてしまって…… よく分からなかったのでお父様の方でも確認してもらえますか?」
「あぁ。分かったよ」
私は意気消沈する父親の隣で頷いて、再び自分の皿の方へと向き直った。
美しい秋も過ぎ去って厳しい冬はもうすぐそこまで来ている。パーティーに向けて、ヘルゼン伯爵家の意気込みは十分に高まっていることを私は知っている。
最高のパーティーになれば良い。
皆の記憶に刻まれるような、素晴らしい夜に。
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