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Internally Flawless
24 恍惚 2
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「大井の孫、一久が管理している有限会社大東亜商船って、エロサイト。そこの公式LINEアカウントで情報交換してたんだろ? 大井や、真鍋、それから、顧客とも」
その名前にケンジがまたぴくりと反応する。
掲示板は簡単な暗号で書かれた文書だったが、暗号解読が趣味と言っていいスイにとっては普通の文書を読むのと殆ど大差なかった。
「登録しているIDは全部解析させてもらった」
もちろん、IDは正規の方法で解析したわけではない。もちろん、LINEのメッセージだって登録せずに外から見られるものではない。ナオに『アウト』と言ったのはこの情報だ。
飲んでいる時にケンジがマンションの部屋を借りていると言っていたことから、田川通りと神崎通りの交わるあたりの賃貸マンションの所有者と、賃貸契約者を徹底的に調べた。その中にケンジの名前を見つけたことから、スポンサーが大井である可能性を調べ上げて、大井一久に辿り着いたのだ。
「オーナーにはね。感謝してるよ。あの馬鹿の孫を可愛がっていなきゃもっといい人なんだけど。おかげであいつのモデル食いのしりぬぐいまでこっちがやらされて……いい迷惑。でもさ。結果的にはいい目くらましになったかな? スイさんもまさか別口とは思わなかったでしょ?」
大井一久は、ホールのオーナーである大井一豊の孫であり、あの倉庫の管理人、つまりモデルたちを監禁して、スイを襲った男だ。もちろん、それを知っていて大井一久を調べたわけではない。襲われるまでは話しもしたことはない。ただ、倉庫の管理人であると初日の挨拶を聞いた程度だ。名前も、今日あの男を逮捕したセイジに教えられて知ったし、そこで初めて、大東亜商船の管理人、つまりオーナー大井一豊の孫が祖父の所有物である倉庫の管理人として働いていたのを知った。
けれど、一方で昨夜不意に不安になったのだ。もしかしたら、この事件はひとくくりで考えてはいけないのではないかと。それは、大東亜商船の掲示板や、ケンジのPCを調べていて思ったことだった。結果から言えば、掲示板にもPCにもモデル側の被害者の名前が全く出てこなかったのだ。もしかして、それらの人物は商品ではなかったのではないのか。
確かに失踪はごくごく近い場所で起こっている。けれど、そこに関連性を見出すことができない。それもそのはずだった。犯行グループはごくごく近しい者同士だったのだが、その目的は完全に別のものだったのだ。それも、結果的には解決が遅れてしまった理由の一つだと思う。
「最悪、あいつに罪を押しつける気だったんだろ? だから、危険でも野放しにした。でも、仲間に加えることもなかった」
スイの言葉にケンジが首を竦める。その通りだと言っているのだ。
「それから……melancholy_of_venusだっけ? タウンナビの公式ツイッターアカウント。そこで仲間探してるんだろ? バイトに誘ってさ。使えそうな奴だけ引きこむ。それだけじゃない」
スイは言葉を切った。ふと、窓を見ると外は光の海で、きらきらと街が輝いている。
その中に一つ。小さな光を見つけた。
「君が岬直人に出会った場所だろ。そして、あのバイトに誘われたきっかけ。恐ろしいな。君を引き入れたナオトはそのあと商品になったの? それとも、犯人グループの誰かに飼われてるの? 霧島由香利も。綺麗なコだったんだって?
あとは……高橋瑞樹? 松原舞? 西本一馬?
