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心の裂け目 3
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「スイちゃんにヒドイことしないで」
突然、大声で叫んでニコが男の手をスイから引きはがした。
「お金なら払うから、ミナも返して!」
ニコは普通の女子高生だ。本当は情報屋なんて胡散臭いことをするような子ではない。頭がいい子だから危険を回避できていただけで、修羅場をくぐっているわけでもない。
だから、きっと、なけなしの勇気を振り絞っているんだろう。そばにいるスイには彼女の細い指先が震えているのが分かった。
しっかりしろ。
女子高生に助けられてどうする。
自分自身を叱咤する。それから、大きく深呼吸をして、ニコの腕を引いて背中に隠した。
「スイちゃん……」
「悪いな。どうかしてた」
心配そうに見つめる顔にぎこちない笑顔を返す。せめて、この少女だけは守らないと。と、覚悟を決めた。
「『ミナを返して』か。俺は別に構わないけど? お前、どうなんだ?」
にやにやと厭らしい笑いを浮かべて、男はまだ半開きになったままの右側のドアの奥に話しかける。
「ホント嫌な子……」
ドアの奥から姿を見せたのは派手な女だった。明るい髪色に濃い化粧。胸元の大きく開いた服。かつ。と、音を立てる高いヒール。けれど、その顔には見覚えがある。
「ミナ……」
ニコに渡された写真の面影がそこには確かに残っていた。
「無事だったんだね。よかった」
よくはない。
と。スイは思う。
ニコは頭のいい子だ。お嬢様学校であると同時に県内でもトップクラスの進学校で、さらにトップにいるような頭脳の持ち主だし、その使い方を心得ている。ようは頭の回転が速い。
それなのに、まだ、目の前の矛盾から目を逸らそうとしている。
「そういうのウザい」
ぼそり。と、ミナが呟く。
こうなることが、スイにはわかっていた。
拘束されているのにスマートフォンを持っていることも、拘束されてから数日以上経過しているのに充電が切れていないことも、拘束されて連れてこられたにしては、あの分かりにくい通用口の説明が何度も通っているみたいに詳しいことも、両親ではなく非力な少女に助けを求めたことも、矛盾はいくらでも指摘できた。
「ミナ……?」
できれば、ニコを友人とは会わせたくなかった。スイにはすべてが分かっていたからだ。彼女が必死で助けようとしていた友達が彼女を罠にはめようと電話をかけてきたのだと、気付かせずに解決出来たらいいと思っていた。
「な? 帰りたくないっていうのに返すのは可哀想だろ?」
ぐい。と、ミナの肩を見せつけるように抱いて、井上は言った。
「今月『キャスト』足りないからさ。友達紹介してよって言ったら、ニコちゃんのこと紹介してくれたんだよね」
ちゅ。と、ミナの髪にキスをすると、ミナは一瞬、ニコから目を逸らして井上の胸に手を回して縋りついた。
「ね。この子ならいいでしょ? 私が『キャスト』やる必要ないよね? たっくんの彼女でいてもいいよね?」
媚びるような猫なで声でニコの友人だった女が言う。
「……なんで?」
「ニコやめろ。分かってるだろ」
なおも信じようとするニコをスイは制した。
突然、大声で叫んでニコが男の手をスイから引きはがした。
「お金なら払うから、ミナも返して!」
ニコは普通の女子高生だ。本当は情報屋なんて胡散臭いことをするような子ではない。頭がいい子だから危険を回避できていただけで、修羅場をくぐっているわけでもない。
だから、きっと、なけなしの勇気を振り絞っているんだろう。そばにいるスイには彼女の細い指先が震えているのが分かった。
しっかりしろ。
女子高生に助けられてどうする。
自分自身を叱咤する。それから、大きく深呼吸をして、ニコの腕を引いて背中に隠した。
「スイちゃん……」
「悪いな。どうかしてた」
心配そうに見つめる顔にぎこちない笑顔を返す。せめて、この少女だけは守らないと。と、覚悟を決めた。
「『ミナを返して』か。俺は別に構わないけど? お前、どうなんだ?」
にやにやと厭らしい笑いを浮かべて、男はまだ半開きになったままの右側のドアの奥に話しかける。
「ホント嫌な子……」
ドアの奥から姿を見せたのは派手な女だった。明るい髪色に濃い化粧。胸元の大きく開いた服。かつ。と、音を立てる高いヒール。けれど、その顔には見覚えがある。
「ミナ……」
ニコに渡された写真の面影がそこには確かに残っていた。
「無事だったんだね。よかった」
よくはない。
と。スイは思う。
ニコは頭のいい子だ。お嬢様学校であると同時に県内でもトップクラスの進学校で、さらにトップにいるような頭脳の持ち主だし、その使い方を心得ている。ようは頭の回転が速い。
それなのに、まだ、目の前の矛盾から目を逸らそうとしている。
「そういうのウザい」
ぼそり。と、ミナが呟く。
こうなることが、スイにはわかっていた。
拘束されているのにスマートフォンを持っていることも、拘束されてから数日以上経過しているのに充電が切れていないことも、拘束されて連れてこられたにしては、あの分かりにくい通用口の説明が何度も通っているみたいに詳しいことも、両親ではなく非力な少女に助けを求めたことも、矛盾はいくらでも指摘できた。
「ミナ……?」
できれば、ニコを友人とは会わせたくなかった。スイにはすべてが分かっていたからだ。彼女が必死で助けようとしていた友達が彼女を罠にはめようと電話をかけてきたのだと、気付かせずに解決出来たらいいと思っていた。
「な? 帰りたくないっていうのに返すのは可哀想だろ?」
ぐい。と、ミナの肩を見せつけるように抱いて、井上は言った。
「今月『キャスト』足りないからさ。友達紹介してよって言ったら、ニコちゃんのこと紹介してくれたんだよね」
ちゅ。と、ミナの髪にキスをすると、ミナは一瞬、ニコから目を逸らして井上の胸に手を回して縋りついた。
「ね。この子ならいいでしょ? 私が『キャスト』やる必要ないよね? たっくんの彼女でいてもいいよね?」
媚びるような猫なで声でニコの友人だった女が言う。
「……なんで?」
「ニコやめろ。分かってるだろ」
なおも信じようとするニコをスイは制した。
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