お前らは仲間を探しながら……商品も探してるんだよな」
この事件の恐ろしいところがそれだ。
被害者であったはずの真鍋凛は加害者になった。
岬直人、霧島由香利。この二人は数か月前に行方不明になった。おそらく、商品にされたのだろう。ナオトは紫の髪に緑の瞳。キリシマは青い髪と紫の瞳で、二人とももともとモデルを目指していた。身長が足りないために断念したが、かなりの美形だったらしい。
ほかに名前を挙げた三人も含めて、彼らはもともとは商品として、キングスクラウンのショーの仕事に参加していたわけではない。彼らは商品でありながら『従業員』つまり、犯人グループの一員でもあった。
この事件は被害者と加害者の線引きが恐ろしく曖昧なのだ。
その名前にケンジがまたぴくりと反応する。
掲示板は簡単な暗号で書かれた文書だったが、暗号解読が趣味と言っていいスイにとっては普通の文書を読むのと殆ど大差なかった。
「登録しているIDは全部解析させてもらった」
もちろん、IDは正規の方法で解析したわけではない。もちろん、LINEのメッセージだって登録せずに外から見られるものではない。ナオに『アウト』と言ったのはこの情報だ。
飲んでいる時にケンジがマンションの部屋を借りていると言っていたことから、田川通りと神崎通りの交わるあたりの賃貸マンションの所有者と、賃貸契約者を徹底的に調べた。その中にケンジの名前を見つけたことから、スポンサーが大井である可能性を調べ上げて、大井一久に辿り着いたのだ。
「オーナーにはね。感謝してるよ。あの馬鹿の孫を可愛がっていなきゃもっといい人なんだけど。おかげであいつのモデル食いのしりぬぐいまでこっちがやらされて……いい迷惑。でもさ。結果的にはいい目くらましになったかな? スイさんもまさか別口とは思わなかったでしょ?」
大井一久は、ホールのオーナーである大井一豊の孫であり、あの倉庫の管理人、つまりモデルたちを監禁して、スイを襲った男だ。もちろん、それを知っていて大井一久を調べたわけではない。襲われるまでは話しもしたことはない。ただ、倉庫の管理人であると初日の挨拶を聞いた程度だ。名前も、今日あの男を逮捕したセイジに教えられて知ったし、そこで初めて、大東亜商船の管理人、つまりオーナー大井一豊の孫が祖父の所有物である倉庫の管理人として働いていたのを知った。
けれど、一方で昨夜不意に不安になったのだ。もしかしたら、この事件はひとくくりで考えてはいけないのではないかと。それは、大東亜商船の掲示板や、ケンジのPCを調べていて思ったことだった。結果から言えば、掲示板にもPCにもモデル側の被害者の名前が全く出てこなかったのだ。もしかして、それらの人物は商品ではなかったのではないのか。
確かに失踪はごくごく近い場所で起こっている。けれど、そこに関連性を見出すことができない。それもそのはずだった。犯行グループはごくごく近しい者同士だったのだが、その目的は完全に別のものだったのだ。それも、結果的には解決が遅れてしまった理由の一つだと思う。
「最悪、あいつに罪を押しつける気だったんだろ? だから、危険でも野放しにした。でも、仲間に加えることもなかった」
スイの言葉にケンジが首を竦める。その通りだと言っているのだ。
「それから……melancholy_of_venusだっけ? タウンナビの公式ツイッターアカウント。そこで仲間探してるんだろ? バイトに誘ってさ。使えそうな奴だけ引きこむ。それだけじゃない」
スイは言葉を切った。ふと、窓を見ると外は光の海で、きらきらと街が輝いている。
その中に一つ。小さな光を見つけた。
「君が岬直人に出会った場所だろ。そして、あのバイトに誘われたきっかけ。恐ろしいな。君を引き入れたナオトはそのあと商品になったの? それとも、犯人グループの誰かに飼われてるの? 霧島由香利も。綺麗なコだったんだって?
あとは……高橋瑞樹? 松原舞? 西本一馬?
お前らは仲間を探しながら……商品も探してるんだよな」
この事件の恐ろしいところがそれだ。
被害者であったはずの真鍋凛は加害者になった。
岬直人、霧島由香利。この二人は数か月前に行方不明になった。おそらく、商品にされたのだろう。ナオトは紫の髪に緑の瞳。キリシマは青い髪と紫の瞳で、二人とももともとモデルを目指していた。身長が足りないために断念したが、かなりの美形だったらしい。
ほかに名前を挙げた三人も含めて、彼らはもともとは商品として、キングスクラウンのショーの仕事に参加していたわけではない。彼らは商品でありながら『従業員』つまり、犯人グループの一員でもあった。
この事件は被害者と加害者の線引きが恐ろしく曖昧なのだ。
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